<4>温泉(★)


 店に『Close』の看板を二泊三日で出すなんて、これまでには無い事だった。

 青森の一角に、”イタコ”との縁で、見事に温泉が内部にある結界を、芦屋が見つけてきたのは二週間前の事だった。休むといった手前、”リスナー”こと青野は、ついて行く事になった。

 次々に観光名所(?)を巡る芦屋――普段遠出何てしない上、結界で守られた店に引きこもっていて滅多に戦闘もしない青野は疲れきっていた。絶対的に”贄羊”である芦屋よりも、”贄黒羊”である青野の方が体力があるはずなのに――……。

 ――だが、恋人と巡る旅を楽しまなければ。

 その一心だけで、一緒についてまわり、宿に帰ってきた時に敷かれていた布団に、思わず体を預けていた。傍らの飴色の低いテーブルには、刺身を初めとした和食が並んでいて、天ぷらの良い匂いが漂ってくる。

 ――嗚呼、料理に感動して、喜ばなければ。

 各部屋に備え付けの露天風呂に入っている芦屋の事を幸いに思いながら、必死で浴衣に着替えた。座布団に座り、上がってきた芦屋を笑顔で迎える。

「すごい美味しそうだね。こういうの、頬が垂れそうとか、涎が出そうとか言うのかな」

 箸を手にしながら、必死で青野は笑った。

「……――ああ、そうだな」
「これ、すき焼きかな?」
「みたいだな」
「こっちの揚げ出し豆腐も美味しそう。それに山菜も」

 必死に手を伸ばし、それらを口に運ぶ。実際、元々最近はこういう料理を食べる機会がなかったから、凄く美味しかった。だが、疲れきった体に、揚げ物などは重い。

「お刺身も」
「……そうだな」
「俺、食べ過ぎ? 芦屋も食べなよ」

 笑顔でそう告げた時、芦屋が歩み寄ってきた。
 さすがに――今日は、体を重ねるのは無理だ。けれど、断る言葉を思いつかない。
 だが、返ってきたのは、予想外の言葉だった。

「顔色が悪い」
「え」
「悪い、俺、一緒にいられるのが嬉しすぎて、その、青野の体力の事とか何にも考えて無くて」

 後ろから抱きしめられて、そんな事を言われた。

「や、あの……俺も楽しかったよ」
「本当に?」
「うん。それにさ、この料理も、食べられて凄く嬉しいよ。考えてみたら、全然移動してなかったんだよね、俺。精々お店と、池袋。たまに渋谷と新宿と原宿。だけどそれも一年に二・三回だし。来られて良かったよ。本当に楽しいと思ったんだ。俺お金もなかったのに、多く出してくれたりさ、逆に心配かけちゃってゴメンね」

 苦笑しながら青野は告げた。多分はそれは、初めての、本心だった。
 すると、腕にこもる力が強くなった。

「――良かった。ただ、明日も料理はあるから、少し休んだ方が良い」
「うん」

 頷いてから、布団まで促され、しっかりと上にもまた布団を掛けられた。
 枕に体を預けた瞬間、思いの外体力を使っていたのか、そのまま、青野は眠ってしまったのだった。

 翌日、青野が目を覚ますと、いつの間にか芦屋が腕枕をしてくれていた。
 なんだか赤面して、まだ眠っている芦屋を見据える。

「ん」

 するとうっすらと瞼を開けた芦屋に、唇に触れるだけのキスをされた。
 急に胸が高鳴って、動悸がする。

「――よく、眠れたか?」
「あ、ああ、うん」
「そっか。よかった」

 そう言って、芦屋が微笑んだ。その笑みに、青野は苦しくなった。
 この笑みが偽りのモノだとしても、もうそれでも良いとすら思っていた。――ああ、”愛殺し”に絡め取られていく。

「朝食、そろそろか」

 時計を見据えて、芦屋が言う。慌てて頷きながら、ベッドの直ぐ側にあった時間表を見る。この温泉は、朝はバイキングで、昼は無しで――レストランなど流行っているそうで、観光中に好きに食べられるようにという配慮だ、そして夜には和食が出てくるのだという。

「浴衣にスリッパでも良いらしいし、このまま行くか」
「うん」

 そんなやりとりをして、朝食をとりに向かった。
 そこで青野は知った。前にオムライスを食べていたように、芦屋は卵料理が好きらしく、ふわふわの卵を沢山皿にのせていた。他には、タマネギとソーセージを炒めたもの。ポテトサラダ。ポテトサラダは、お通しにもなるし、他の料理も今度芦屋が来た時のために作ってみようか――そんな事を自然と考えていて青野は苦しくなった。

 昼間は、お土産屋さんに行って帰ってきた。

「お前まだ、露天風呂に入ってないだろ?」

 帰ってきてすぐに、芦屋にそんな事を言われた。
 確かに朝、シャワーを浴びただけだった。

「行ってくる」

 そう告げてから、青野は部屋に備え付けの温泉へと向かった。
 さっと体を流してからつかる。

 そんな時だった。

 湯船につかっていると、芦屋が入ってきた。

「俺もまた入りたくなってさ」

 その言葉に、温泉の気持ちよさに、分かった気がして穏やかに笑って、青野が少しだけ移動してスペースを作る。

 すると、入ってきた芦屋に抱きしめられるように腕をまわされた。

「え?」
「この前は、ゴメンな。本当は、初めてだったんだろ?」
「っ」
「俺、”情報屋”とか聞いてたから、勝手に嫉妬してたんだよ」

 耳元で囁かれ、更に強く抱きしめられた。
 赤面しそうなり、同時に偶然だろうが、芦屋の抱きしめる指が、それぞれの胸の突起に触れたから、ビクリとしてしまう。きっと何の他意もないはずなのに。

「体、もう洗ったか?」
「まだだよ。い、今洗うから」

 慌ててお湯から上がり、手であわを作って全身に塗った時だった。

「背中、流してやるよ」
「え、良いよ」
「それくらい、やらせてくれ。それとも――もう俺に触られるのも嫌か?」
「そんな事無いけど」

 ただ狼狽えながら答えた時だった。

「ンあっ」

 唐突に泡まみれの乳首を撫でられた。前とは異なる感覚に、背が跳ねる。
 しかし芦屋の指先は止まらず、羽を撫でるようにゆっくりと動く。

「いつもどんな風に洗ってるんだ? 分からないから、ちょっと強くしちゃったか?」
「え、あ」
「見せて」

 そう言われ、羞恥で赤くなりながらも、胸を洗う。

「じゃあ、ここは?」
「ふァ」

 それから陰茎を片手で扱かれた。その感覚に、一気に背筋を快楽が這い上がる。

「どうやって洗ってるんだ?」
「え、普通に……っ」
「普通ってこんな感じ?」

 さも当然だというように、芦屋に問われる。
 これはただ洗っているだけなのだと、必死に唇を噛むと、自身の手の上に芦屋の手が乗った。

「それじゃあ、綺麗にならないだろ。もっと強くしないと」

 そのまま立ち上がりそうになる自身を必死で抑える。
 泣きそうになった。

「も、もう良いから……フ、ァ」
「じゃあシャワーで流すか」

 そう告げて、芦屋が重点的に、青野の陰茎にシャワーを当てた。
 そんな刺激ですら、体が震えるには、十分だった。

「さ、もう一回はいるか」

 シャワーで体の泡を流されてから、浴槽に促される。
 そして腰をを緩慢に撫でられながら、もどかしくなってきて、必死で立ち上がろうとする陰茎を我慢させる。

 その後、再び浴衣を着て、部屋へと戻った時だった。

「っ!!」

 急に布団の上で、芦屋に青野は押し倒された。

「悪い、俺、もう限界だわ」
「芦屋……?」
「ごめんな。昨日は疲れてたみたいだから自制したけど、風呂に入ってるお前見てたら、もう堪えられなくなった」

 そう言った芦屋に、帯を解かれる。

「ちょ、ちょっと待って」

 必死で抵抗しようとした青野を見据え、芦屋が苦笑する。

「俺とヤるのは嫌か?」

 勿論付き合っているフリをしている以上、いつかこんな日が来るだろう事は、青野だって覚悟はしていた。けれど、あまりにも急すぎて理解が追いつかない。

「それでも――悪いけどもう俺は止められない」

 苦しそうに笑い、ほどいた帯で、芦屋は青野の手首を頭の上へと持っていき、縛った。

「!」

 驚いて息を飲んだ瞬間、濃厚な口づけをされた。
 舌を絡め取られ、甘噛みされる。
 苦しくなって目を伏せれば、ようやく唇が離れた。

「あ、はッ」

 そしていつの間に用意したのか、へその下からダラダラと、菊門までローションを垂らされた。冷たいその感触に体が震えた時、唐突に襞を二本の指で刺激され、親指では陰茎の先を嬲られた。

「うあ、あ!!」

 漏れた声が恥ずかしくて、手で押さえようとするのに、拘束された手では、腰を動かすのが精一杯だった。

「っ、はあ」

 その時、唐突に二本の指が入ってきて、入り口から直ぐ側の場所をぐるりと撫でられた。
 それから以前に腰が跳ねてしまったおかしくなってしまう箇所を重点的に刺激される。
 逆側の手では乳首を撫でられ、それから陰茎を擦られた。
 前と後ろからの刺激におかしくなってしまいそうだった。

「声、聞かせて」

 そして囁くように言われて、グチュグチュと中を嬲られた瞬間、もう青野は快楽に溶けた。


「やぁああッ、芦屋、芦屋ァ」
「どうして欲しいんだ?」
「ああっ、あ、もっと、もっとぉ!!」

 先ほどまでとは異なり、焦らすように周囲を指で嬲られて、クラクラしてくる。

「イれて欲しいんだろ?」
「あ、ああ、う」
「言ってみろよ」
「イ、れ、て」

 涙がこぼれ落ちる瞳で、青野は懇願して。

「ああああ――!!」

 すると圧倒的な硬さと長さを持つ芦屋の陰茎が入ってきた。
 片手では相変わらず、青野の前を扱いている。

「や、やぁあ――!!」
「嫌なら、抜くけど、どうする?」
「や、あ、いや、もっとぉッ」

 泣きながら青野がそう言った瞬間、ガンガンと激しく揺らされた。
 その後腰を引いた芦屋に、最も感じる場所を刺激され、青野は果てた。なのに、後ろを緩慢に揺らす芦屋の動きは止まらない。

「ま、待って、も、もう」
「俺はまだイってないぞ? 自分だけ気持ち良くなるのか?」
「あ、あああああっ」

 再び中に挿入したまま、今度は前への刺激もなくなり、体を揺らされる。

「うっ!!」
「頑張って」
「あ、ああ、え、あ」

 青野の腰が震え、足の指先が丸くなる。
 しかしそれには一切構わず、青野の感じる場所を緩慢に芦屋が突き上げる。
 両手では乳首を嬲りながら。

「や、いやぁぁぁぁ!!」
「嘘つき」
「ふぁっ」
「お仕置きしないとな」

 そう言って笑うと、今度は自分のほどいた帯で、青野の目を縛った。
 何も見えなくなり、ただ体が震える。

「空イキするまで許さないからな」
「う、ああああッ!!」

 その時、前をキツク捕まれ、もう無我夢中で青野は体を揺らした。
 イきたい、イきたいイきたいイきたい。
 もうそれしか考えられないのに、芦屋の手がそれを許してくれない。
 その時だった。

「ヤァ――!!」

 前からは何も出た感覚がないのに、太股が震え、中で、そう中では確かにイくような感覚がしたのだ。

「あ、はぁ……あ」

 グッタリと弛緩した体を、無言で青野が芦屋に預ける。

「出来たみたいだな」
「……?」
「この感覚、ちゃんと覚えろよ。これから、散々覚えさせるんだからな」

 それから目隠しされていた帯を解かれ、今度は、陰茎に巻かれた。
 そして手を縛られたまま、何度も何度も、青野は、中だけでイかされた。

「や、うあ、いやあああ!!」

 その次に待っていたのは、ひたすら、芦屋に口淫される感覚だった。
 今度は、前から、透明な液すら出なくなるまでイかせられる地獄だった。

 結局それは夜の食事が運ばれてくる直前まで続いたのだった。