<7>瓦解していく日常★


 多分、僕は酔っぱらっていた。
 だから肩を支えられて、気がつくとソファに座っていた。

 水を差し出され、周囲を見回し、乱雑に見覚えがあるネクタイが置いてあるのを見て、此処が何処なのか、気がついた。嵯峨さんのマンションみたいだ。

 ――死なないで、と。

 そうだ、僕は。
 マンションに来ないかと誘われた。だから、ちょうど良いと思った。
 死ぬなと釘をさすために。

 コーヒーの良い匂いがしたから、ああ、飲み干す前に告げようと思ったのに。

 次の瞬間、僕は真剣な顔をした嵯峨さんに押し倒されていた。
 乾いた唇に貪られ、息苦しくなって吐息する。
 その瞬間、舌が僕の中へと入ってきた。初めての経験に瞠目する。
 ――今まで誰も僕に、キスなんかしなかった。

 それは僕にとって、初めての出来事だ。
 焦燥感にかられた様子の嵯峨さん。僕が初めて見る表情だった。

「悪い、止められない」

 僕の衣服をはがしながら、嵯峨さんが言う。

「なんで――」
「下心のある男の家に、酔ってついてきて介抱されるお前が悪い。それに多分、好きなんだよ、結構」

 なんだろう、その理屈。
 ポツリと切ない顔のまま、嵯峨さんがつぶやいた。
 たった一言だけだったのに、僕はそれだけで、涙がこぼれそうになった。

 やっぱり、酔っているみたいだ。

 第一、結構僕のことが好き? ――こんな僕が? 何か目的があるんだろうとしか思えない。たげど、それが明確にはわからない。僕に出来る事なんて何もないし、僕は何も知らないんだから。

 だけど。

 気づけば嵯峨さんの首に腕を回し、僕は縋りついていた。
 その間に、無言の僕の前をはだけさせ、嵯峨さんは僕の下衣をおした。

「う、ァ」

 そして口に僕の陰茎を含み、両手で乳首を嬲る。
 乳首を触られただけでも下半身に直結するほど、体が熱い。なのに、嵯峨さんの口淫は止まらない。

「や、ああっ、ン」
「本当に嫌なら、止める」
「!」

 目を見開き、僕は思案した。多分僕は……嫌じゃない。嫌じゃなかった。それは物理的に男根を口に含まれているという意味も勿論あったが、どこかで嵯峨さんに触られたいとも思っていた気がする。

 だけど……そんな事は言えない。何せ、今後も顔を合わせる可能性が高いのだから。仮にからかわれているのだとしても、きっと僕は辛くなる。それに嵯峨さんが側にいない未来なんて、考えたくなかった。僕は同性愛者じゃないはずなのに。嵯峨さんも、そうなのだろうか?

「ひゃッ、う、あ」

 その時、ぬるぬるとしたローションで濡らした指を、嵯峨さんが押し入れてきた。

「あ、あ、ァ、やぁ……あ、そ、そう言う意味じゃなくて。その……嫌じゃない」

 僕が精一杯否定すると、嵯峨さんが喉で笑った。
 まったく酷い。

「ひ、ああっ、ン――そ、そこは、」

 僕の言葉に反応するように、内部の好いところを揺らすように刺激した後、不意に浅く指を抜き差しされて、体が震えた。――慣れてる。

「や、あ、ううッ」
「やっぱり嫌なのか?」
「ち、違ッ」
「じゃあ何が嫌なんだ?」
「気持ちよすぎて――ふぁ……おかしくなりそうだよ、僕はこんなのしたこと無い………」

 静かに告げると微笑してから、嵯峨さんが中へと腰を進めた。

「う」

 その圧倒的な質量、今までには感じたことのない衝撃に、僕の体はのけぞった。

「ひゃ、あ、ああっ、や、あ、ああッなんだよコレ」
「動くぞ」
「待って、待って、今されたら僕、僕……」

 泣きながらそう言うと、嵯峨さんが苦笑した。

「分かった、少し待つ。息を吐け、きつい」
「ん、うん」

 言われるがままに深くを吐息した時、ユルユルと内部を揺さぶられた。
 そうしながら、嵯峨さんが僕の自身を撫でる。

「あ、ンは、も、もう」
「大丈夫か? いい加減動くぞ」
「ンあ――ひぁ、ひゃ、ああっ」

 そのままガンガンと腰を打ちつけられる内に、僕の体がビクリと震えた。
 涙が止まらない。同時に前からも、僕は精を放った。

「ここが好きなのか?」

 だが意地悪く笑った嵯峨さんは、僕が感じる内部を突き上げる。

「イヤ――あァ、あああ!! こ、壊れ……っ、ひ」

 しかし硬度を増したまま、嵯峨さんは笑っていた。
 その後嵯峨さんが果てた時は、もう力尽きた僕は、ベッドのシーツに身を預けていた。
 もう朝が来たようだった。

 嵯峨さんは既にシャワーを浴びに行ったらしく、隣に温かい温度が無いのが、少しだけ寂しかった。



 ああ、また――”夜月時計の世界”の時間がまた終わり、”朝陽時計の世界”の時間が来るのだ。僕はまだ一度も武器なんて使った事も無かったし、巻き込まれたら僕の方こそ即死する自信がある。だけど僕と嵯峨さんの共通点は、”夜月時計の世界”だ。きっと昨夜のことは、嵯峨さんの気まぐれだろうけど。

 多分コレが――僕が”夜月時計の世界”に囚われた端緒となったのだった。