<∞>安倍桜(☆※?)



 そこは、平安時代のような場所にある草原だったが、まだ明るい空
 には、赤紫色の大きな月が覗いていた。

「桜、一体何がどうなってるの?」

 ススキをかき分けて晴明が、そこへと姿を現した。

「”どれ”が、ですか?」
「――柊のことだよ」

 桜の姿を見つけた晴明は立ち止まり、下げたひょうたんから、懐から出した赤いさかずきに酒を注ぐ。静かに飲み干してから、首を傾げた。

「ああ、晴明様。いやぁ、僕がエロい儀式回避したくてついた嘘、みんな信じちゃって。ほら、僕、外見は病弱じゃないですか」

 笑みを含んだ、悪気なんて全くないという様子の声に、晴明は目を細めながら微笑した。

「で、君の分の仕事も柊がしてたんだ? それどころか、予想外に沢山、必要ないお仕事も?」
「豪華な暮らしは大切ですからね」

 その声を聴きながら、肉体とはつくづく邪魔なものだなと晴明は思う。

「――ならさ、祀理くんが死のうとした時、どうして柊にあんな事言ったの?」

 静かに尋ねると、失笑するように桜が目を伏せた。

「自分が辛いくせに、人を庇って意地悪なフリしてるのみてたんで、ちょっとイラッときちゃって」

 再び酒を注ぎながら、ふぅんを晴明は頷いた。
 自分と”現実”で会った時の事すら、柊が覚えていないのは、何となく癪だったが、それは兎も角だ。何せ、皆愛するわが子なのだから。

「あんまり虐めちゃ駄目だよ」

 そう告げてから酒をあおっていると、桜がうっすらと目を開けて微笑した。

「もっと虐めたかったんですけどね。晴明様のせいで、九重さんと仲良くなっちゃったからなぁ」
「君も誰かと仲良くなれば?」
「僕が一番仲が良いのは、清明さまでしょう?」

 その言葉に、晴明は無表情になって、さかずきをしまった。

「それ本音?」
「え?」

 一方の桜は、ニヤニヤと笑っていた。嗤っていた。実に楽しそうな愉悦まみれの表情をしていたのだ。

「――君は≪異形≫と体を重ねるのが好きで、ここに来てるのに?」

 晴明はそう言って周囲を見渡した。
 その草原は、≪異形≫の群れで満たされていた。そもそも、晴明は、桜の元へと渡っていたわけではない。異形を求めて桜が、此処へと辿り着き、居座ったのだ。

 様々な異形と交わり、犯し犯されながら、桜はよがり笑っている。

「だってこうしないと”反転薬”が作れませんもん」

 響いた桜の声に、別にもう良いかと思い、晴明は踵を返した。
 それよりも気になっていたのは、『尻尾落としました、助けて下さい』と、塔頭ほとりという塚守から手紙が届いていたことだったりする。

 本当に、変なところで器用だなぁなんて思っていた。

 その様にして、また、一つの風景も終わるのだった――もっともその場は終わりのない世界なのだったけれども。