”ネコ缶”の帰宅とデート(※?)




 京都からナナキを連れ帰ってから、”ネコ缶”は定時に帰るようになった。
 ”夜”の世界が訪れる直前には、必ず。
 ――それがナナキの心配故なのか否かは、最近分からなくなっている。

「あ、おかえりなさい」

 そういって黒いエプロンを着けたナナキが振り返る。
 キッチンには、味噌汁の良い匂いがした。

 これが、胃袋を掴まれるという奴なのかもしれないな、だなんて考えて”ネコ缶”は苦笑した。ナナキは、自宅でこそレトルトで済ませていたらしいが、定食屋さんでバイトしていただけはあり、厨房にいたこともあるそうで、料理がそれなりに上手いのだ。

 その手作りご飯を食べたくて帰宅しているのか、守りたくて帰宅しているのか。
 多分両方なのだろうなと、”ネコ缶”は思う。

「今日は何だ?」

 ネクタイを緩めながら、席に着く。
 すると麦酒の前に、水を一杯差しだしてくれながら、ナナキが笑った。

「節約です」

 そう言って出てきたのは、味噌汁と三食そぼろ丼、漬け物だった。
 嵯峨には、どの辺りが『節約』なのか分からない。

 ただ――漬け物に関しては、安堵していた。てっきり、歳を取ったから、酒のツマミに欲しくなるのかと思っていたら、寧ろナナキの方が好きらしいのだ。今日は、白菜の漬け物だ。

 これまで、三食まともに食事をすることなく、昼のみその辺の定食屋――富士そば、やココイチで早食いできそうな物ばかり食べていたので、なんだか、心地が良い。

 一食に食べる量も自然と減ったから、太ることもないだろう。

 ましてや、日常の暇な警察での空き時間には、銃の訓練をしているか、筋トレをしている日々なのだ。

 水を飲み干した嵯峨の前に、麦酒の缶を持ってナナキが座った。
 自然と視線を合わせて、二人で手を合わせる。

「「いただきます」」

 そうするのが、もう、自然で当然な事になっていた。それが、嵯峨には心地良い。
 嵯峨が無意識に空になったコップを差し出すと、ナナキが麦酒を注いでくれる。
 それに口を付けながら、嵯峨は微笑した。

 ――あるいは、これが、”幸せ”と言う名前をしたものなのだろうか?

 コップを置き、箸を手に取る。
 一口食べただけで、そぼろのおいしさが分かる。
 手作りの料理など、食べたのは何時以来なのか。思案するが、思い出せない。

「美味いな」

 何でもないことのように、ポツリと、表情を変えずに嵯峨が言った。
 いつも通りの気怠い眼差しだった。

「本当ですか?」

 しかし、その言葉だけで、どうしようもなく照れてしまうほど、ナナキは嬉しかった。

 口にこそ出さないが、いつもいつもいつも、嵯峨が気に入ってくれるだろうかと考えながら、その日の食事の内容を考えているのだ。

「ああ」

 短く頷いた嵯峨は、そんなナナキの心境など知らない。

 ただ、ふと考えることがあった――ナナキの、兄が、ナナキを好きだという趣旨の発言をしたことだ。自分とナナキには血縁関係も、その他の何の契約もない。ただの口約束しかないのだ。麦酒を口に含みながら、改めてナナキを見据える。

 ――だが、渡す気はないし、この料理を作ってもらえるのも、今となっては基本的には自分だけだ。

 そう思えば、思わず口角が持ち上がった。

「俺は、ただ仮にこの飯が不味くても、お前の作るモノなら何でも食べてやる」

 静かにそう言うと、ナナキが目を瞠った。

「え……実は美味しくないですか?」
「いや、美味い」
「良かった」

 安堵しながら、ナナキが細く息をつく。そんな姿すら、嵯峨には愛おしかった。

 それから暫し黙々と食べ完食し、まだ食べているナナキを眺めながら、嵯峨は頬杖をついた。

 ――恐らく、こういうところで育ちが出るのだろう。

 ナナキの箸使いは上手いし、食べる速度も遅い。

 特に警察官になってからは、食べられる時に食べておけ精神で、元々早かった嵯峨の食べる速度は更に上がった。別に箸使いが下手だという事はないが、別段上品という事も無い。

 だが――”リスナー”のデートの話を聞いて以来、買い物や映画だけではなく、どこかに連れて行ってやりたいと、それなりには思っていたのだ。京都には行ったが、アレは、また別だろう。観光することもなく、逃亡して帰ってきたのだから。

 食べ終わったらしいナナキが、漬け物だけを残し、碗を重ねる。

「もう一本飲みます?」
「そうだな。お前も飲むか?」
「あ、っ、じゃあ」

 何度か小さく頷いて、ナナキが箸と漬け物だけを残し、流しに碗を置いてから、麦酒を取り出した。片手で受け取り、今度は嵯峨が注いでやる。

「あ、りがとう、ございます」
「別に――」
「はい?」

 前々から言おうと思っていたことを、嵯峨は告げることにした。

「敬語じゃなくても良いぞ」
「だけど嵯峨さん――」
「ま、敬語の方が楽ならそれでも良いけどな」

 そういって、自分のコップにも麦酒を片手で注いだ。

 こんな事を言うのは何年ぶりだろうかと、手作り料理を食べた時期よりも、更に思い出せなかった。その気恥ずかしさを押し殺すように、煙草を銜える。そうして火をつけていると、ナナキもまた、煙草を銜えた。吸う頻度が違うから、時に、吸っていることを忘れそうになる。

「じゃあ、その嵯峨さんは……嫌いな食べ物ある?」
「ん?」

 首を傾げて嵯峨が顔を上げると、俯いて真っ赤な様子のナナキがいた。
 思わず苦笑が漏れた。

「そうだな。唐辛子。赤いのも青いのも、漬け物にのってるくらいなら別として、焼き鳥と一緒に出てきたりすると、まず食べない」
「そ、そうなんだ」
「お前は?」
「え、あ、僕は……うーん、銀杏かな。茶碗蒸しに入ってる奴も、たまに残す」
「じゃぁ、銀杏入りで茶碗蒸しを今度作れ」
「え?」
「俺が食べてやるよ」

 そういって喉で笑いながら、嵯峨が更に麦酒を煽った。

 真っ赤になりながら、ナナキも麦酒に口を付ける。

「所でお前、行きたいところとかあるか?」

 言いながら、嵯峨は本題を思い出した。

「え、行きたいところ? んー……それって、こう、ラクーアみたいな、意味ですか?」
「ラクーア? なんだそれ」
「あ、いや、その……スーパー? 西友? ライフ? とか、ちょっと違うけど、ドンキ?」
「……俺は知らないけどな、まだ最初の方が近い気がする。あぁ、なんだ、要するに、アレだ、アレ」

 嵯峨は麦酒を飲んで、言葉を濁した。

 ――何処にデートに行きたい?

 なんて、聞きづらい。だが、伝えなければ伝わらないはずだ。

「あー……だ、から、デート? とか?」
「え」

 そんな嵯峨の言葉に、真っ赤になって、ナナキもまた照れ隠しに、麦酒を煽った。

「う、あ、あの」

 それからコップを置き、やはり言葉を探しながら、煙草を銜える。

 ――嵯峨さんと、デート!? 何処に行けば楽しんでもらえるんだろう!?

 必死でナナキは考えたが、上手い案が出てこない。

「富士山!!」

 結果、登山を口にしてしまったナナキだった。

「は?」

 キツイ、キツイ、せめて高尾山で……と、嵯峨は眉を顰めた。

「ええと、じゃ、じゃあ、あの……が、外食!!」
「何が食いたいんだ?」
「え」

 考えたが、ナナキは思いつかない。何せこれまで、貧乏学生だったのだ。

「――その、嵯峨さんのお勧めが良いです」

 イヤ俺、富士そば、だから……と、それはそれで、嵯峨は眉を顰めた。

 登山よりはハードルが下がったとはいえ、飲食店など知らない。

 知っていそうな相手は……嗚呼、”コンポタ”は食い道楽だったなぁ、と思い出す。

「分かった。何系が良い?」
「あ……フ、レンチ?」

 マナーなどさっぱり分からなかったが、ナナキはその位しか回答を思いつかなかった。

「了解」

 嵯峨もまたマナーが分からないため、いっそ回らない寿司とでも言われた方が気が楽だった。

 そんなこんなで、二人のデート計画はスタートした。

 とりあえず、相談しようと思い、ナナキが祀理の家に行くという日に、”ネコ缶”は”リスナー”の店を訪れた。

「とりあえず――」
「はい」

 生という前に、麦酒が出てきた。

「おい、今日、祐助は来るか?」
「え、”ネコ缶”、天草先生に用事なの? それなら、クリニックに行った方が確実じゃない?」
「来ないのか?」
「いや、多分来ると思うけど」

 もうすぐ六時になろうとしている時計を、チラリと”リスナー”が一瞥した。
 一応五時が”ネコ缶”の定時だが、この時間に来るのは珍しい。

 その上、天草のクリニックは、一応7時が終了時間なのだから、来るとすれば、7時半過ぎだろう。

「……ああ、”コンポタ”に用事?」

 察して、”リスナー”が笑いながら、煮卵を半分に切ったお通しを差し出す。

「まぁな。――おい」
「何?」
「何で最近は、お通しが全部卵料理なんだ?」
「っ」

 その声に、自分用に注いだ麦酒を”リスナー”が吹き出しそうになっている。

 ――ああ、この反応は、どうせ”灯”関係か、”恋人”関係だな。

 そう思い、”リスナー”にも聞いてみるかと、”ネコ缶”は気怠そうな瞳を向けた。

「なぁ”リスナー”」
「ッげほ、な、何?」
「この辺のフレンチで美味い店知ってるか?」

 ”ネコ缶”のその言葉に、唇を片手で拭きながら、”リスナー”が思案する。

「個人店で、美味しいのは、新宿三丁目と要町にあるよ、ちょっと高級感あるのは、池袋に二軒。ま、後は、サンシャインとか駅ビルの上の方じゃない」
「デートに行くなら何処がお勧めだ?」
「ぶ」

 今度は、”ネコ缶”の口から『デート』なんて言葉が出てくるとは思わなくて、”リスナー”が吹いた。

「え、何、何? ”黒キリン”の事、連れてくの?」
「ああ」
「それさぁ、危なくない? 大学だって今さぁ、”芦屋”に見張ってもらってるんだよ? 高級な所なんかに行ったら、確実に”狐提灯”が出てくると思うんだけど」
「俺がいるんだから、何の問題もない」
「ちょ、その自信、どこから来るの?」
「愛だな」
「ぶ」

 再び”リスナー”が吹いた。
 ま、ま、まさか、”ネコ缶”の口から、そんな言葉が出るとは……!

「そう言う事ならさ、あえて京都に近いけど、新横浜とか名古屋の駅ビルに行って、アソシアにでも泊まってきたら?」
「なんでわざわざ? よく仕事で泊まるけど、別に普通だろ」
「いやいやいや、高級ホテルで、カノジョ落とすには最高って言われてるよ?」

 ”リスナー”が必死に言うと、”ネコ缶”が呆れたような顔をする。

「ナナキは男だぞ」

 そう言ってから”ネコ缶”が深々と煙を吐いた。

「まぁ、それはそうなんだけどさぁ。フレンチかイタリアンのレストランくらいあるんじゃない? 良いワインとかさ」
「別にワイン飲みに行くわけじゃないしな」
「なんなの? ムード求めてるの? それとも単純に食事求めてるわけ?」
引きつった笑顔を浮かべた”リスナー”を見据え、煙草を置きジョッキを傾けてから、”ネコ缶”が俯いた。

「ムード? なんだそれ」
「は?」
「食う時は食う。寝る時寝る。ヤる時はヤる。それじゃ、ダメなのか? んなもん、何の役に立つんだ?」
「馬鹿――!! うっわ、信じられないよ、俺!! ちょ、”ネコ缶”!! そのダサイ緑色のコートより酷いよ!!」
「うるせぇ」

 その時、扉が開き、鐘が音を立てた。

「いらっしゃい――ってかさ、聞いてよ”コンポタ”!!」

 歩み寄り、カウンター席に、”ネコ缶”から一つ席を空けて座った”コンポタ”に、”リスナー”が声をかける。

「何々?」
「あのね、”ネコ缶”がさ、ムードとか気にしないって言うんだよ! ”黒キリン”が、可哀想だよね!?」
「ほう」

 その言葉に腕を組みながら、とりあえず”コンポタ”は”ネコ缶”を眺めた。

「じゃあちょっと”ネコ缶”の気持ちになってみるから、生で」
「はいはい」

 反射的に頷き、”リスナー”が酒の用意をする。
 ”コンポタ”を見返しながら、相変わらず、”ネコ缶”は煙草を吸っていた。

「お前、祐助と飯食い行く時、気にするか?」
「うーん。わざと気にすることはあるけど、基本、僕も食べる時は食べる派なんだよね。あ、有難う」

 礼を言いつつ、麦酒を受け取りながら”コンポタ”が楽しそうに笑った。

「わざと気にする?」

 意味が分からず、ジョッキを空けながら、”ネコ缶”が首を傾げる。

「そ。でろっでろに、大切な人なんだよーって、アピールしたい時。ただこれが難しくてサァ、地味に祐助先生って実家も金持ちだし、本人もお金持ちじゃん? だから逆に、お金的にも年齢的にも行ったこと無さそうな、変わった居酒屋に連れてってるよ。例えば、ロックアップに連れてって、手錠かけて牢屋でご飯食べたり。後は、基本サプライズで誤魔化してる。ケーキだしてもらったり、店員さんに歌うたってもらったり」

 つらつらとそんな事を言いながら”コンポタ”が、ジョッキを傾けた。

「お前が日本語を喋っているのかすら分からない」

 眉を顰めて、ジョッキを飲み干し、”ネコ缶”が二杯目を要求した。
 苦笑しながら”リスナー”が差し出す。それを眺めながら”コンポタ”が続けた。

「まず、決定的に、根本的なこと決めないと始まらないと思うんだよね、僕。”ネコ缶”達と一緒で年の差あるからさ」
「根本的なこと?」
「どっちの年齢に合わせて、デートするのかって事」
「今回はフレンチに行くことになってる」
「じゃあ”ネコ缶”に合わせて、大人ムードでドキドキ計画で良いじゃん」
「なんだその俺にまで分かるダサイネーミング」
「うるさいなぁ、どうせフレンチなんて食べたこともろくにないくせに」

 馬鹿にするように”コンポタ”が”ネコ缶”を見た。
 とりあえず”ネコ缶”は”コンポタ”の頭を、銃で吹っ飛ばした。
 脳漿が散り、”コンポタ”の体が倒れる。

「ちょ、此処お店! 戦闘行為禁止!」

 はぁ、と溜息をつきながら”リスナー”が言う。ここのところ、お互いに恋人が出来たせいか大人しかったというのに……そう考えると頭痛がした。

 勿論直ぐに”コンポタ”は復活した。

「ほら、怒るって事は図星じゃん」
「次は何処を撃たれたいんだ?」

 失笑している”コンポタ”と、気怠い瞳の”ネコ缶”。

「ちょっと待ってよ。今は、どうすれば”黒キリン”が幸せになれるか、を考えるべきでしょ!?」

 ”リスナー”が大きく息を吐きながら告げた。

「まぁな……」

 その言葉に、素直に”ネコ缶”が銃をしまった。

 そんな様子に、顎に手を添え”コンポタ”は口角をつり上げながらも、半眼で、真面目に考えることにした。

「――とりあえず、フレンチはレストラン止めたら?」
「は?」
「どうせ、”黒キリン”に何処行きたいか聞いて、『外食』とか返ってきたから、『何が良い』とか聞いたんでしょ?」
「なんだ”コンポタ”。盗聴でもしてたのか?」
「なんで”ネコ缶”の盗聴なんかしなきゃならないわけ? 僕には祐助先生が居るの」
「……いや、それはそれで、どうなんだ? まさか、祐助の所を盗聴してるのか?」
「さぁ? ただ、普通に想像つくでしょ。デートで食事に誘われたらさぁ、年上相手なんだから、フレンチとか言っとくでしょ。他にないじゃん、選択肢。まぁ精々イタリアンか中華か?」
「そういうもんなのか?」
「そういうもんなの!」

 ”コンポタ”もまた麦酒を飲み干し、珍しく麦酒の二杯目を要求した。

「多分、マナーとか、本当に知ってるかも怪しいよ、大学生が」
「けど、ナナキの家は、お前の家と一緒で……」
「いや、断言して言うけど、九尾の家は、一宮と二葉と九重しか、箸以外の講習はない。特に戦闘メインの七木家の次男なんて、食べたことあるかも怪しい」
「そうなのか?」

 ”ネコ缶”の声に、大きく”コンポタ”が頷いた。

「だからぁ、フレンチは、ホテルの部屋に持って来てもらいなよ。マナーとか気にしなくて良いように」
「なるほど。じゃあ、”リスナー”が言ってた通り、アソシアにでも泊まればいいのか?」
「んー。僕なら、ディズニーか、富士急脇のホテル取るけど、それは天草先生が行ったこと無いからだしなぁ……確かに”黒キリン”が、それなりのホテル泊まったことがあるとは思えないけど、アソシアに行っても娯楽無いじゃん」

 ”コンポタ”の言葉に酒をさしだし、自分の分も用意しながら”リスナー”が唇をとがらせた。

「新横浜なら、中華街近いじゃん」
「中華街なんて、お台場レベルで大学生は行ってるって」

 そうなのかと若干”リスナー”は息を飲んだ。
 大学には行っていないから、分からないのだ。

 そんな事を言われると、自分が何処に誘えばいいのか、本当に分からなくなってきて”リスナー”はグイグイと酒を飲む。

「ナナキくんでしょ? ならさぁ、ドームホテルにでも泊まって、ラクーアでも行けば?」

”リスナー”の様子には気づかず”コンポタ”が言った。
そう言えば、ナナキも”ラクーア”と口走っていたなと”ネコ缶”は思い出す。

「フレンチ合ったかは覚えてないけど、ホテルは、食事持ってきてくれた気がするし。色々アトラクションもあるよ」
「そうか」

 頷きながら、”ネコ缶”はジョッキを飲み干して、帰った。

 翌日。
 出勤前に、朝食を食べてから、嵯峨はナナキを見据えた。

「おい」
「はい?」
「東京ドームホテルに予約を取ったから、ラクーアやら何やらに行こう。その代わりフレンチは無いかもしれないけどな」

 淡々と、ネクタイを締めながら、嵯峨が視線を向けると、ナナキが息を飲んだ。

「え、あ、僕が言った事……その、覚えててくれたの?」
「まぁな」

 正確には”コンポタ”の言葉で思い出した、が正しかったが、嵯峨はそこは伏せて置いた。

「すごく、嬉しいです」

 本当に嬉しそうにナナキが笑ったから、良いだろうと嵯峨は思った。

 ――今度会ったら、一杯くらい奢ってやるか。

 そんな事を考えつつ、日程を淡々とナナキに伝える。
 すると、何度も何度も頷かれた。

 その様にして、二人の遠出のデートは決まったのだった。