<4>健忘する、守られる


 次に目が醒めた時、怠い体で天草は天井を眺めていた。
 次に考えたのは、今日はクリニックの日だと言うこと。
 どうせ滅多に患者など来ないのだけれど――夜以外は。

 ――僕は、何をしていたのだっけ?

 目覚まし時計を見たら、止まっていた。いつもはその時計よりも早く起きることが多いから、不思議に思いながら、起き上がる。

 すると体中が痛んだ。最近、よくある事なのだ。そもそも指先の感覚が無くなって、前の職場を辞めたのだから、何らかの病気ではないのかと思って、様々な病院で検査を受けたのだが、何処にも異常がないと言われ、最後には精神科の受診を勧められたから断った。自分の身体に異常があると思いこんで、不安になって、検査を受ける患者は、比較的多いらしい。

「あ、先生、起きた?」

 その時”コンポタ”が入ってきたから、昨夜のことを思い出して羞恥にかられたのだけれども、それ以上に体の痛みと気怠さが勝って、声を出すのも辛かった。

「体は大丈夫?」

 何故彼が自分の体調を知っているのか首を捻りながらも、僅かに頷いて見せた。
 これでまた、病院の受診を勧められたりしたら、今度こそ精神科に放り込まれて、医師免許を剥奪されるだろうから。精神科が悪いとは思わないし、このクリニックでも看板の一つに掲げているのだが、自身がかかるとなると、職を失ってしまう。そうなったら、帰る家も無い。無いようなものだ。

「勝手にだけど、朝食作ったよ。受付も見てた。まだ患者さんは来てないよ」

 冷蔵庫なんて開けた記憶がしばらく無いから、買ってきてくれたのだろうか。

 そんな事を考えながら、階下へ降りていく足音を聞く。

 それからシャツに着替えて、黒いスーツのズボンを穿いた。
 一応白衣を着る。

 降りていくと、良い香りがした。
 並んでいたのは、味噌汁と白米、玉子焼きと焼き魚、そしてほうれん草のごま和えだった。

「僕こう見えて、結構料理得意なんだよ」
「――こう見えてって言うか、逆に上手そうだけど」
「本当?」
「うん。少なくとも、僕よりは」

 こんな食事、暫く食べてはいない。確実に冷蔵庫には、卵も魚も野菜も無かったはずだから、買ってきてくれたのだろう。

「お金、出すよ」
「別に良いって、祐助先生。僕もそこそこお金あるし。それより、ちゃんと食べてるの?」
「食べてるよ」

 基本的には、10秒飯が多いのだけれど。

「まさか、ウィダーONLYじゃないよね? 冷蔵庫に、食べられそうなの、それしか無かったけど」
「うん。他のも試してるよ」
「……これからは、僕が作るよ」
「別に良いよ。気を遣わなくて」
「――恋人に、気を遣うくらい良いでしょ?」
「っ」

 その言葉に、昨夜のことを思い出して、天草は赤面した。
 それを必死で隠そうとして、飲んだ味噌汁は美味しかった。
 本当に――自分なんかの恋人になってくれるのだろうか?

「後は……その、朝。急にヤっちゃってゴメンね」

 そう言われて、漸く体を重ねた事を思い出した。だが、あまりよく思い出せない。
 だがそれは、いつもの事なのだ。
 体を重ねた事は大体覚えているのだが、次第に記憶が曖昧になっていき、最終的に記憶が無くなる。

 多分快楽のせいだろうと、天草は考えていた。
 けれど不思議な事に、気持ちいいと思った記憶は一切無いのだ。

「もう、その……ヤりたくなかったら、言ってね?」
「別に、良いんだけど……僕、途中から記憶がいつも飛んじゃうんだ」
「――え?」
「体を重ねたのは思い出せるんだけど、その後の事がいまいち……――だから、逆に迷惑をかける事があったら、ゴメンね」
「……――先生」
「何? あ、えっと、すごく美味しいよ。本当に有難う」
「そうじゃなくて……今朝のこと、どこまで覚えてる?」
「えっ、あ、その」

 恥ずかしくなって、天草は俯いた。

「額にキスしてくれて、ピンク色の、その、ボトルみたいなのから、その……」

 羞恥にかられて、顔を背けた。
 箸を持つ手が震える。

「指が、その、二本入ってきて……っ」

 今までこんな事を聞かれた事など無かったから、真っ赤になってしまったのが自分でも分かる。大体、食事の席で聞く事じゃないなんて思いながら、”コンポタ”を一瞥すると、思いの外真剣な表情をしていたから、天草は息を飲んだ。

「確か……三本目が入って、それから、その、”コンポタ”のが……えっと……あれ……ごめん、気持ちよすぎたのかな。その辺から記憶が無いんだ」
「っ」

 照れるようにそう言って、ごま和えを食べ始めた天草を見ながら、”コンポタ”は息を飲まずには居られなかった。――自分が、義理の父親である創助であると言った事、義理の子供の”由唯”と言って泣き叫びながら、イきたいと懇願した事、自分が淫乱で酷いことをされるのが好きだと涙をこぼしながら言った事。それらが、完全に欠如し、忘れ去られているように思えた。

「――ねぇ、先生?」
「何? あ、これも凄く美味しいよ。だし巻き卵なんて久しぶりに食べたよ」
「……いつから、あの、どのくらい前から、記憶がない事があった?」
「え? うーん……体を重ねたのは覚えてるけど、ほとんど記憶がない時もあったし――あ、そうだ、丁度、体中が痛くて怠くて、病院にかかるようになった頃だった気がするから、五年半前からだ。お財布に領収書残ってるかも知れない」

 思い返せば、口元を、片手で”コンポタ”は覆っていた。

 五年半――……それは、此処に入り浸るようになった頃だ。丁度、”リスナー”の店が一周年を迎えた時で、天草の身元をその内で良いから調べて欲しいと頼んで、11月くらいに赤ワインを開けてみると言っていたのが丁度半年目で、その時に身元と戸籍を聞いたから、間違いがない。

 少なくとも体の痛みと気怠さは自分のせいだと”コンポタ”は確信した。同時に、男に酷いやり方で犯され、血を流す事がどれだけ辛かったのかと、改めて考えてみる。

「”コンポタ”、どうかしたの? その……やっぱり、僕なんかと恋人になるなんて、嫌?」

 不安そうな声でそう言われ、思わず”コンポタ”は、笑みを取り繕った。

「まさか。今僕、すっごく幸せ」

 そうは言いながらも――……その後更に、『ほとんど記憶がない』と言う言葉が気になった。創助さんの名前を呼ばせ、自分を義理の子供扱いさせたからではないのか? ――そんな風に”コンポタ”は、考え唇を噛む。病院に行くのも一つの手だとは思うのだが……天草本人が医療関係者である上に、同性愛者だと勝手に露見させるのも躊躇われる。

 だとすれば――出来る手段は一つだけだ。恐らく『記憶』も含めてなのだろう、『人の心の声を読み取る能力』を、たまにしか発現しないと本人は言っているが、恐らく比較的任意に使いこなす事が出来るのだろう”リスナー”に、確認してもらう事だけだ。聞く事は三点。一点目は、『最初に犯された時の気持ちや記憶』二点目は、『兄扱いと、義理の子供扱いをさせられるようになった時の気持ちや記憶』。三点目は、『本当に記憶が無く、病院の受診をしていたのか』だ。

「だからさ、久しぶりに”リスナー”のお店に行って、報告しようよ」
「え、あ」

 赤面した天草を見据えながら、”コンポタ”は、胸の疼きを堪える事に必死になったのだった。


 その日の夜、二人は、”リスナー”のBar、hermitへと向かった。

 そして散々惚気た後、天草がトイレに立った瞬間、さっと”コンポタ”は、メモしてきた三点を記した紙を渡した。『なるべく早急に』とも、書き足してある。

 ”リスナー”が息を飲んだのが分かった。
 だが、丁度天草が戻ってきたので、”コンポタ”は笑顔で迎える。

 そして告げた。

「そろそろ、出ようか。酔いも回ってきたでしょ?」
「うん」
「明日も僕、ここに来るから、待っててくれるかな?」
「分かった」

 天草には強い酒を出すように、最初から”コンポタ”は、電話で”リスナー”に伝えていた。まぁ、恋人同士なら良いかと、そんな気分で”リスナー”は、それに従ったのだったが、少しだけ後悔した。

 メモをさらりと読み、どうして恋人同士になったのかは分からないにしても、”コンポタ”が最低である事は良く分かったからだ。――これは、四点目として、恋人同士になった理由も調べないとなぁ、と、そんな事を思った。



 翌日、”コンポタ”に言われたからなのか、素直に天草はやってきた。

「いらっしゃい」
「あ、の、スクリュードライバー」
「はいはい」

 笑顔で”リスナー”は答えた。
 ――一般人であれば、”リスナー”が不意に得た能力は、ほぼ99.9%は有効なのだ。
 それを知る者は少ないが。

 ただし、それには、最低限、本人が目の前にいなければならない。
 そうしないと、成功率は落ちる。
 カクテルを差し出しながら、”コンポタ”に依頼された事柄を、”仕事”として、きっちりと行う事にした。最低だとは思うが、まぁ自分も似たような事をしている自信があったし、一般人の心配をするあたり、最低限の愛はあるのだろう。愛なんて幻想だとは思うのだが。それとも彼が、医者だからなのか。”夜”の世界を知る、少数の。

 カクテルを飲んでいる天草を見据える。

一点目――『最初に犯された時の気持ちや記憶』。
 驚いた事に、”ネコ缶”が、関わっていた。
 首を攣ろうとしていた天草の家の呼び鈴を連打しながら、大量出血した”ネコ缶”がやってきたのだ。その為息を飲み、後ろの孔から流れる血をガーゼを貼って抑え、白衣と下衣を着替えて、何食わぬ顔で、扉を開けたのだ。……あの顔は、”ネコ缶”が来なければ自殺していたのだろうと、はっきりと確信できるほどの、虚ろな瞳だった。そして、本人にその記憶はある。

 二点目――『兄扱いと、義理の子供扱いをさせられるようになった時の気持ちや記憶』。思わず”リスナー”は、首を傾げた。天草の記憶の中には、ほとんど性的な関係や記憶が見受けられない。兄や、その義理の子供に対しての、深い悔恨。そして墓標。

 それらが断片的に浮かんでは、消えていく。何故なのか寧ろ、”あの少年に優しい言葉をかけて、守ってやりたかった”……”兄さんの代わりにそれが出来たら良かった”。――嗚呼、重ねられている。痛みが心地良い。コレで、コレで、こうして罰せられる事で、兄の代わりになったり、あの子を救えたりするのだろうか。痛み、痛み、痛み。優しくしないで欲しい、傷つけて欲しい。

 そんな感情が、断片のように浮かんでは、消えていく。時折そこに、悲惨な、鞭で打たれる光景や、絶望するほどの快楽の光景が混じり込むが、虚ろな、それらなどよりもずっと、天草は、悔恨に囚われているようだった。

 こんな深い闇は、”リスナー”ですら、中々触れた事が無くて思わず息を飲んだ。
 何故こんなに自罰的なのだろう。
 勿論、『兄扱い』や『義父扱い』され、いつの間にか言わされている自分の断片も、そこにはあったが、それらを無意識に泣き叫んで口にしていても、ただ機械的なだけだった。

 体が辛くて泣き叫ぶ事など、ただの断片であり、本人の記憶は薄い。
 体を重ねた記憶自体だけが、正確に意識に残っているようではあっ
 たが、それは暗い断片的な闇を殺すためのものに思えた。それでも、本当に無機質というのが正しいように、言わされて、泣き叫んでいる光景は、確かにたまに、長い苦痛を味あわせているようだったが――それよりも暗い断片が、そこにはある気がした。

 三点目――『本当に記憶が無く、病院の受診をしていたのか』。病院の受診に関しては、心や記憶を見るまでもなく、とっくに調べはついていた。

 確実に病院には、行っている。しかし、しかしだった。皆精神科の受診を勧める中で、一人だけ、 そうたった一人だけ……男同士の同性愛専門のBarで飲んでいた医師に接触した時に、その医師は口にしたのだ。

『俺は最初にDVを疑ったけどね』
『体の鬱血痕なんて、キスマークにしか見えなかったし』
『腰が怠い、そりゃ突っ込まれてるんなら、当然だろうな。綺麗な顔をしてたし』
『試しに直診だって言って、乳首撫でたら、震えたしな』
『手が痛いなんて言って、アザを見せてたけど、俺からしたら、アレは手錠の跡だな』
『足が震えて、膝が痛い――そりゃ無理な体勢させられたら、そうなるだろ』
『ただ本人が、相手のせいだとは思ってないのか、健忘か。覚えて無さそうだったな』
『ま、俺の嗜好からして他の医者には言えなかったけどな』

 もう、三点目は、心を読むまでもなく確信していたが、心を読んで、その通りだと分かった。本人には――受診はしているが、記憶はない。

 そこで、勝手に気になる、四点目を探る事にした。

 四点目――『恋人同士になった理由』。見てみれば、別に脅されたわけでも何でもなく、逆に天草側から告白したようだった。それも、兄によく似た自分と重ねられているのが、とうとう辛くなったという理由で。初めは代わりでも良いはずだったのに。

 ――体を重ねた事自体の記憶はあるのだろうが、性的な深い事は何も覚えていないようなのに、ここに来て初めて、愛のようなものが見えたような気がした。

 ”リスナー”にとって、それは無意味なものだったが、他人を見ている分にはそうでもない。何故なのか? だが、それが分からない。

 考えられるのは――”兄の不在”を本当に意識して、”あの子”即ち”コンポタ”を守りたいと思ったのか。あるいは逆に、”コンポタ”に、何かがあったから、”兄の代わりに守らなければ”とでも思ったのか。

 更に深く内心を読めば――”ネコ缶”が、大怪我をした”コンポタ”を天草クリニックに連れて行った過去が見えた。そこにあったのは、深い悲しみと、動揺、そして、やはり闇だった。

 ”リスナー”には、何となく分かった気がした。

 怪我を見て思いだし、守らなければと思った相手に、強引に犯されて死にたくなって。けれど守らなければというその記憶だけを頼りに、兄の代わりになろうと、体だけでもせめても、と体を重ね、次第に痛みで罰せられているのだと気がつき、しかし快楽に絡め取られた時には、誰かに許しをこいたくなって、それで全てを忘れてしまったのだろう。

 そこから生まれた快楽という罪悪感と、兄の代わりにならなければと言う決意、それらを愛だと錯覚して、どうにか呼吸が出来ているのだろう。きっと、どんなに明るくてれているように見えても、彼を包むのは深い闇で、綱渡りでもするかのように、脆い糸の上をなんとか歩いている状態だ。いつでも切れて破れてしまいそうな脆い糸の上を。

 誰がそうさせたのか。

 誰にだってある、死への悔恨はあるのだろう、もっとなにかできたはずなのに、と言う思い。一般人ならの話しだが。しかし、その心を深く深く裂き嗤うように抉ったのは、”コンポタ”だろう。

 ”コンポタ”が、天草に己の義父の名を出して、天草の心を汚していったのだ。


「ソルティー・ドッグ」

 明るい天草の声で我に返り、”リスナー”が笑顔を浮かべた。

「いいねぇ。僕も久しぶりに飲んじゃおうかな」
「一杯くらいなら奢るよ」
「ごちそうさまです」

 そんなやりとりをしながら、ごく自然に二人は、歓談した。
 ”コンポタ”の話しはあえて避けて。
 しかし天草は、”リスナー”のそんな様子には、気づいていないようだった。


 その時丁度、”コンポタ”が姿を現した。

「先生、待った?」
「ううん」
「やだなぁ、天草先生、時計気にしてたじゃん」

”リスナー”の声に、天草が赤くなる。

「ちょ、ちょっと僕、お手洗いに」

 その時まるで、羞恥にかられたように、天草が席を立った。
 扉が閉まるのを確認してから、”コンポタ”が、真面目な顔で”リスナー”を見る。

「其の一。自殺しようとしてて、縄を用意してたら、重傷の”ネコ缶”が来て、我に返った感じ」

 その言葉に、自然と差し出されたバカルディを飲みながら、”コンポタ”が険しい顔をした。

「其の二。どちらかと言えば、”兄の代わり”や”義理の甥”を守らなきゃならないっていう罪悪感かな。性的な方面よりも」

 さらに”コンポタ”の表情が険しくなった。

「其の三。病院の受診は確実にしてる。性的な記憶が無かったのも間違いない。まぁ、体を重ねたって言うのは、”コンポタ”の話からして覚えてるんだろうけど、普通病院では言わないだろうね。ただ、『体にきつい事をされてる』って判断した医者が一人いた。ただ性行為自体を覚えていない可能性があるって」

 ”コンポタ”が俯いた。眉間に皺が寄っている。

「其の四。コレは僕が好奇心で調べた事だけど、先生が、告白した理由。恐らく快楽を感じてしまった自分への蔑みと、”ネコ缶”が大怪我した君を連れてクリニックに行った時に、つまり最初に感じた”兄の代わりに守らなきゃ”って意識。快楽も、その意識も、多分本人は自覚したくなくて、”愛”や”恋”って名付けたんじゃない? そう言う形も、一つの在り方なのかもしれないとは、思うけどね」

 音を立てて、”コンポタ”がグラスを置いた。丁度その時、天草が戻ってきた。
 その姿を、睨むように”コンポタ”が見据える。
 そして――……無理に天草を抱き寄せると、顎を掴んで上を向かせた。

「え? どうしたの? ”コンポタ”」

 が、天草の問をかき消すように、”コンポタ”が、深く、深く、深く天草の唇を貪った。

「っ」

 人前という事もあり、真っ赤になった天草が、必死で押し返そうとする。
 しかし”コンポタ”は、それを許さず、角度を変えてまた、口腔を嬲った。

「あ」

 そして引きずり出した舌を甘噛みする。

「んっ」

 苦しくなって肩で息をした天草を静かに見据え、再び強く抱きしめた。

「先生、さぁ」
「え?」

 蕩けるような瞳で、天草が涙ぐんでいる。

「僕はもうね、子供じゃないんだよ?」
「え、何?」
「僕がね、先生を守ってあげられるんだよ?」
「……え、え?」

 訳が分からない様子で、混乱しながらも、天草の頬はまだ上気し赤くなっているままだった。必死に深呼吸している。

「はっきり言えば――先生じゃ、創助さんの、義父さんの代わりにはなれない」
「っ」

 その言葉に目を見開き、天草が息を飲んだ。

「だって、僕ね、今一番、祐助先生の事を、恋人として好きで、もう、もうね、義父さんだなんて思えないんだよ。それに僕はもう、葬儀の時に迷いがあった自分じゃない。だから僕に、祐助先生の事、守らせてよ。僕を子供扱いしないでよ。分かった?」

 天草はその言葉に呆然としている。
 あーあー、直球だなぁと、その様子を”リスナー”が見て、苦笑していた。

 最早糸なんて断ち切って、それどころか、脆い天草の心に全部ひびを入れて、だけど――多分、割れた卵の殻のように、その向こうに光が差し込んできたのだろう。

 そう思ったのは、何度も頷いた天草が――泣くように笑ったからだった。