一方の五格からは、三人が立候補している。
 立候補しなかったのは、黒耀様と磊落様だ。
 黒耀様は、燈焔様の応援演説をするそうだからな。燈焔様が教主様になることを願っているようだ。嬉しそうに演説を引き受けていた。もっと言うならば、燈焔様が教主戦に出る以上、対等な立場といえるライバルにはなりたくなかったらしい。彼にとって燈焔様は、永遠の上司なのだという。

 なお五格は、五格上三人と五格下二人にわかれている。
 まずは五格上。

 ろうそく山師走洞の燈焔様は、火の最高の使い手で和仙界一と言われている。
 青鼠の師匠だ。南極いわく『熱血腹黒』だ。底怪退治では慈覚様の次に存在感がある。
 ちなみに燈焔様の次に底怪退治で目立つのは、一応あれでも唯乙様だったりするのだ。黒耀様は、もっと全般的だからな。
 他に燈焔様は、鍛錬場の管理なども行っているそうだ。
 黒耀様は燈焔様を尊敬しているらしい。理由は、燈焔様は四行火がより得意なだけで、体術も黒耀様に勝るとも劣らないらしいからだ。すごい腕前なんだとか。

 次が、たつまき山皐月洞の玉藍様だ。和仙界のお医者さんの代表とも言える。医師会の代表よりも技術も知識もすごいそうだ。
 俺の同期の朱李の師匠だ。南極の評価は、『医学馬鹿』である。俺も間違っていないと思う。穏やかな人だが、黒耀様とは度々口喧嘩をしている。喧嘩と言えば、唯乙様と南極の方が激しいけどな……。

 玉藍様と燈焔様と、学校の愉楽先生は同期だそうだ。全員同じくらいの見た目である。

 最後の一人が、磊落様だ。
 ながるる山神無月洞の洞主だ。
 第二総務の事務官で、寡黙。ようするに、唯乙様と一緒に働いているのだ。
 地の一番の使い手だと評判である。
 あんまり話したことはないが、五格の中で、一番老けて見える。慈覚様よりも年上の、三十代前半くらいの外見をしているだ。ちなみに慈覚様の前の代、学校の一期生だったらしい。初の卒業生だと聞いた。師匠も、面識があると言っていた。教え子らしい。師匠はそんなに昔に先生をしていたのか……。
 この磊落様も、今回教主に立候補しなかった。理由は不明だ。

 そして五格には、五格下として後二人いる。
 それが、黒耀様と白夜様だ。

 黒耀様は、ろうそく山葉月洞の洞主だ。
 燈焔様は除くとして、黒耀様は和仙界一の体術の使い手だと言われている。そもそも彼本人以外は、燈焔様の体術をすごいとは言わないし。
 なんでも具術――宝貝術は、正直いらないと思ってるらしい。
 なのに弟子の深愁が宝貝大好き人間だから不思議だ。しかも深愁は天才的な開発者だしな。学徒道士なのに、『砦の西』に時折呼ばれているらしいし。
 そうは言っても、そもそもこの和仙界では宝貝よりも体術や仙術が主流だけどな。
 黒耀様が言う、「誰も宝貝なんか開発してないだろ!」との声は、あながち間違いでもないのだ。
 彼は先にも述べたが、底怪対策本部の事務官で、底怪対策のエキスパートだ。
 ちなみに俺の幼少時――あの懐かしき授業参観の頃は、燈焔様が、今の黒耀様の立場だったらしい。あの当時の黒耀様は、あんまり底怪に詳しくなかったと後で聞いた。

 もう一人は、白夜様だ。すいか山霜月洞の洞主である。
 この人は、すごい。エリート中のエリートだ。
 和仙界で生まれ育った仙人道士の子供、だからだけではない。
 血術の一番の使い手だということにも納得がいく。
 それだけ特殊な能力の持ち主らしいのだ。

 基本的に血術は、一人につき、一つしか使えない。特化するのだ。

 しかし白夜様は、四つも使えるのだという。
 第一に、教主様の血を引く一族である、『ときわ一族』の手血がまで使えるという。大変貴重な血術なのに。これは泰岳と同じものだ。ただ、泰岳の方が純粋な能力を使えると聞いたこともあるが。
 また、俺は知らなかったのだが、朱李は亡くなった両親が仙人だったらしい。本人も最近まで知らなかったそうだけど。そしてなんと朱李もエリートだったのだ。その上彼の能力は、朱李の他には、白夜様しかもう残っていない癒血、『にわ一族』であるという。白夜様のお母さんが、にわ一族の出だったそうだ。
 ちなみに白夜様、父方のお祖母さんが、三大老の一人である祀傳様と同じ一族の『まつり一族』で、祭祀の一族らしい。こちらは血術というよりも、天帝院に入ることが許されている点で、非常に特別な一族だ。代々かなり強い仙気を持っているそうだ。
 また母方の祖母は、『さきみ一族』なのだという。三大老の一人である北烙様の一族と同じだ。預血の一族である。
 さらに母方の祖父は、醒宝様の『あやめ一族』の出だったそうだ。よって時空間術を行使する鏡血も使えるそうだ。
 白夜様は、和仙界の生え抜きである。
 警務部の事務官として人望も名声もあり、今回の教主戦において慈覚様の間違いないライバルだ。むしろろ俺には一番の強敵にみえる。白夜様の応援演説は、北烙老がするらしい。

 さて十二玉仙の残りの三人は、三大老だ。
 歴史の生き字引……生き証人達だ。

 醒宝老は、俺の兄弟子とも言える。南極の紹介で森羅様に直接の手解きを受けたのだ。だから今回、その縁もあって、慈覚様の応援演説をしてくれるのだろう。見た目は好々爺である。時空干渉の術の手練れだ。血術自体も時空間術だが、他の四行五術を用いる際も、様々な空間や時間を操ることが出来るらしい。あやめ一族の前族長だったと聞いた。引退したそうだ。
 おじいちゃんにしか見えないが、師匠の弟子なんだよな……。
 すいか山文月洞の洞主だ。燈焔様と玉藍様は、醒宝様が好きじゃないみたいだ。昔、醒宝老は、あの二人の上司だったらしい。
 その二人の話によると、この老人は子供には優しいそうだ。また、学校が出来る前に、最上仙になったと聞いたことがある。

 次が、北烙老だ。ながるる山水無月洞の洞主だ。この人も、おじいちゃんだ。
 一番、一の院によく顔を出している仙人だ。自分の担当でない日もいるのだ。一ヶ月の内、十日以上いる。そもそもあそこに行く人は、北烙様に会いに行く人が多いのだ。
 北烙様の『さきみ一族』は、予知の術を持っているのだ。特別な血術だ。
 一説には、天界の書物を読んでいるなんて言われる、生まれつき大なり小なり天数が見える人々だ。勿論太鼎教主様の弟子だが、実際には、南極に四行五術を習ったという。彼らも見た目は逆なんだけどな……。南極の方が、どう見ても若いのだ。
 この人も、学校が出来る遙か以前から最上仙だったらしい。
 まあ人々は占いに並ぶ気持ちで一の院の北烙様に会いに行くらしい。

 最後の一人が、『まつり一族』で、現在も族長を務めている祀傳様だ。
 俺は彼が一番すごいと感じる。どこからどう見ても、俺より若いのだ。子供にしか見えない。十二歳くらいなのだ。初めて見た時、奇染とそっくりだと思った。髪の色も目の色も同じだ。ただ髪の長さは、奇染より短い。奇染よりも、さらに若いしな。
 ただ実際の年齢は、三大老の中で一番上らしい。
 和仙界ができた少し後に、太鼎教主様に誘われて昇仙し弟子になったのだという。
 元々、人間界で天帝を奉っていたらしい。
 そういう一族に生まれて、幼い頃から、莫大な仙気を持っていたそうだ。

 ここまでが十二玉仙だ。
 なんでも山を同じくする三洞府ごとの集まりもあるらしい。
 彼らが睦月洞から師走洞までの洞主でもある。

 こうして考えると、教主戦一つとっても、和仙界のことについて深く知るきっかけになる。改めてみんなの顔を、思い浮かべる機会になった。

 それから俺は、仕事に打ち込んだ。

 さて、ようやく仕事が終わった。
 ここのところ働きづめだったんだよな。
 明日は久しぶりの休日だ。今夜はゆっくり休もう。

 そう思って、ぐるぐる山に入ろうとした時、入り口で、茶色い胴長の犬を見つけた。
 小さいが……体が長いのだ。

「これも霊獣か……?」

 和仙界で犬を見たのは、初めてのことだった。
 俺が山に入ると、なんと犬も入ってきた。俺の足に鼻をくっつけて、入ってきてしまったのだ。俺と一緒だったから、結界を通過できたのだろう。

 ぐるぐる山は、この日も雨だった。冬なのにな。
 四行の風で、頭上にみえない空気の壁を作り、俺は歩く。すると犬もついてきた。

 そのまま坂を登りきった。結局、洞府まで犬はついてきてしまった。
 どうしようかな……。
 洞府の前には、師匠が傘を持って立っていた。

「師匠、犬がついてきちゃったんだ」
「わー、ミニチュアダックスみたいだ。可愛いなぁ。この仔は、間違いなく毛が長いね」

 ミニチュアダックスとはなんだろうか。よく分からないが、犬の種類かもしれない。
 師匠が玄関の扉を開けたので、俺は中に入った。
 すると、当然のように犬もついてきた。

 猫の姿が、本日は見えない。

 リビングに入ってから、俺はしかたなしに、犬の毛をふいてあげた。ちょっとだけ濡れていたのだ。

 そこへ、どこから用意したのか、餌を持って師匠が戻ってきた。
 犬が勢いよく師匠の足下に走る。それを見て、師匠が微笑して手を動かした。

「待て」

 ピタリと犬の動きが止まる。師匠は餌を手に持ったまま、『待て』を教え込んだ。
 なにやってるんだよ。しかし師匠は楽しそうだ。それから餌をあげていた。
 次に俺の餌……夕食がやってきた。

 さて食後。やはり本日は猫の姿が見えない。しかし師匠は犬に夢中だ。

「お手」

 楽しそうに、しつけをしている。俺が見ている内に、その日犬は、『お手』と『おすわり』も覚えた。師匠って動物が好きだったのか。

「師匠、猫は?」
「俺の部屋で寝てるよ」

 そんなこんなで、俺達も就寝することにした。