それから南極がその場を収拾してくれたので、俺はおさかな洞に戻ることにした。
 茶色い犬が――ついてきた。

「なぁ天帝……お前は帰らないのか?」
「南極は、余の面倒を見るようにと貴様に言ったぞ。余は空腹だ」

 当然だというように言われた。
 え、嘘だろ……。この日、初日同様、天帝は洞府までついてきた。なんということだ。

「あれ……」

 洞府に戻った俺は、師匠が出迎えてくれなかったので、思わず首を傾げた。
 何かあったのだろうか。もしかしてまだ意識が戻らないのだろうか。
 天帝と二人、急いで中に入る。

 そして俺は、肩を落として溜息をついた。半分は安堵だったけどな。

「おかえり」

 リビングに師匠はいた。しっかりと目を覚ましていて、正面には珈琲のカップがある。

 さてそんな師匠の膝の上には、灰色の猫――混沌氏もいたのである。なるほど。膝の上に猫がいたから、師匠は動けなかったのだろう。迎えに出られないわけだ。師匠は優しいのだ。意識が戻って良かったと思うと同時に、「時空間術で帰った」って、ここにか……と、叫びたくなった。

「どこに行ってたの? なんか俺、お昼寝しちゃったみたいだ」
「昼寝……」

 俺が空笑いしそうになっている前で、猫が師匠の指を舐めた。
 見ていると可愛いのだが、中身はふてぶてしいんだからな……。しかし師匠に気づいた様子はない。師匠は変なところでお人好しなのだ。

「飼おうかなぁ」

 師匠が俺の反応を、窺うように言った。もう飼ってるようなものだろうが。
 辟易していると、犬がソファの上にのった。

 その時、師匠が椅子の上に猫を置いて立ち上がった。猫は師匠の後に付いていく。なんだかひとりぼっちの犬が少し寂しそうにみえて、俺は手を伸ばした。撫でてやった。

 そこへ師匠が戻ってきた。犬の餌を持っていた。師匠が床に皿を置くと、嬉しそうに犬が飛び降りる。そう言えば、お腹がすいたと言っていたな。師匠もよく分かったな。犬は、師匠の前では人の言葉を話す様子はない。それを眺めていると、師匠が俺を見た。

「その仔の名前は決めたの?」
「え……あ、て、天帝?」
「恐れ多い名前だね」

 反射的に告げた俺に対して、師匠が楽しそうに笑った。
 猫を再び抱きかかえている。

「じゃあ、この子は混沌にしようかな」

 そんな師匠がちょっと可愛く思えた。毒気が抜かれてしまう。

「――犬も飼って良いのか?」
「勿論だよ」

 こうして、おさかな洞には住人が増えた。それにしても、この二人(?)、いつまでいるんだろう。そもそも何をしに来たんだろう?

 なお、それに伴い、師匠が俺を出迎えてくれる頻度は減った……。『混沌』が、師匠の膝の上を独占しだしたからだ。師匠はそれこそ猫可愛がりをしている。デレデレだ。

 後日、南極に会った時に言われた。

「今回はさぁ、天帝&環VS混沌だったけど、混沌と森羅がタッグを組んでたら大変だったよね」
「不吉な事、言うなよな……」

 まぁそんなこんなで、おさかな洞は今も平穏である。

 ちなみに俺は最近、『天帝』と一緒にベッドで眠っている。
 断言して、師匠が取られて寂しいからではない。