<6>お役目★


 目が醒めた時、祀理は見知らぬ部屋にいた。
 隣では何故か座り込んだ、安倍桜が泣いていた。
 安倍柊は、ほぅと細い息を吐き安堵したような顔をしている。

「良かったよ、丁度≪異形≫が結界を喰い破ったところだったから。やっぱり”榊様”だけあって、そう言うのに敏感なのかも知れないね。まぁ意識が無くても、それはそれで、問題はなかったんだけど」

 するとそう言った柊を、立ち上がり、平手で桜が叩いた。相変わらず泣いたままだ。
 一方の柊はと言えば、手を頬に添えてはいるものの、眼をスッと細めて冷淡な瞳をしている。

 目の前で繰り広げられている光景が良く分からず、祀理は首を傾げる。

「あの、」

 祀理の声に二人の視線が揃って向いた。

「何か大切な話しがあるんじゃなかったんでしたっけ? そ、その、三役の。あれって、ホテルを指定されてた気がするんですけど――……場所が変わったんですか? それで、俺は何で寝てるんですか?」

 本気で訳が分からないと言った顔をした祀理は、それから不思議そうに左手首を見据える。

「「!」」

 まさか、まさか……覚えていないのか?
 呆気にとられて柊が息を飲んだ時、桜が悲しそうな顔で眉を顰めた。

「君はね、その……か、花瓶にぶつかって、その破片で手首を傷つけちゃったんだ。頭に直撃してたから、忘れちゃったのかも知れないですね」
「え、あ、それって、おいくらくらいですか……? 俺、俺、弁償できますか?」
「うん、大丈夫ですよ。君が無事なのが、何より良かった事ですから」

 柔和な笑顔で、桜が告げた。
 それを一瞥してから、柊は目を伏せた。
 柊は、それが祀理の嘘であろうが、桜の優しい嘘であろうが、別にどちらでも構わないと考える。そして、祀理の布団を剥いだ。笑顔を浮かべる。

「悪いんだけど、三役の仕事が出来たんだ。”榊様”行ってもらえるかな?」
「あ、は、はい!」

 慌てたように立ち上がった祀理に対して、微笑しながら、”儀式のための衣”である、黄緑色の着物を、近くに置いてあった入れ物から、柊は手に取った。

 そして、息を飲んでいる桜には構わず、それを着付けていく。

「あれ、夏ってこの色で良いんでしたっけ?」

 しっかりと教えた事を覚えているんだなと苦笑しながら、柊は頷いた。

「これは儀式だし、色はね、うん、変わる場合もあるんだよ。生地や模様で――さぁ、行こうか」

 そう告げた柊に連れられて、祀理は部屋を出ようとする。
 その時座ったまま唇を噛み、泣きそうな顔をしている桜が視界に入った。

「えっと、桜様」
「?」

 突然声をかけられ、涙を堪えるように、桜が祀理を見る。
 祀理は、これからどんな儀式が始まるのかは知らなかったが、笑って見せた。何となく、己のために泣いてくれているような気がしたからだ。

「俺は、大丈夫です。平気です。花瓶割っちゃったのは、アレだけど……だから、泣かないで下さい。その、その花瓶が桜様にとって凄く大切なものだったのかもしれないけど――きっと、今度、もっと桜様が大切に思えるようなものを用意します。それに自過剰かも知れないけど、俺のために泣いてくれてるんなら、俺何にも気にしてないんで、涙拭いて笑って下さい。その方が嬉しいです」

 祀理が苦笑しながら告げると、けれど、更に桜は泣いてしまった。
 何の効果もなかったなぁと思いながら、手を引かれるままに柊に着いていく。

「――祀理くんは、さ」

 それから暫く歩いた時だった。
 不意に、足を進めたまま、柊が呟いた。

「はい?」
「今から、辛い儀式させようとしてる身で何なんだけどね。本当に、体も力も関係無しに、大切な”榊様”なんだよ。もっと自分の事を考えて良いんだよ」
「自分の事、ですか……」
「うん」
「俺、自分の事しか、逆に考えてないですよ」
「え?」
「泣いて欲しくないと思ったら慰めたり、花瓶に当たって記憶跳んで手首が痛かったら、なんで痛いんだよって思いの方が強くて、寧ろ花瓶の大切さより、自分の体が可愛いし。ニンジン嫌いだから食べないし。世界には百円とか二百円で救える命があるって聞いても募金しないし。飢餓で苦しんでる人がいるって知っててもご飯残しちゃうし」

 祀理がそう言うと、暫く考え込むようにした後、柊が苦笑するように笑った。

「そっか」
「はい、そうなんですよ」
「じゃあ、代わりに、慰めたり、手当てしたり、花瓶を買い直したり、ニンジンを食べたり、募金したり、ご飯を残さないようにするよ」
「ええ? な、なんでですか?」
「何でだと思う?」
「えっと……――俺が、”榊様”だから?」
「ハズレ」
「?」
「君が、”祀理君”だからだよ――きっと、これからも、辛い思いをさせる事になるだろうけど、ゴメンね」

 笑いながら柊はそう告げた。

 ――けれど何故なのか柊は、これまで何年も泣いた事など無かったはずなのに、瞳から涙がこぼれそうになったから、上を向いて誤魔化した。天井が歪んで見えるなんて、初めての経験だった。



 障子の前で、柊と別れ、襖を開けて室内に入った瞬間だった。

「!」

 急に細い触手に体を締め上げられて、祀理は息を飲んだ。
 気配で、六月の式神だと分かる。
 何故分かったのかは、祀理にも良く分からなかったが、多分前に囚われたからだろうと納得した。絡められた触手が左右の手と腕を絡め取った時、僅かに左の手首に痛みを感じた。つり上げられるようにした時、着物の下がまくり上げられて――

「ひ、ぁ」

 中へと玩具が押し込まれる。ヌルヌルとした液体に塗れた、突起突きの太い木製の張り型だった。祀理が浅く息をしていると、正面に四條由真の顔がある。真剣な表情で彼は、祀理の胸の突起それぞれにも、針のようなものが中央についたキャップをはめた。

「うあああッ」

 その痛みに背を逸らそうとしたのに、体を締め上げる触手がそれを許してはくれない。

「大丈夫、中央にある針は、式神だから、傷は付けない」

 だとしても、あまりにも唐突だったから、涙がこぼれそうになる。

 するとその特、口の中に、二葉佳織が瓶を押し当て、そのまま片手を当てて、鼻から上の唇までを覆った。瓶の中に入っていた気体を、口で吸い込む。

 それを確認するようにしてから、佳織が、一宮宗信へと振り返り、頷いた。

「説明は後でしてくれ、時間がないんだ」

 しかしそれを遮るように走ってきた七木に、無理矢理口づけされた。

「ンぅ」

 奥深くまで、舌が入り込んでくる。
 乱暴なキスで、舌を絡め取られ、吸われ、甘噛みされて、その僅かな疼きに体が再び震えそうになった。しかし、やはり触手じみた式神がそれを許してはくれない。

 さんざん口腔を貪られ、涎が垂れた時、虚ろな瞳で祀理は険しい顔をしている七木を見た。

「悪いな。本当に、悪い。すまない」

 苦しそうな悲しそうな目で一言だけそう告げた後、再び真剣な表情に戻って、彼は踵を返した。

「先に行く」

 そうして七木弘は走り出した。半分ほど襖が開いたままになる。

 それを見送ってから、改めて一宮宗信が、肩で息をしている祀理の正面に立った。

「……――≪異形≫に安倍九尾の結界の一部を喰い破られた。大量に侵入されているから、各家の当主が総出で行かなければ、皆が死ぬような状況なんだ。お前の力が必要だ。我慢してくれ」

 そう言うと一宮は、既に触手ではだけられていた、祀理の男根を口に含んだ。

「う、ああッ」

 いきなり口で荒淫され、体が、今度こそ、触手の力すらはねのけて、ガクガクと震えた。性急に嬲られて、直ぐに祀理の陰茎は立ち上がる。

「ンあああッ――!!」

 そしてそのまま、あっけなく祀理は精を放ち、グッタリとした。一宮がそれを飲み込む。しかし、体にまとわりついた触手型の式神は、相変わらず祀理の足を強制的に開き、拘束している。

「説明は一宮がした。これでこちらの仕事は、他にはない。俺も行く」

 それから、一宮もまた、踵を返し、走り出した。今度は襖が、開け放たれた。これでは通りかかったら、誰かに見られてしまうと、ぼんやりと祀理は思った。その時だった。

「んぅあああッ」

 いきなりドロドロとした液体まみれの二本の指で後ろの感じる場所を何度も突かれ、再び陰茎を口へと含まれた。見れば、二葉佳織だった。

「やだ、やだぁ、ああああッ、待って、待って、まだ俺ッ」

 相手の頭を掴んで拒否しようにも、触手に絡め取られているためそれが出来ない。必死に太股を動かし足を閉じようにも、それも出来ない。ただ内部の前立腺を的確に突かれ、無理矢理男根を口と中で勃起させられ、泣いている内に、再び祀理は精を放った。

「悪いけど、二葉も先に出る。馬鹿の一つ覚えみたいに前に出て斬る事しかできない一宮の補佐をしないといけないからね。九字やセーマンを切れるのは、二葉だけだから」

 そう告げ、襖を閉めながら、二葉佳織は出て行った。

 これでやっと解放されるのかと考えていると、今度は、三輪に口淫された。

「ンあああああ!!」

 もう出ない、それもこんな性急にされてももう無理だ。
 体が辛くて、祀理は泣き叫んだ。

「む、無理だよッ、あ、ああ!!」

 だが何も言わずに先端を舌で嬲り、両手で祀理の竿を擦りあげる。
 すると何故なのか、体が弛緩した。
 グラグラした意識に、自分の体が怖くなる。
 祀理の体に、先ほど二葉佳織が強制的に嗅がせた気体が染み渡ったのだった。

「う、うあああッ、やだぁ、何これ、あ、アアア、イ、イく、あ、出るっ!!」

 泣きながらそう叫んで射精していた祀理の姿に苦笑して、三輪が頷く。

「さすがは二葉の媚薬だな。安心して良いよ、中に出さなくても、少ししたら切れるから」

 三輪は涙を零している祀理の頭を軽く撫でてから、振り返り眼を細めた。

「三輪も出る。張り直せなくとも、最低限、結界は塞いで待ってる」

 そう言って彼もまた走り出した。
 急激に熱くなった体にクラクラしながら、触手を剥がそうと、祀理の腕と腰が震える。

「ごめん」

 次は四條由真が、祀理の陰茎を口へと含んだ。

「あ、あ、ああっ」

 もう訳が分からなくて、祀理はただ、嬌声を上げるしかできない。

「ンぅ、ああああ!! いやぁああああ!! あ、ああっ、いや、いやぁ、も、もう、あ」

 しかし唇を上下させ、無表情で、四條由真は、強制的に快楽を煽る。
 その時唐突に後ろに入っていた張り型を揺らされ、強く突かれた。

「んぁあああ!!」

 その衝撃で、再び祀理は果てた。
 弛緩しきった体では、もう思考が朦朧とし始める。

「四條も七木の補佐に出る。一人では無理だから」

 そして少しばかり、切ないような、悲しいような、それでいて愛おしむような視線を祀理に向けた後、四條由真もまた走り出した。もうすでに、祀理は襖の事など気にならなくなっていた。

 その直後、何も言わずに五瀬に陰茎を含まれた。

「――!! ッう、あ、アア」

 最早声が掠れ、漏れるだけになる。けれど懸命に頭を振る。いくら媚薬に体を煽られようとも、限界は、限界なのだ。

「いや、いやぁあああ!! も、もう、うう、あ、イけな、い、よぉお!!」

 しかしその声には構わず、五瀬は口淫を続け、それから二葉佳織がしたように、内部へと指を突き立てた。

「ああああ!!」

 そして乱暴に前立腺を刺激され、射精を促すように前では唇で扱きあげられて、再び祀理は精を放っていた。もう意識がほとんど無いような状態で、体を触手に預けている。

「結界は、九重が来なければ、二人じゃ張り直せない。だから、五瀬も紐縛りで、三輪の補佐をしてる。早く来いよ」

 それだけ言うと彼もまた走り出した。祀理は泣きながら、九重まであると言う事は、全員分あるのだろうかと、何処か乖離した意識の中で考えていた。しかし触手の式神を用いている六月は、後にまわされたようだった。また七木も既に外へと出ているため、次は、八坂家だった――弟の舞理だ。

「いやだ、いやあ、いやだぁ、舞理、舞理、何で、兄弟でこんなッうう、あ」

 射精も出来ないくらい先端からは透明な液が滴っていたが、それ以上に弟に触られるというのが、祀理にとっては、何よりも辛かった。

「ごめん、祀理。この前は酷い事したって自覚在るけど、それでも、それでも好きなんだよ、ちゃんと――でも今はそれを関係無しに、祀理が放棄した八坂の当主は俺なんだ。俺なんだよ、っ、俺だってこんな風にしたくない、だけど、でもね、一匹や二匹の遊んでいられるような≪異形≫の数じゃないんだ。だから、だから、我慢して」

 泣くようにそう言った舞理の姿に、祀理は体を震わせながら、絶句した。
 確かに、榊の襲名以前に、八坂の当主の襲名を弟に押し付けたのは自分なのだ。
 舞理だって苦しんでいるのかも知れない。
 だとすれば、それは自分のせいだ、で、でも、もう――体辛すぎた。

「あああああああ!!」

 これまでの皆とは異なり、唐突に陰茎を突き立てられた。
 激しく打ち付けられながら、前を扱かれる。

「ふ、ああ、ああ、あ、ああっんんんんぅ!!」

 双眸を伏せ、祀理は頭を振った。耐え難い刺激に、苦しくなって唇を噛む。
 その瞬間腰を引かれ、目を見開いた途端、一番感じる場所を突き上げられていた。

「やぁあああ!!」

 同時に前を強く刺激され、もう透明になってしまった精を祀理は放った。

「八坂も先に出ます。戦力を考えると、俺が三番目で良かった。式神使いの六月さんが最後にまとめて、消すのが一番効率的ですし」

 陰茎を引き抜きながら、先ほどの言葉など何も気にしていないように、舞理が淡々と冷静に言いながら、九重を見た。

「結界も、時間がかかる全ての修繕よりも、先に一部をふさぎに出た方が有効ですよね。九尾の持つ数の意味がやっと分かった気がします。では」

 それだけ告げると、祀理を一瞥する事もなく冷淡な表情で、舞理が走り出した。
 それを見送ってから、九重が嘆息した。

「――気にするなよ、八坂の事。アイツは普段どっちかって言えば、笑ってる。今がそうじゃないのは、緊急時だからじゃなくて、まぁ”榊様”を守れ無かったらって言う緊急事態ではあるのかも知れないけどな、頑張って、お前への感情を押し殺してたんだ」

 その言葉に涙をボロボロ零し、もう頬に筋を作りながらも、祀理は静かに頷いた。

「……っ、あ、……む、昔からっ」
「ん?」
「舞理は……ああああッ、あ、体、辛い、やぁあああ!!」
「何?」
「あ、あの、あ、だ、だから、昔か、から……頑張ってる時ほど冷静になろうとするの、俺知ってるから、うあぁああああ!! も、もう、あ、あああッ」

 その言葉に目を瞠った後、静かに笑ってから、九重がゆっくりと男根を突き入れた。

「んぁああ!!」

 そして今までの誰とも異なり、ゆっくりと揺らすようにする。

「あ、あ、ああっ、や、やぁあッ、う」
「大丈夫か?」
「ま、待って、あ、ああああッ」
「ん?」
「そんな風にされたらまた俺、あ、ああああ!! も、もう出ないのに、いやァアアア!! も、もっとぉ、あ、あああ!! つ、突いてっ、うぁああ」

 もう自分が何を叫んでいるのか分からなくなるほど、祀理の理性は飛んでいた。

「ああ、いいよ」
「ふ、あ、ああああッ!!」

 途端、九重の体の動きが早まった。
 そして前を片手で扱きあげる。

「中でも精はとれる。ただ、前でイってもらえれば、だけどな。苦しいだろうけど、我慢してくれ、祀理君」

 そう告げられ大きく突き上げられた時、再び精を放ちグッタリと祀理は体力を失った。

「六月。最後だからって、あんまり酷くして時間使うなよ。さっさと楽にしてやれ。それで、戦力になれよ。お前の式神が一番、広範囲で効くんだからな」

 言いながら祀理の頭を撫で、苦笑した後、真面目な顔をして、九重が走り出した。
 それを見送ってから、吐息に六月が笑みを乗せた。

「まずは、四條君の忘れ物を外してあげないとね」
「んぁッ」

 六月の手で、両方の胸の突起から、機具が外される。だが。

「うあ、あああああああ!!」

 かわりに触手が巻き付いてきた。

「もう出すのきつそうだから、強制的にもらうよ。釘も刺されたし、急がなきゃならないから」

 その時触手の一本が、祀理の尿道へと入ってきた。

「ひゃぁあああああ!!」

 思わず声を上げていると、細い二本が今度は後ろの中へと入ってきた。

「いや、いやああああ」

 そして前と後ろから同時に緩急を付けて刺激される。
 自由になった腰で何度も動き、ガクガクと祀理は震えた。
 すると――……

「ンああああア――!!」

 無理矢理搾り取るように、前に入っていた触手に中を吸われた。
 精が出ていくのが分かる。
 それを確認したかのように、触手達が、祀理の体から離れ、畳の上へと下ろした。

「このままにしていくのは、凄く心が痛むんだけど……私も行くよ。九尾の”仲間”だからね。案外私は、冷たくない人間なのかも知れない。君の意識が無さそうだから言えるんだけどね、みんなの事が、大好きなんだ。――最近はそこに、君も加わったんだよ、本当に。だから、二つも月がない世界で今度こそ、”今夜は月が綺麗ですね”って言えるように、頑張ってくるからね」

 そう告げ意識の無くなった祀理の体を抱きしめるようにして、畳の上に横にしてから、六月もまた走り出した。ついてきた触手が、少しだけ襖を開けたのだが、振り返っている余裕など、もう何処にもなかった。