<4>赤い紐★


 その日祀理は、安倍三役の大切な話があるからと言われて、ホテルの一室へと呼び出された。高級そうなホテルの外観だったが、通された部屋は、思いの外狭い。

 よく見れば、他の部屋に繋がる扉があったから、開ける扉を間違えたか、指定された大きな部屋の一つの位置を間違えたのだろうと考える。暖色の灯りが室内を覆っていて、薄暗く、窓のない部屋だった。家具はと言えば、ベッドしかない。

 別の部屋に移動しようと考えたその時の事だった。
 丁度扉が開き、安倍桜が入ってきたのだ。

「あ、」

 あれ、ここであっていたのだろうか?
 と、祀理が考えていると、微笑んだ桜がベッドに座った。

 まぁ大切な話というくらいだし、密談なのかも知れない。そう言うものには、こうした部屋の方が適しているのだろうかと、経験のない祀理は考える。

「榊様も座って」
「あ、はい」

 頷いて桜の隣に座った――途端だった。

「!?」

 急に詰め寄られ、壁際に押し付けられる。
 目を瞠った時には既に、目隠しされていた。

「実はね、五瀬の出身なんだ」
「え」

 と言う事は縛るのはお手の物なのだろうとは思ったが、何故今自分が急に目隠しされたのかが分からず、祀理は硬直した。

 そうして呆然としている内に、今までには経験のないおかしな縛り方をされた。
 膝立ちにさせられ、いつもは着物が脱ぎやすいようにされるのに、逆に脱ぎづらいような縛り方をされた。ただ足は、やろうと思えば腰を下ろして……開けるような縛り方だった。

「あ、あの……?」
「終わったかい、桜」

 そこに扉の音と、柊の声が響いた。

「う、あ、え?」

 混乱して声を出した祀理には一切構わず、柊は、なにか、かちゃかちゃと音を立てている。

「終わりましたよ」
「こっちも終わったよ。後は、押すだけ。それは任せていいんだよね?」
「はい、でもその前に、柊様。アレ、塗らないと」
「ああ、そうだった」

 その時、恐らく柊がベッドに上がってきたらしく、振動がした。

「そうそう、実はね、僕は二葉の出身なんだよ」
「……え?」

 散々二葉佳織に媚薬を盛られた祀理は、冷や汗が出そうになった。

「うあッ」

 そしてやはり想像通り、強い媚薬を、後孔の奥深くまでと、唐突に突き入れられた指で塗りたくられた。

「や、やめ……っ、あああッ」

 これは、中に精液を出されるか、”世界”が変わるまで効果が切れない媚薬だ。大抵この媚薬を使われると、散々嬲られる事を、最早本能的に祀理は理解していた。

 目隠しをされ、膝立ちにされたまま、祀理は背を撓らせる。

「榊様、苦しいですか?」
「ふ、ァ、は、はい」
「榊様、これから柊と桜の命令に従ってくれたら、楽にしてあげるよ。僕たちの質問も、全部復唱が必要な場合は復唱して、それ以外は『はい』って、言って下さいね。まずは、桜が『良いよ』って言ったら、『柊と桜の命令には何でも従う』って言って」
「んぁあ、は、はいッ」

 這い上がる熱に意識を犯され、祀理は無我夢中で頷いた。
 それから寝台から二人が降りる音がして、どこかへ歩いていくのが聞こえる。
 置き去りにされるのではと言う恐怖が、祀理の中に募ってきた時だった。

「良いよ」

 なにか、その直後、音がした気がしたが、もう祀理には、何も判断が出来なくなっていた。

「あ、ああっ、俺、はァ、柊と桜の命令には何でも従う、からぁッ」

 すると、柊の声が響いてきた。

「そう? 本当ですか、榊様」
「あ、う、うんッ」
「じゃあその証拠に、自分で着物をはだけて、両方の乳首を自分で弄って下さい」

 柊のその声に、無我夢中で祀理は、自由になっている両手で、着物をはだけようとした。
 だが、紐のせいでそれが中々出来ず、もどかしくなって、腰を揺らす。
 暫く頑張っていると、漸く着物がはだけた。

「あ、ああっ、うあ」

 自分の親指と人差し指で乳首を何度も何度も摘みながら、祀理は嬌声を上げた。
 目隠しをされたままだったから、その感覚がより敏感になったように思えた。

「ふぁ、ああ」
「気持ちいいですか?」

 桜の笑みを含んだような声に、ガクガクと祀理は頷いた。

「気持ちいい、気持ちいいよぉッ、ふぁ、ああっ」
「自分で両方の乳首を弄るのが、どうしようもなく気持ちいいんですよね?」
「お、俺は、自分で両方の乳首を弄るのが、ど、どうしようもなく、気持ちいいッ、あ」

 それに忍び笑いしているような二人の吐息が聞こえた。

「乳首、尖ってますよ?」

 いつもとは違い、敬語の柊。

「摘んでみるだけじゃなくって、擦ってみたらどうですか?」

 桜が柔和に言う。

「あ、ああ、あああ」

 言われた通りに、人差し指だけで、胸の突起を何度も動かした。
 体がより辛くなっていく。
 すると柊が言った。

「けど榊様は、胸だけじゃ、足りないんですよね?」
「た、足りな、いッ」
「じゃあ、後ろの孔を弄ってみたらいかがですか?」

 桜の言葉に、とっくに熱くて仕方が無くなっていた後孔に夢中で中指を入れた。
 何度も何度も抜き差しする。体が熱くて辛くて仕方がない。

「あ、ああッ、あ、ああっ、うあ、も、もっとぉ」
「じゃあ、二本にしてみたらいかがです?」

 柊に言われ、祀理は、素直に中指と一緒に人差し指を入れた。
 そして無我夢中で指を動かす。
 だけど、そんなものじゃ足りないほど、祀理の体は熱くなっていた。
 ぐちゃぐちゃと音がしているのが自分でも分かる。

「もう足りましたか?」
「や、やだぁああっ、足りな、足りないよぉ!!」
「では、一番感じる場所を突いてみたらいかがですか?」

 嘲るような柊の言葉に何度も頷いて、指を折り曲げた。

「ひッ、あ、アアっ!!」

 しかしそれは、熱を煽るだけで、体をより辛くする効果しか持たない。

「気持ちいいんですか、そこが?」

 桜のその声に、首を振ってしまいそうになったが、何でも命令を聞かなければこの熱から解放してくれないのだという言葉を思いだし、必死に震える体で頷いた。

「き……きもち、気持ちいいっああああッ」
「じゃあそこを、暫く弄ってみたらどうですか?」

 楽しそうに柊に言われて、涙がにじんできたのが分かる。だが、分厚い目隠しは、きっと濡れないだろう。仕方がないので、何度もその箇所を刺激した。

「あ、ああああッ、あ、い、いやぁあッ」

 しかし最早辛すぎて声が止められない。

「指じゃ足りないって事ですか?」

 困ったような桜の声が響く。
 体をガクガクと震わせた祀理は、必死で何度も頷いた。

「足りな、足りない、足りないよぉッ!!」
「仕方がありませんね」

 溜息をつきながら、柊が言う。

「では、一度、自分で、前を触って達して構いませんよ」

 その声に、祀理は、無我夢中で膝立ちのまま、両手で何度も陰茎を擦った。
 しかしゆるく縛られた紐のせいでイけそうなのに、イけない。

「ああっ、ンあ」
「ああ、そうでした。榊様は、乳首も触らないとイけないのでしたね」

 悲しそうに桜が言った。そうしろという命令だと理解して、左手で乳首を弄りながら、右手で前をさっきよりも強く扱く。

 すると何故なのか、先ほどとは異なり、縄が緩んでいて、祀理は達する事が出来た。

 ぐったりと体が弛緩し、腰を寝台に預けてしまう。
 すると縛られた両足が開き、丁度M字の様に開脚する形で横になった。

「その上、一回イっただけじゃ満足できないんですよね」

 呆れたような声で柊に言ったのだが、祀理には、その意味がよく分からなかった。

「ちゃんと右の枕元に、『ご命令』通り用意しておきました。なんと仰って下さろうとも、私たちは、貴方の忠実な部下ですので」

 何を言われているのかは分からなかったが、きっと枕元に手を伸ばせと言う事だと思い、頑張って腕を動かす。するとそこには、巨大なバイブがあった。

「うッ、あ」

 今度こそ嗚咽が漏れてしまい、まさかそれを挿入するわけではないよなと、祀理は震えた。

「歓喜し涙するほど喜んでもらえるだなんて。さぁ、存分に使って――入れて下さい」

 桜の嬉しそうな声が響く。
 もう嫌だと、目隠しされている布の下でキツク双眸を伏せながらも、静かにそれを己の菊門へと宛がった。

「私たちの事は気にせず、いつものように、抜き差しして下さいね」

 柊の声に、泣きそうになりながらも、それを中へと入れる。

 大きくて、苦しくなりながら、きっと奥まで入れなければ、もっと酷い目に合うのだろうと考えて、祀理は、深くそれを突き入れた。

「さ、榊様? 本当に、気にしないで、いつもの通り、激しく抜き差しして下さってくれて良いんですよ? いくら、命令に従うなんて、そんなプレイをお望みになっても、やはり、こちら側としては……」

 悲しそうな桜の声に、これは、無論あちら側の命令じゃないかと思いながら、仕方がないので、ゆっくりとバイブを引き抜く。痛みがしたが、それ以上に、中を蹂躙している耐え難い熱に浮かされていた祀理は、気がつけば何度も激しくそれを動かしていた。

「あ、ああっ、うあ、ああああ、いや、いやぁあああ!!」
「榊様は、本当に後ろがお好きなんですね……」

 今度は柊が悲しそうに呟いた。

「それも、犯されたいなどという願望をお持ちで……」

 困ったように桜が言う。

「縛られ、手錠をかけられ、目隠しされて、むち打たれ、蝋燭を垂らされながら、バイブを深々と入れられて、乳首に填めたピアスに紐を通して虐められたいだなんて……」

 二人のそんな声を、もう熱で訳が分からないまま、激しくバイブを出し入れしながら、祀理は聞いていた。いいや、聞いていなかった。正確には、快楽が強すぎて、聞こえてすらいなかったのだ。

「ああっ、ンああっ、やぁあああ!! ま、また、またイっちゃうッ」
「構いませんよ」

 淡々と柊が言った瞬間、祀理は果てた。
 その時、カチリという音を聞いたが、意識は最早、朦朧としていた。

「良くできたね」

 柊の優しい声がして、後ろから抱きかかえるようにされる。
 そして正面からは、桜が紐を解いた。
 それから背を伏せ、うつぶせになるようにして、静かに祀理の陰茎の側部を舐める。

「うッ、ああっ」

 その刺激だけでも辛くて、体が震えそうになるのに、もう体の中が熱いという思考以外、ほとんど何もない祀理はぼんやりとして、喘ぐだけだった。

 すると、紐が全て体からほどかれた感覚がした。
 それから、目隠しだけ残して、桜が寝台から降りていく。
 そして、何故なのか残されていた目隠しを、その時、柊がほどいた。

「っ!!」

 祀理は、相変わらず体は辛いままだったが、息を飲んで目を見開いた。


 そこには、カメラがあったのだ。


 こちらをまじまじと映しているカメラが。
 何らかの機具を、正面にあったモニターに桜が繋いでいく。
 呆然としていると、そこに己の姿が映った。
 暫くの間は、見据えている事しかできなかった。

『あ、ああっ、俺、はァ、柊と桜の命令には何でも従う、からぁッ』

 その後、涙がこぼれ、体が震えた。そこには赤い紐で縛られ、膝立ちで、目隠しされて、無理矢理着物を押し広げ、乳首を弄っている自分の姿があったのだ。

『気持ちいいですか?』
『気持ちいい、気持ちいいよぉッ、ふぁ、ああっ』
『自分で両方の乳首を弄るのが、どうしようもなく気持ちいいんですよね?』
『お、俺は、自分で両方の乳首を弄るのが、ど、どうしようもなく、気持ちいいッ、あ』

 思わず口元を両手で押さえ、泣いた。

「高名な榊様の痴態です。みんな見たがっているでしょう。高邁を叩いても。きっと、うん千万は下りません。これは安倍九尾家の収入にも繋がりますし――みんなに恥ずかしい姿を見せて喜ばせるのも、貴方の大切な仕事でしょう?」

 自分の痴態にも、何もかもが嫌で。なのに、なのにだ。媚薬を塗られた内部は熱いままなのだ。もう、もう、もう、こんなの、嫌だった。

「あれぇ、勃ってますよ?」

 桜がその時、馬鹿にするように言った。

「自分の痴態に感じちゃった?」

 耳元で柊に囁かれる。だがその吐息だけでも媚薬に犯されているから辛くて、体が震えて、背がしなった。

「お、お願い、イれ、てぇ、うう、ああああ」

 気持ちとは一致しない言葉と体。
 すると柊が後ろから突き上げて、前は桜に咥えられ、暫く嬲られてから、やっと媚薬から解放されたのだった。そして。涙を零したまま、無表情で、祀理は横たわっていた。