<5>嵯峨 旭――(★/※)



 随分と飲んだ……飲み放題だったのが悪いのだろう。

「着いてこい」
「ん」

 足取りが怪しい”ナナキ”を、送っていこうと思ったのは、ただの嵯峨の善意だった。
 何せもう――”夜月時計の世界”の時刻が到来しているのだから。

 しかしどうにも、上気した”ナナキ”の白い頬や、トロンと虚ろな目を見ていると苦しくなって、気づけば安全な廃ビルを選んで、中へと促していた。

 ”ナナキ”の背後で、鉄の扉を施錠して、コンクリートが打ちっ放しの周囲を見る。
 すぐ側の壁に”ナナキ”の体を押し付け、立ったままで静かに視線を向けた。

「……嵯峨さん?」

 自分の名前がこぼれた瞬間、嵯峨は”ナナキ”の唇を奪っていた。

「っ、あ」

 驚いたような”ナナキ”の声が漏れる。
 しかし酔いで萎えそうなものなのに、どうしようもなく嵯峨は、”ナナキ”の姿に欲望を煽られていた。――欲しかった、欲しかったのだ。

 無理矢理逃れようとする”ナナキ”の舌を絡め取り、深く口腔を貪る。

「――ふぁ」

 唇を離せば、二人の唾液が線を引いていた。

「なんで」

 困惑したように、それでもトロンとした瞳をしたまま、”ナナキ”が呟く。

「俺は送り狼なんだろ?」
「え」

 何か言おうとしていた”ナナキ”の声には構わず、緩く穿いている下衣の中に、嵯峨は利き手を入れた。そして下着の上から、”ナナキ”の陰茎をゆっくりと触る。

「ァ……っ」

 小さく漏れた声には構わず、もう一方の手では、ジッパーを下ろし、シャツの中を探った。そして左の胸の突起をはじく。

「う、ぁ」

 そうしながら乳首を嬲り、片手では”ナナキ”の自身を性急に撫で上げる。

「ああっン、ぅ……ア」

 嬌声を上げ始めた”ナナキ” の首筋に、それから噛みつくようなキスをした。強く吸えば、白い肌に紅い華が散る。

「ひゃ」

 しかし手の動きは止めず、乳首から離した手でベルトを外し、下衣をおろす。

「う、ぁああッ、や、ぁ」

 快楽ゆえなのか、ガクガクと”ナナキ”の体が震え始める。

 ”ナナキ”には脳天を貫くように、背骨を軋ませるようにして、快楽が這い上がってきていた。それらは血管に行き渡るように、全身を熱くしていく。羞恥を堪えるようにキツく噛みしめた唇からは、吐息混じりに時折煽るような声が漏れていた。

「ヒッ、あ」

 前のボタンを全て開いてから、少し強めに”ナナキ”の陰茎を掴む。

「あ、あ、あ」

 そのまま快楽を強制的に煽るように、壁に押し付けたまま、嬲った。
 先走りの液がこぼれ始めた”ナナキ”の瞳にもまた、涙が浮かんでいる。生理的な涙だろう。ゆるゆると先端を弄られ、体から力が抜けそうになる。

「や、ァ……も、もう、立っていられないッ」

 震えるように”ナナキ”が言う。その甘い響きに、嵯峨は体が熱くなるのを自覚していた。壁と嵯峨の間で、”ナナキ”が白い太股を震わせている。

「うァ……は、あ」

 嵯峨が身を退くと、”ナナキ”が崩れるように、床に落ちた。座っている彼の両足を押し開くようにして、嵯峨が体を進める。

「ゃ、ヤ――!! あ、あッ!! 待、待っ……――ンあ――!!」

 ”ナナキ”の、解されてすらいないキツイ中へと無理に腰を進め、泣き声を耳にしながら、嵯峨が吐息する。

「痛いか?」
「え、あ」

 酔いも手伝っているのか、最早訳が分からず、ただ”ナナキ”は、体を震わせるしかできない。両足の先端が丸まり、ピクピクと動く。半ば無意識で、両腕を嵯峨の首に回していた。いつの間にか、挿入される度、ぬちゃぬちゃと音を立てるようになったから、恐らく結合部から流血しているのだと思う。だが、痛みよりも熱さと、快楽が強すぎて、何も考えられなくなった。

「ひゃ、あ、ああっ」

 そうしながら乳首を両手ではじかれ、身もだえて腰を動かす。

「――気持ち良いか?」

 不意にそう言い、嵯峨が”ナナキ”の先端を撫でた。

「ン、あ、ああッ、ひ、ヤだ、ァ……あああああ!」

 同時に内部で感じる箇所――先日、嵯峨に教えられた箇所を突かれ、”ナナキ”は嬌声を上げ……同時に精を放っていた。中にも温かい感触がする。それで、嵯峨もまた放ったのだと、ぼんやりと考えた。

 アスファルトの床に座り込んだまま、”ナナキ”は嵯峨を見上げた。
 何故なのか――好きだと思った。多分、好きなのだろうと独りごちる。
 体を離すと、白液と血液が、”ナナキ”の体から漏れ出していた。
 奥にある硝子窓からは、月が覗いている。
 淡々と自分を見おろしている嵯峨は――嗚呼、綺麗だなと思った。



 その時だった。


「え?」


 びちゃりと音がして、派手に嵯峨の右側頭部が潰れた。


 顔にかかった、ぐちゃりとした肉片。それは灰色をしていて、そして同時に桃色でもあった。腐ったチーズと、色の薄い苺ジャムを混ぜ合わせたような色合いをしていたのに、浴びた感触は、柔らかい馬刺しのブロックに似ていた。

 間断なく”ナナキ”の頬に飛んでいく血液。

 何が起こったのか理解できないまま、慌てて頭を押さえようとして、そして――……結局何も出来ないまま、嵯峨は意識を失った。ただ、驚いたように息を飲んでいた、”ナナキ”の表情を、最後に見たまま。

 ――これが最後ならば、そう悪い人生では無かった。