<1>”リスナー”のデート(★)



 本当はデートなんてしている場合ではなくて、自分は喪主を務めなければならないのは重々承知していた。けれど失踪中の自分に、誰も声をかける親戚との繋がりなど無かった。

 一人で行ってみる気もなかった。

 そんな日――どうしても会いたいと、芦屋大樹に言われ、”リスナー”は、鏡を眺めていた。”リスナー”の本名を知るのは、彼だけだ。青野郁(しょうのいく) それが、”リスナー”の捨てた名前だった。会ってくれなきゃバラすぞ、なんて冗談交じりに言われた事を思い出す。

 今日はボルドーのパーカに、しましまのTシャツ、ボトムスは細身のジーンズで、靴も赤っぽい。イヤホンは白にしようかな、何て考えながら、クラッチバックを持つ。何も――情報屋としての仕事が無いのに、街へ遊びに出かけるのは久方ぶりの事だった。

 だが。

 ”愛殺し”の”芦屋”なんて名前で、これから会う芦屋が呼ばれてる事は、既につかんでいた。

 自分にキスした事も含めて、”殺戮人形(キリングドール) ”や”榊様”に、後輩として近寄ったのも、そう言う意図があった可能性がある。鏡を見据えながら、信じ切れない自分と、初恋の思い出が瓦解していくような感覚に、”リスナー”は苦しくなった。そう思えば、いつの間にか座っていて、煙草の量が増えていく。香水でかき消そうとしたが、上手くいかない。

 ――芦屋は、何を考えているのだろう?

 そんな事を思いながら、待ち合わせ場所の東口へと向かうと、フェンスに腰を預けている芦屋がいた。

「ごめん、待った?」
「や、今来たところ」

 嘘だろうなと、フィルターで満杯になった携帯灰皿をチラリと見た。
 互いに未成年なのに、良いのかなと思ったが。
 大学生は、酒も煙草も入学時から飲む人も多いと聞くから、こんなものなのかと思う。

 新宿の東口は、平日なのにも関わらず、混んでいた。
 とりあえず二人で喫煙所まで移動し、ALTAを見上げる。

「何処行く?」

 何気なく”リスナー”が聞くと、芦屋が顔を赤くした。

「その、青野さえ良ければ」
「うん?」
「ちょっと戻るんだけど、オムライスの店があって……美味しいんだ」

 ルミネへと振り返りながら、芦屋が言う。
 ”リスナー”――青野は、笑みを浮かべて頷いた。

「いいじゃん」
「本当か?」

 ぱぁぁっと嬉しそうな顔をした芦屋を見て、青野は気づかれないように短く息をついた。
 この辺りにはデートスポットも、飲食店も腐るほどある。
 あえて、そんな可愛らしいチョイスをしたのだとすれば尊敬するが――……高校時代も良く、芦屋がオムライスを食べていた事を、思い出したのだ。それですら、こちらがどこまで覚えているのか探っているのだとしても、別にこの程度、露見しても問題など何もない。二人でオムライス屋さんへと向かい、それぞれ注文してから、芦屋が苦笑するように笑った。

「本当は、来てくれるのか不安だったんだ」

 静かに響いたその言葉に、伏し目がちに青野は笑った。
 そんな表情も、多分無意識の演技にすぎなかった。

「俺も、俺の方こそだよ……来てくれないんじゃないかと思って、時間ギリギリまで迷ったから、待ち合わせ時間ぴったりに行ったんだ」
「本当か!?」

 すると嬉しそうに、満面の笑みを浮かべて芦屋が言った。少々気圧されながらも、青野が頷く。

「俺、俺、てっきり俺のせいで高校に来なくなったんだと思って――俺の事が嫌いになったんだと思って……あれまで、親友だったのに」

 ――親友?
 あれほど友達が多かった芦屋の声に、思わず青野は眉を顰めそうになった。
 ごく単純に、隣席だったから、それなりに多く会話はしたが……親友?

 親友なんてものが、これまでに存在した記憶が無くて、青野は俯いて水を飲むのに専念した。そもそも友達自体が少なかったというのもあるから、話しをするのは芦屋が最も多かったかも知れないが――……親友? それは、脳内改変か? 取り繕っているのか?

 今でこそ率先して話しをするが、当時の青野は自分から話しかけるタイプではなく、クラスでも存在感が薄い方だった。もしやアレか、コレが噂の――”愛殺し”?

 そんな事を考えていた時、丁度オムライスが運ばれてきた。

 芦屋が色々と話を振ってきたが、適当に答えながら、青野は食事に専念した。元々食事中に話しをしないのは、癖だ。

「――からさ、俺がいきなり、もう親友なんて気持ちじゃ抑えきれなくなって、いきなりお前の事を押し倒して、キスなんかしたから、来なくなっちゃったのかと思って」

 丁度食べ終わった時、そんな言葉が耳に入ってきた。
 まず、来なくなった理由は全く違う。

 そもそも、押し倒されていない。いきなり転んだらしき芦屋に、突き飛ばされてフェンスに頭を打ったのだ。そして勢いで、唇が額に触れただけである。

 それでも時折芦屋の事を思い出していたのは、それこそ一番良く話をしていたからだ。
 寧ろゴミ捨て中に濃厚なキスをされたのが、ある種初めてのキスである。
 抱きしめられたのだって――両親が死んだあの日が初めてだ。

 ――……ただずっと、自分が片思いをしていただけなのだから。

 芦屋は、自分の事など見てはいなかった。
 よく見ていたから、誰よりもそれが分かる。

 だとすれば――自分が、”リスナー”だから、”情報屋”だと確認したから、手駒にでもする気なのだろう。それに堪えられるのか? 

 きっと昔ならば、それでも良いからと思っていただろう。だが今は、”hermit”という大切なBarがある。そこのみんなを、裏切るなんて選択は出来ない。

 仮に利用するという選択があるとすれば、それは自分自身が、彼を、だ。

 芦屋もまたオムライスを食べ終わったのを確認してから、青野は微笑んだ。

「昔の話は止めよう。俺は気にして無いし――……次は、何処に行く?」
「え、あ」
「この辺りだと、カラオケとかゲーセンとか?」
「っ、俺は――」
「ん?」
「気にしてる」

 その時、いつかも見せたような真剣な瞳で、芦屋が青野を見た。
 それから俯いて、迷うように瞳を揺らした後、決意したように顔を上げた。

「二人きりで話がしたい」

 続いた言葉に、青野は考え込んだ。

「だとすると……やっぱり、カラオケ? 個室だし。歌わなければいいし」

 ごく普通の思考でそう言った青野を見て、芦屋が唇を噛みながら真っ赤になった。

「そうじゃなくて、だから」
「?」

 純粋にどういう意味か分からず、青野は首を傾げた。
 そうしていると、決意したように水を飲み干してから、芦屋が言った。

「ホテル行きたい」
「――え?」

 予想外の返答に、青野は硬直した。

「どうせお前、コレが最後だとか思って、高校時代の友達だしとか思って、それで俺の誘いに乗ってくれたんだろ、青野」

 それは事実でもあるし、次に会う事があっても、そして今でもであるが、あくまでも探りを入れるためでしかない。

「最後のチャンスだと思うから、はっきり言うわ。俺、お前と、どうしても……その……だから……」
「え、それって……ラブホ!?」

 予想外すぎて思わず青野は声を上げていた。

「近いし、金は俺が出すし、今なら休憩で入れるし」

 いやいやいや、そう言う問題ではない。
 っていうか何でそんなに詳しいんだよ、と言いかけてしまいそうになる。

「いやけどほら、男同士だし入れるか分からないんじゃ」
「大丈夫だから!」

 最早断言している以上、行った事があるんだろうなと思う。

「そ、その、ほら、男二人だし……ナンパでもする?」
「俺はお前が良いんだよ、青野」
「なんで?」

 それが率直な感想だった。

「そんなもん、ずっと好きだったからに決まってるだろ!!」

 青野は暫し思案した。流石――”愛殺し”。好きじゃなくてもピロートークの一つや二つ、寝台以外でも出来るのか……ただ、ただだ。自分は、情報屋だと向こうも知っているはずだ。ならば、ここで余裕を見せた方が良いのかも知れない。

 だが、だが、だ。大問題が一つあった。
 青野は、男同士では兎も角、後ろの経験がない。話だけは良く聞くので、耳年増(?)だが、イれた事はあるけれど、イれられた事は無い。

「え、えっと……俺、男にイれたことしか無いんだけど、芦屋は下でも良い感じ?」
「いや、俺がお前にイれたい!!」

 自分たちは長閑にオムライスを食べていたはずなのに、何がどうしてこうなった!?

 正直青野は困惑を隠しきれずにいた。
 笑顔が引きつっているのが自分でも分かる。

 ただ一つだけ思うのは――……いつかは、情報屋としての仕事と、男同士でイれるかイれられるかは兎も角、そう言う日は来ると思うのだ。それならば、最初は、恐らく一生に一度だけ恋して再会した相手と、初めて過ごすのは、悪い事じゃない気がした。

「……」
「悪い、こんな事言って。キモいよな」
「……その」
「……何?」
「芦屋なら……その……良いよ」
「本当か?」
「……うん」

 改めて聞かれると羞恥が募って、冗談だと言われた時の返答を考え始めてしまった。

「本当か!?」
「え、あ」
「俺、俺、今凄い幸せ!! 行こう!! 出るぞ!! もう今更嘘だとか冗談だとか言っても聞かないからな!!」

 そのまま強引に手を引かれ立ち上がらせて、サクッと芦屋がカードで二人分を支払い、歌舞伎町を抜け……ラブホ街に連れて行かれた。

 本当、場所に行くのに迷いがないのだから手慣れたもんだなぁなんて、ひっそりと青野は溜息をつく。

 そして丁度休憩時間が始まったばかりの、男同士可のラブホに連れて行かれ、手慣れた様子で部屋を選ばれた。勿論、異性とは経験があるから、形式自体は青野だって知っては居たが、なんだか気恥ずかしくなってくる。

「シャンプーどうする?」

 そんな事を聞かれた時には、もうクラクラした。

「何でも良いよ、男同士なんだよ?」
「俺、お前のふわふわの髪には、これが良いと思う」

 なんて事を言われて、勝手に選ばれた。昼でも選べるんだ、何て場違いな感想を青野は覚えていた。

 それから部屋につくなり、青野は芦屋に押し倒されて、目を見開いた。

「え、ちょっ」
「何? 今更嫌になったとか言っても、もう逃がさないからな」
「いや、あの、シャンプーの存在意義は?」
「終わったら入ればいいだろ」

 そう言うと、芦屋が青野のパーカを脱がせてから、Tシャツの下に手を差し込んでくる。

「っ」

 急に両手で乳首を摘まれ、驚いて体が跳ねた。

「なんだよ、乳首感じるの?」
「え、そうじゃなくて……」
「ふぅん」

 そう言うと半眼になった芦屋が、今度は青野の体を起こして、無理矢理後ろから抱えた。

「確かめないとな」
「え」
「これまでに、女に開発されたのか――それとも、男か?」
「違っ」

 しかしそんな青野の言葉など一切聞かずに、Tシャツをまくり上げ、芦屋が胸の突起をユルユルと撫で始めた。その不思議な違和感に思わず眉を顰める。

 別に、感じるとか、無い。
 何コレ、と言うのが正直な感想だった。
 が、暫く撫でられ、時につままれ、指の速度を速められたり、ゆっくりと弄られる度に、不思議な感覚に支配される。

「あ、芦屋」
「んー?」
「へ、変」
「何が?」
「ああっ」

 ついにその感覚が下半身と直結して、苦しくなった。

「ま、待って、止め、それ止めて」
「なんで? 慣れてるんだろ?」

 そんなはずがなかった。そもそも男同士で下になるのは未経験だし、女性と体を重ねる場合でも、こんなに念入りに触られた事など無い。

「うあああッ」

 その時耳の中に舌を入れられ、背がしなった。
 しかし指の動きは止まらない。
 涙が浮かんできそうになって、キツく目を伏せる。
 ゆっくりと立ち上がっている自身を自覚したのは、ようやく耳から離れた舌に、後ろから首筋を舐められた時だった。

「っア」

 同時に、無理矢理下衣の中に手を入れられ、撫でられる。

「ううっ」
「どうして欲しい?」
「え、あ」
「触って欲しいなら、自分で脱げよ」
「!」

 その言葉に息を飲んで振り返ると、残虐な表情で芦屋が笑っていた。
 唇を噛みながら、はめられたのかも知れないと感じつつ、素直に下着ごと青野は下衣をおろした。

 それを見据えながら、芦屋が鼻で笑った。

「直接触って欲しかったのか、下着まで下ろせ何て言ってないのにな」
「っ」
「いいよ、やってやる」

 そう言うと芦屋が、両手で青野の陰茎を撫で上げた。
 なんとか声を堪えようと、青野は唇を噛む。

「ひ、あ」

 だがその時、片手で陰茎を握られ、もう一方の手で乳首を摘まれた。
 先ほど快楽を教えられたばかりの胸の突起は固くなり、それを弄りながら、もう一方の手では、陰茎を指を輪にして激しく擦られる。

 声を堪えようとしているのに、漏れる息が止まらない。

「つまらないなぁ、啼けよ」

 嘲笑するようにそう言って、指の動きを芦屋が早めた。

「お前さぁ、俺が本気でお前の事好きだとか思ってたのか」

 悔しくなって目をキツク伏せる。
 ――思っているわけがなかった。最初から、信じてなどいなかった。

 ただ、ただ、仮に騙されているにしろ、初めて男と後ろでするなら、芦屋が良いと思っただけなのだ。別に酷くされようが、何だって良かった。寧ろ酷くされた方が、忘れられて、芦屋の事を忘れる事が出来て、良いのではないか何て思ってすらいた。

「何か言えよ」

 しかし唇をキツク噛んで、縋り付きそうになる自分の声を、必死に青野は抑えた。
 その瞬間、達しそうになった時、不意にうつぶせにされた。
 正確には、犬のような姿勢にされたのだ。
 そこへ、ダラダラと冷たいものが落ちてくる。
 ――こんな、ローションなど用意しているのだから、初めから、その気だったんだな。
 確信したら、思わず笑ってしまった。

「……何、笑ってんだよ? こんなの余裕だって? さすが、男なれしてるって噂だけはあるな。けど、これは、どうだろうな?」
「? ――ッ!!」

 慣らされるでもなく、いきなり、ドロドロした液体を纏った二本の指を差し入れられた。
 背が撓り、後孔が痛みを訴える。
 悲鳴を上げそうになったが、シーツを掴んで、なんとか堪えようとする。

「これは”智徳”が買った、”狐提灯”の媚薬なんだとさ。男向けので、腸からしか吸収しないから、イれる方は何ともないんだけどなぁ」
「あ……っ」

 そんな事よりも、偶然芦屋が触れた内部の箇所が、、一気にゾクゾクとした見知らぬ快楽をもたらした事実の方が、大問題だった。

「なんだ? 効くまで暫くあるって聞いてたんだけどな――……ああ、ココが良いわけか」

 嘲笑した芦屋が、その箇所を今度は的確に嬲った。

「っ、あ、ああっ」

 もう声が堪えきれなくなって、青野は腰を逸らした――その時の事だった。
 体が……どうしようもなく、熱くなった。

「あ、あ、あ、」

 気づけば目を見開き、声を漏らしていた。

「ああああああ!!」

 体の中が熱い、どうしようもなく熱かった。
 こんな感覚知らなくて、気づけば涙がこぼれていく。
 最早声を気にする余裕など消え、無意識に腰を揺らしていた。
 シーツに前の両腕を預け、ひたすら体を揺らす。

「ああっ、うあ、ああ」
「ま、耳障りな青野の声でも、少しは煽られるな」

 馬鹿にするように芦屋が言ったのが分かる。
 しかしもう既に聴覚なんかよりも、ガクガクと震える体の制御で精
 一杯になり、何度も何度も頭を振った。

「いや、いやだ、っ、あ、あああああ!!」

 声が止まらない。中が熱くて仕方がない。腰をいくら揺らしても、
 それは消えてくれない。
 青野の瞳は次第に虚ろになり、とけたように変わっていく。
 上気した体が、赤く赤く染まっていった。

「自分でしてみろよ。解した経験くらいあんだろ?」

 そう告げ、紫色のプラスティックに入ったボトルから、ローションをタラタラと、シーツを掴んでいた青野の手にまぶす。無論、後ろを弄った事など、あるわけもなかった。しかし快楽に汚染された体は、その指の一本を自分の後ろにつき入れて抜き差しする。

「それで、足りんのか?」

 愉悦を含んだ声で、芦屋が耳元で囁く。その吐息すら辛くて、もう青野には訳が分からなくなっていく。今度は二本の指を突き入れ、かき混ぜるようにグチャグチャと動かした。あわせて腰も動く。しかし内部の熱は収まらない。

「やあぁあああ、やだぁああッ、あ、ンあ」
「”世界”が変わって、体が楽になるのを待つか、後はな、精液を入れれば収まるらしいぞ、それ。けどなぁ、俺、青野なんかじゃ勃たねぇなぁ」
「ふ、ぁ、ああっ」

 訳が分からないまま、涙をこぼしたまま、青野はそれを聞いていた。

「なぁ、青野? お前、どうしたらいいと思う?」
「……っは、あ、あああっ、あ、嫌、嫌だぁああ、止め、助けて」
「どうやって助けて欲しいんだ?」
「っ、”世界”が、ッッッん、ぁあああ」
「あー?」

 必死で言葉を発した青野に対し、不機嫌そうに芦屋が首を捻る。

「変わるの、うあああああ、っっ、ふ、あ、待つしか」
「……お前な。本当に馬鹿だろ」
「って、だって、ふ、ぁ、ああっ」
「なんだよ?」
「芦屋は、俺じゃ、う、はぁ、あ、ああ」
「は?」
「勃たないんでしょ……う、ああああッ、あ、ああああ」

 もう内部の熱に浮かされて、何を自分が言っているのか、よく分からない。
 涙がただただこぼれていき、だが何故なのか、悲しいという感情だけが浮かんでくる。

「――……ああ、もう」

 呆れたように芦屋は呟いた。

「ンああ―――!!」

 その瞬間、芦屋が無理矢理、大きく強く反応していた陰茎を、一気に差し込んだ。
 刺激が強すぎて、痛みも圧迫感も何も感じられないまま、青野は悶える。

「や、あああ――あ、あ、あああっ」
「本当は俺にグチャグチャにして欲しいって思ってたんだろ? 言えよ」
「あ、ああっ、あ、は」

 ガクガクと衝撃に体を震わせ、青野は目を見開いている。
 酸素を求めて半分ほど開いた唇からは、唾液が滴っていた。

「言え」
「あ、ああ、っ、グチャグチャに、っあ、ああああ」
「誰に?」
「あ、芦屋に、っっっン――!!」

 腰を打ち付けながら、芦屋が溜息をつく。

「――俺はカルピスソーダが好きです、ッって言って見ろよ」
「あ、あ? 俺っあ、カルピ、ス……ふ、ぁああっ、ソーダ、っっうああああ!! す、好きでッあ、ああっ」
「……俺は、芦屋大樹が好きです」
「俺、はぁあああっっ、あ、あああっ、芦屋が、はぁ、好きで、うあああッ」
「馬鹿」

 最早意識がほとんど無い様子で蕩けた顔をし、言われたままに呟く青野を見据え、再び溜息をついてから、激しく腰を打ち付けた。

「うあ、あ、あああっ、ふ、あ、あンぁ――!!」

 直後、芦屋が己の精を放つと、グッタリとしたように寝台に体を預け、青野は意識を失った。その頭を持ち上げ、芦屋が苦しそうな顔をして、首を抱きしめる。

「――何で気づかねぇんだよ。ずっと、ずっと、お前の事が好きだったのに」



 青野が目を覚ました時、もう何処にも芦屋の姿はなく、ただ無造作に三万円が置いてあるだけだった。いつの間にか意識を失っていた自分に失笑しながら、青野――”リスナー”は、気がつくと唇は弧を描いているのに、筋を流して温水が双眸から流れてくる事に気づいて肩を竦めた。

 ――やっぱり、初恋なんて実らないのだろう。

 もう、それで良かった。