<3>”ネコ缶”の餌は、一つだけ。(★)


 タクシーで嵯峨のマンションへと向かい、そのまま寝室に連行された。

「あの、シャワー」
「なんだ? 香水の匂いでも落としてくるのか?」

 強引に押し倒した嵯峨が、意地悪く笑う。
 意味が分からず困惑していると、片手で嵯峨がネクタイを緩めた。
 もう一方の手では、引きちぎるようにして、ナナキのシャツの首元を乱暴に開く。

「うッ」

 唐突に首筋をキツく吸われ、思わず目を伏せナナキが声を漏らした。
 そのまま、シャツの下から左の乳首を摘まれる。

「あ、ぇ……ン」

 久しぶりだと言う事もあり、一々嵯峨の指先の感触に、緊張してしまう。
 シャツの下をまさぐられたまま、首筋を舐められた。そして軽く噛まれる。

「痛、ぁ、ン、ううっ」
「好きだろ?」
「え、あ……ッ、ンあ」

 今度は逆の手を、唐突に下着の中まで入れられて、性急に撫でられた。

「ひ、ッッ、ンァ」

 乳首と下を同時に弄られ、涙が浮かんでくる。

「ッ!」

 そして胸の突起を強めに摘まれ、息を飲んだ。
 それからベルトを外され、下半身の服を剥かれる。

「あ、ァ、嵯峨さ……ンぅ」

 より激しく片手で扱かれ、嵯峨と最後に会って以来自分でもシていなかった事もあり、すぐに先走りの液がこぼれる。

「や、ァ、んぅッ」
「女にされてもそうやって喘ぐのか?」
「な」

 唐突に言われた言葉に目を見開くと、失笑したような顔で、嵯峨が先端を親指で強く嬲った。

「うぁッ、や、止めッ」
「ああ、中の方が良いのか?」

 冷たく笑ってから、無理矢理ナナキの口の中に二本の指を入れ、舌を嬲る。

「フぁ、んぁ」

 暫しそうしてから、唾液に塗れたその指を後孔へと突き立てた。

「ンんぅ……う、ァ」

 久しぶりの行為で、慣らされるわけでもなかったから、痛みがある。

「きついな」
「ひッ」

 しかしそのまま指を押し込んで、ナナキの感じる場所を強く突く。
 もう一方の手では、ナナキの陰茎を掴んだままだ。

「あ、あっ、あッ、ッッ」

 ガクガクと体が震え、両方の刺激が耐え難いほどの快楽を呼び起こし、強く瞼を伏せてナナキが頭を振る。

「ンあァ、や、やだ、出る……ッんぅッ」
「そんなに早漏で、相手をイかせてやれるのか?」
「な、何を……ッあ」
「もう、後ろでされないとイけないだろ? それとも、他の男に抱かれるのか?」
「ンァ――!! やァッ!!」

 今度は根本を押さえられ、イけないままでいる内に、指を引き抜き、奥深くへと嵯峨が腰を進めた。

 激しく突かれて、痛みと圧迫感と快楽がない交ぜになり、訳が分からなくなってくる。

「あ、ッ、嵯峨さ……うっ、ン!!」

 右膝を無理矢理上に持ち上げられ、今度は角度を変えて、ユルユルと突かれる。

「うう、ぁああ……ぅんあッ!!」

 感じる場所を刺激され、息が出来なくなる。
 その上、イきたいのに、嵯峨の手がそれを許してくれない。

「ヤ、ぁ、嵯峨さ……」
「俺に抱かれるのは嫌か?」
「ち、違ッ」
「何で最近来なかった?」
「うあァ!!」

 いきなり動きを止められて、腰が震える。

「や、やだ、止め、動い……て……あああッ、僕、もう……」
「質問に答えろ」
「だ、だって、だ……ッ」
「他に相手が出来たのか?」
「ま、まさかッ……うぁあああッや、ヒぁ、イきた……イきたい、ぅッ」
「俺以外じゃイけないようにしてやるよ」
「え、あ……?」

 何を嵯峨が言いたいのかよく分からなくて、ナナキがゆっくりと瞬きをする。

「お前、男が好きだろう?」
「うッ、違」

 嵯峨が好きなだけだった。

「違わないだろう?」
「あああッ!!」

 のけぞったナナキの白い喉が震える。涙が睫を濡らしていた。
 再び感じる場所を乱暴に突き上げられ、背がのけぞった。

「言え」
「えッ……? え、ぁ、アア、な、なんて……?」
「俺のことが好きで、俺じゃなきゃ満足できないってな」

 何を当たり前のことを言わせられるのだろうかと困惑しながらも、
 何度もナナキは頷いた。

「す、好きだよ、嵯峨さんのことが好きだ……あああッ!! や、やァ、あッッ」
「で?」
「さ、嵯峨さんじゃ、なきゃ、満足ッ、できな……ンあ――!!」

 そのまま後ろを強く刺激され、同時に前を扱きあげられ、ナナキは射精しガクリと弛緩した体をベッドに預けた。それからぼんやりと、涙が浮かんだ瞳で嵯峨を見る。

「……なんで」
「……」

 まだ、ナナキが暫く来なかったことや、よりにもよって女と買い物になんか出かけていたという事実に、嵯峨は苛立っていた。そもそも、嵯峨は両性ともに体を重ねた経験があったから兎も角、ナナキは男と体の関係など持ったことがないはずだ。やはり、女の方が良いのかも知れない。それも、同年代の。そう思えば、またイライラするのだ。

「嵯峨さんは……何で、俺とするの? ……何で、何で……ッ」

 ボロボロと泣き始めたナナキを見て、やはり嫌なんだろうなと思えば、溜息が出た。

「好きな人がいるのに……何で」
「何だって?」
「……っ、浮気は、良くないよッ」
「――お前、本気で俺に、恋人が出来たとでも思ってるのか?」
「恋人じゃなくても、他に好きな人とか、セフレとかッ、う」

 ナナキの声に嗚咽が混じる。
 それまで、”リスナー”達の言葉は冗談だろうとすら思っていた嵯峨は、言葉を失った。

「そ、それも、僕より大切な……っ、食器とかそ、そろえるような……ッ」

 ナナキが泣きながら、震える声で言った。
 ああ、馬鹿な奴だなぁと嵯峨は思い、苦笑しながら、繋がったままの体を動かす。

「ひゃッ!!」
「良いか、よく聞け」
「ああッ、ぼ、僕まだ無理……ッんぅ!!」

 緩慢に体を動かしながら、そういえば”リスナー”に言えと言われたなと思い出しながら、嵯峨は続ける。

「あれは全部、お前用だ」
「えッ、うぁ……あ、ああっ」
「それに俺は、お前をセフレだとは思ってない」
「な、ッあ、え?」

 それは、セフレですらないと言うことなのかと、ナナキが体を震わせた。

「じゃ、じゃあ何で? ッあ……ど、うしたらッ……ンァあっ」

 再び抽送を開始され、ナナキが声を上げる。

「それじゃあ、僕、また、もう、嵯峨さんの家に、来られなく……フ、ぁ」
「何だって?」

 嵯峨が動きを止めて、ナナキを見据えた。
 ナナキは片腕で、双眸を覆っている。

「セフレですらなくなったら、僕、ンァ、や、動いて、ねぇ!!」
「……ああ」

 再び腰を打ち付けながら、片手で、ナナキの陰茎を握る。
 ゆるゆるとそちらを動かしながら、激しく中を突いた。

「ああっ!! やァっ、うあ!! ま、待って、僕またッ」
「お前、俺のこと好きか?」

 今度は、命令ではなく、聞いてみた。

「んぁ、あ、好きだよッ」
「それは、イきたいからか?」
「ち、違……僕ずっと、何回も、な、ぁあああっ、い、言ってたのにッ、ああっ、やぁア!!」
「本気か?」
「うぁああああっ、や、やだぁ、も、もうイッんぅ」
「俺の恋人になりたいか?」
「あ、ッ、ううっ、ふぁ」
「答えろ」
「な、なりたいよ。ううンあ、なりたい、なりたいに決まってるっ、んァ!!」
「そうか」

 なんだか心が温かくなったように、嵯峨は感じた。

「あ、ぁああっ、ひゃっ、ぅああああっ、あ、ア、も、もう……っんぅ!!」
「お前の部屋を用意したから、引っ越してこい」
「え、あ、ああああっ!! やぁああッ」
「嫌か?」
「そ、そうじゃなくて……ふ、ぁ、嘘、本当に……? んあああああ!!」

 激しく突かれ、睫を震わせながら、ナナキが言う。
 それから、濡れた瞳で嵯峨を見上げた。

「ぼ、僕のこと……恋人にしてくれるの?」
「――ああ、そうだな」
「う、嬉し――……ああああああ!!」

 そのまま一際強く突かれて、ナナキは再び果てた。
 同時に嵯峨もまた、精を放ったのだった。

 煙草を吸い始めた嵯峨を見ながら、シーツにくるまったままで、ナナキはぼんやりとしていた。多分、また来ても良いのだろう――だが、恋人にしてくれるというあの言葉。あれは、恋人になりたいかと聞かれた時に、もうセフレとしてですら今日まで会えない現状が辛かったから、いっそ断られても良いとすら思いながら、聞いたのだ。

 そうしたら、「ああ、そうだな」と返ってきた。だが、好きだと言われたわけではない。そうだな? そうだな!? それって、『そう言う呼び名でも良い』という意味かも知れない。他のセフレと切れたから、僕しかいないのかも知れないなと、ナナキは考えた。

 多分それは、”夜月時計の世界”を知るセフレが、都合良かったからではないのだろうか。食器類の用意は、きっと良く泊まるから、優しさだろう。引っ越してこいと言うのも、その方が、ヤりやすいのと、”夜月時計の世界”から身を守る時に、このマンションの方がセキュリティ上良いから、身を置けという意味かも知れない。

 だとしても、嵯峨のそんな優しさが嬉しい。
 ナナキはそんな事を考えながら、嵯峨を見ていた。

 すると、不意に嵯峨が、視線をナナキへと向けた。

「おい」
「は、ひゃい!」

 緊張して舌を噛んでしまったナナキは、慌てて起き上がった。
 いそいそと服を着る。

「……さっきの話だけどな」

 やはり、冗談だったと言われるのかと思うと、ボトムスを穿く手が震えた。

「ナナキ、お前さ、本当に俺のことが好きなんだな?」
「はい……いつも言ってるのに」
「恋人になりたいというのも本心か?」
「恋人じゃなくても……会いたいです。会っても良いなら」

 ナナキは、やはり、嵯峨は恋人と喧嘩中か何かなのだろうかと考えていた。
 一方の嵯峨は、それはやはり、セフレの方が良いと言うことなのだろうかと眉を顰めた。

 その表情を見て、ナナキはやはり、恋人関係になると言うのは、嵯峨の本心ではないのだろうと思う。だが――会えない期間の辛かった事を思い出せば、仮に嵯峨に好きな人がいたとしても、一緒にいたいと思うのだ。だから決意した。きっぱりとフラれるまでは、頑張ろうと。

「でも、恋人になってくれるんですよね?」
「まぁな」
「引っ越してきても……良いんですよね?」
「ああ」
「その……家賃の半額とか、多分此処高いだろうから、すぐには払えないかも知れないけど、僕バイトします。もっと」
「別に良い。払う必要はない」
「え、でも……」
「バイトをしてるのか?」

 そう言えば、あまり会話をしたこともないし、ほとんどナナキのことを知らないのだなぁと改めて嵯峨は思った。連絡先だって、今日初めて携帯に入ったほどなのだ。

「定食屋さんで、週4で昼間」
「大学に行っているんじゃなかったのか?」
「もう三年の後期だから、ほとんど単位取り終わってるから。その定食屋さん、不思議で、和食がメインのはずなのに、メニューにナポリタンとかインドカレーとかもあるんです」
「――どうしてもやりたいんじゃなければ、そのバイトも辞めろ」
「え? でも、家賃が……」
「今まで、そのバイトで、あのアパートの家賃を払っていたのか?」
「はい。夜は居酒屋もやってるから、三年の前期までは自給が良いそっちをメインにやってました。今は、人手がどうしても足りない時だけで、夜はやってないけど。それに、夜の外は怖いし」
「もう家賃の心配はしなくて良い。引き払え」
「は、はい。でもそんな、悪いし、それに……バイト、好きと言えば好きなんですけど、それ以上に、収入無くなったら、教科書代とか服代とか、その……」
「金の心配はいらない。出してやる。いくら欲しい?」

 嵯峨のその言葉に、ナナキはハッとした。

 これはもしかしてもしかすると、セフレから、囲われている愛人という奴になったのではないのかと。それって、それって、それってどうなんだろう!?

「あ、え? 僕、愛人!?」
「は?」

 思わず口をついて本心が出てしまったナナキに対して、嵯峨が眉間に皺を刻んだ。

「そ、そういう意味か……僕、勘違いしてました」
「そうらしいな。現在進行形で、お前は、勘違い中だな」
「ごめんなさい」
「全くだ。何で俺が、愛人囲わなきゃならないんだよ」

 苛立つように煙草の煙を吸い込み、嵯峨が目を伏せた。

「俺は単純に、お前が他の奴らに愛想を振りまくのが嫌だって言ってるんだ。それで金に困るんなら、俺が出す。それだけだ」
「え」
「お前は俺の恋人になったんだろう? あれは、冗談か? ヤってた時の譫言か?」
「う、あ、違いますけど……だ、だって、嵯峨さん……俺のこと……そ、その」
「あ?」
「好き、じゃないですよね……?」
「は?」

 嵯峨は目を開けて眉を顰めた。ナナキが困惑したような顔をしている。

「どうして好きじゃない奴と恋人になるんだ?」
「っ」
「俺に好かれたら、迷惑か?」
「ま、まさか! 嬉しいです!」

 今度はナナキが満面の笑みを浮かべた。
 なるほど、言葉に出さなければ伝わらないんだなと、改めて嵯峨は思う。

「引っ越しは何時にする?」
「えっと、二ヶ月前に、大家さんに言わないとなら無いから……」
「今すぐで良いな、明日にでも来い。二ヶ月分ぐらい、払ってやる」
「え、けど」
「ちなみに家賃とバイト代はいくらだったんだ?」
「5万と自給1300円でした」
「5万と、週4なら……せいぜい割の良いバイトだな」
「一年の時からやってるんで、家賃の関係で値上げしてもらったんです。前はコンビニの夜勤と一緒にやってたんですけど。そっちを辞めて、夜の居酒屋も手伝って欲しいって言われて以来」
「光熱費込みで前の家の8万分と……なんだ、前は、2千円でやりくりしてたのか?」
「はい。リスナーのお店は、リスナーが良くしてくれるから行けて……」
「……じゃあ、この家の生活費込みで、5万やる。勿論、俺も買ってくるから、残りは小遣いな」
「いや、え? そ、そんなに……」
「俺が出したいだけだ。気にするな」

 気にしない方が無理だとナナキは思った。
 同時に、いつもツケだと言ってただに近い値段で飲ませてくれていた”リスナー”に、コレで返済できるという思いもあった。が、やはり悪いなぁと思う。その思いが一番強い。

「あ、あの」
「なんだ?」
「僕も、キッチンとか使っても良いんですか?」
「あたりまえだろ」

 ならばせめて家事をやろうと、ナナキは決意したのだった。

 それにしても――嵯峨さんが僕のことを好きになってくれた! その事実が、ナナキにとってはどうしようもなく嬉しい。もう一度言って欲しかったが、聞いてやっぱり嫌いだと言われるのが怖い。

「明日の昼、車だしてやるから、引っ越してこい」
「はい!」

 そんなこんなで、二人は同棲することに決まったのだった。