<4>二葉佳織★


 みんな馬鹿じゃないのか――それが正直な、二葉佳織ふたばかおりの感想だった。
 実際幾人かは、祀理の体を暴いたようだという報告も入っている。

 真面目に守ったのだと、一宮くらいのもので、皆程度に差はあれ、手を出している。

 そもそもこの計画自体、京都の本家から離れた”榊様”と、公的に会い力を手に入れるための機会を作っただけにも関わらず、本当に馬鹿だ。

 本日はお台場周辺をいく屋形船の予約をしている。
 ――それなりに高級な屋形船だから、和服に着替えて欲しい。

 そんな風に伝えたら、コレまで屋形船になどに乗ったことの無いらしい祀理は、佳織の言うがままに和服に着替えてくれた。勿論下着は着けさせない、それが和服を着る時の正当なルールなのだと、江戸時代の文献を持ち出して教え込んだからだ。

「ひさしぶりだね、急にごめんね。丁度東京に来ることになったから、どうしても祀理君の顔が見たくてさ」

 実際には、佳織の中では、どちらかと言えば”祀理”という名に価値は無かった。
 その名で呼ぶのは、あくまでも親しさの演出だ。

 そして東京へ来る用事なんて無い。
 他の家の動向との兼ね合いなどを考慮して、祀理の空いている日程をおさえたにすぎないのだ。今のところ、媚薬を用いたこと以外、嫌われる要素はないし、あの媚薬自体、慣れない祀理を慣らすためだと言い聞かせてある。彼はそれを素直に信じていた。

「俺も、会えて嬉しいよ」

 頬を持ち上げ、柔和に祀理が笑った。安倍九尾の他の当主も馬鹿だとは思うが、今代の”榊様”は、それ以上に頭が悪い――と、思っていた。ただ、目が合わない事実は、今、確信している。

 その上、確かに快楽を自分たちは煽っているだろうし、晴明様の器であり、九尾の狐の血を引く淫乱であるとしたところで、あの声には、絶対的に演技が混じっていると思うのだ。元々の声や唇が色気があり艶やかだから勘違いしそうになるが。当然瞳もそうだ。虚ろになる時は、快楽と言うよりも、体力の限界を表している気がする。

 だとすれば、本当に寵愛を受けるには、心底の快楽を教え、愛の言葉を囁いてやった方が良いだろう。だが、見る限り九尾はドSの集まりだ。まずは、祀理の望む悦楽を知らなければならないだろう。

「まぁ、座って。僕たちはさ、同じ歳だし……こんな状況じゃなきゃ、良い友達に慣れたと思うんだ」

 二葉はあえて辛そうに笑ってみた。すると息を飲み、苦しそうに微笑して、祀理が正面の席に座った。既に日本酒の常温酒は側に置いてあったが、あえてそれは畳の上に置き、本当はこの屋形船には常備されていないメニュー表を差し出してみる。

 これは、これが、大学生の普通の飲み会の仕様だと知っているからだ。何せ二葉もまた大学生だったから。

「いつもだったら一杯目は生なんだけど……こんな高級なところに来たことがないから」
「いいじゃん。僕も、一杯目は、生ビールを飲みたい派なんだ」
「本当か?」

 柔和に笑った佳織に、安堵したように、祀理が笑った。
 ――当然指示は出してある、祀理側のジョッキには、アルコールが入っていても関係無しに効く媚薬を少量ずつ仕込むことを。聞かなければ、ローションで腸摂取のみするものを使うつもりだった。

 それから直ぐに、料理と酒が運ばれてくる。
 小さく乾杯をして、麦酒を飲む祀理の、動く白い喉を見守る。その様子すら、色情を呼び覚ますのは、”榊様”だからだと、佳織は良く理解していた。

「このお刺身美味しいな。俺、サーモン好きなんだよ」
「うん、美味しいね。僕はホタテが好きなんだ」
「ホタテも好き」

 楽しそうな祀理の表情に、あえて深刻そうな表情をとりつくる。

「――祀理君」
「ん?」
「今聞く事じゃないのかも知れないんだけど、僕、どうしても聞きたいことがあって」
「何?」
「今、辛くない? その、屋形船じゃなくて。あ、ここが辛かったらそれでも良いんだけど……」

 わざと悲しそうな表情をつくる。表情変化は佳織の特技だった。

「辛い、って……」
「無理に犯されるの」
「っ……」
「詳しくは聞いてないけど、本家から出た今も、最近、相手させられてるんでしょ?」
「……けど、あの……」
「ん?」
「時間長かったり辛いけど、玩具突っ込まれてるだけだから……はッ、コレが、役目なら、仕方がないよ」
「――っ、そんなの役目じゃないよ!! ただ君の体を弄んでるだけだ!!」

 さも真剣に怒っている風に、佳織は強い口調で告げた。

「え……」
「僕なら、絶対にそんな酷いことはしない。だって、だってね、本当に祀理君のことを話している内に好きになっちゃったんだ」
「っ」
「他の人に君が抱かれるって考えるだけでも辛い。それが役目だって分かってる。だけどそんな風に、弄ばれてるんなら、許せないよ」

 真剣な瞳を取りつくって、正面から、佳織は祀理を見据えた。あるいは、大学に出向いた時以来、これが初めて目があった瞬間だったのかも知れない。

「佳織……」

 呟いた祀理がその時、不意に遠い目をして苦笑した。

「俺にそんな価値無いよ」
「え?」

 まさかそんな回答が返ってくるとは思わなくて、佳織は目を瞠った。
 いつも元気で明るくて、虐めた時だけ、体を暴いた時だけ泣く、それが佳織の中での祀理の印象だったからだ。

「俺は若い内は誰かに抱かれ続けて、その内、それが無くなって、力の使い方を覚えて≪異形≫って奴と戦って死ぬんだろ?」
「そんな――」
「けどそれで良いんだよ。みんな死んじゃったからさ、俺の家族。やっと出来たんだ、今の居場所が。本当は、そんなのどうでも良いって思って生きてきたはずなのに、やっぱり一人は寂しかったんだろうな。それなら抱かれるしか価値が無くても、別に、良いんだよ。ゴメンな、暗い話をしちゃって。麦酒もう一杯飲んでも良い?」
「ああ、いいけど」

 すると明るい声で、祀理が次の酒を頼んだ。
 もしかしたら――成り上がることしか考えてきた自分には、知らない、理解できない闇を、祀理は抱えているのかも知れないと、その時初めて佳織は思った。だが、それがなんだ?

 自分には関係のないことだ。寧ろ付け入り、利用する契機になる。そう思うはずなのに、なのに、何なのだろう、笑っているのに酷く悲しそうな祀理の瞳を見ていると、抱きしめてやりたくなる。全部全部投げ出しても良いから。

 自分のジョッキを煽り、普段は飲まない麦酒の二杯目も、佳織もまた頼んでいた。

「だから時雨さんには、本当に悪いことしちゃったと思ってる。嫌われても当然なんだ」
「そんな事無いよ」
「佳織は優しいな。佳織こそ、今、幸せか? 辛くない?」

 そんな事を聞かれたのは初めてだった。
 新しく届いたジョッキを飲みながら、考える。

 ――当主として、安倍九尾二葉家が幸せになれば幸せだし、ここで”榊様”の寵愛を受けられなければ、きっと辛い思いをすることになるだろう。

 だが、それは、己の幸せとは関係ない。それは、二葉家が家族だから。だが、祀理にはその家族が居ないのだという。一人の人間として、本来は生きていたのだろう。

「――幸せだよ。君と一緒にいられるんだから」

 そう唇が動いた。だけどきっとそれは、本心じゃなかった。嗚呼、どうして僕は、本心を告げられないのだろうかと、佳織は苦しくなった。

「一宮が君のマンションを斡旋したって聞いた時、本当に嫉妬した。本当は、僕がずっと祀理くんの側にいたかった」
「嘘だろ?」
「本当だよ」
「っ、あ」

 二杯目から特に強い媚薬を使うようにと指示を出していたことを思い出した。
 その時、祀理の瞼に水滴がのり、瞼が蕩けた。上気した頬は、酒のせいだけではないだろう。ほとんどからになったジョッキを見据え、本来の仕事を思いだし、佳織は告げた。

「もう一杯頼もうか。空いてるよ」
「う、うん」

 声をかけると、直ぐに三杯目が運ばれてきた。
 自分の方は、ほぼ水のような薄さだから、何の問題もない。

「は、ぁ」
「大丈夫?」

 微笑しながら、自然と隣に座る。三杯目には、一番強い媚薬が入っている。
 それ以後は、人払いをしてある。

「う」

 無理にジョッキを口元へ当て、飲むように促す。

「ちょっと酔ってるみたいだから、薄めの水割りを頼んだんだけど、これで良かったかな?」

 酔った時に、祀理がジャスミン杯を頼むのは調査済みだった。
 頷いた祀理の喉が動く。本当は酔っているわけではなく、媚薬のせいだなどとは微塵も疑っていない様子で、ごくごくと飲んでいる。

「あ、はぁッ」

 しかし、飲むにつれ、それが回るにつれ、祀理の体が震え始めた。

「本当に、大丈夫?」

 介抱するふりで腰に手を回し、肩を引き寄せる。

「や、止めてくれ」
「吐きそう?」
「ち、違う、なんだか、お、俺、もう、俺の体、おかしくなってるみたいで」

 その時、呟くように言った祀理の瞳から、雫が落ちた。

「触られるだけで……っ、苦し、ああああっ、やだ、やだ、こんなのッ、ごめん、ごめん。気持ち悪いよな」

 そう言って必死に目をキツクつぶり、祀理が佳織の体を押し返した。
 嗚呼、効いてきたのかと冷静に考えながら、正座していた祀理の体を、押し倒す。

「気持ち悪く何て無いよ、酔って、体が反応しちゃったのかも知れないね」
「っ、はぁ、ああっ」

 辛そうな吐息を吐く祀理の帯の下を無理に押し開く。
 そして、反応し始めている男根と、今にも零れそうな透明な液を見た。

「こんなの、安倍九尾のせいだ。僕は、僕は、君を助けたい。楽にしてあげたいんだ。今」
「え」
「力とかそんなの、何にも関係ない。辛かったら言って」
「ひ、ァ」

 そう告げると、祀理の自身を、佳織が含んだ。唇に力を込めて前後しながら、舌先では先端を撫で、両手を脇に置く。

「んぁああああッ、や、あっ」

 しかし佳織の口淫は止まらない。次第に祀理のそれが持ち上がっていく。

「ひゃ、あああっ、うあ、あ」

 声が収まらなくて、何度も祀理が首を振る。

「んぅ、あ、ああっ、出る、出ちゃうよっ」

 涙目で告げた祀理に対して、咥えたまま静かに佳織が頷いた。
 その瞬間、祀理が放った。

「あ、ああっ、俺……」
「ねぇ祀理くん。君を見てたら、もう僕も止められなくなっちゃった。辛いと思うけど、嫌だと思うけど、続き、しても良い?」

 佳織がわざと辛そうな顔で言う。弛緩した体で見上げている祀理には、他の選択肢なんてなかった。

 何処にローションがあったのかなんて、朦朧とした祀理の意識には最早のぼらない。
 グチャグチャと二本の指が、中へと突き立てられ、縦横無尽に動いている。

「うぁあッ、は、はァあ」

 その感触に、背筋が剃る。
 そんな様子と虚ろな瞳に、苦笑して首筋を吸ってから、以前見つけた祀理の内部の最も感じる場所を、指を揃えて刺激した。

「! あ、ああああッ、や、やだぁ」
「本当に嫌?」
「あ、はぁ……ッ、んぅ、ヤじゃな……ひ!!」
「嫌じゃないんでしょ?」

 意地悪くそこを重点的に刺激し、祀理の腰が跳ねるのを暫しの間、佳織は眺めた。

「んぁああっ、やだぁ、あああ」
「何?」
「も、もっとぉ……ッ」
「それは、誰に言えって教わったの?」
「や、やぁ、あああああっ」

 今度は少し位置をずらして、再び指がバラバラに動き始める。
 祀理の瞳からは、ボロボロと涙がこぼれた。

「入れて良い?」
「んぅ」
「入れて欲しい?」
「!!」

 入り口の表面にだけ当てられて、刺激される。

「あ、あ、あ」
「言ってごらん? どうされたいの?」
「い、入れて……!」
「僕に入れて欲しいんだ?」
「ああっ、ん、ああああ!!」

 すると中に長く固い物が侵入してきた。それが強く動く。

「何処をどうして欲しいの?」
「突いて、突いてぇ、あああっあ、あああっ、や、さ、さっきの所」
「嫌なんじゃなかったの?」

 意地悪く少しだけずらして、佳織は動かすが、媚薬の効果か、もう祀理には快楽を求め、認識することしかできなかった。

「やじゃない、やじゃないからぁ、ああああっ、や、やめ、いう、ああああッ」
「ふぅん、此処が良いんだ?」
「ああ――!!」

 祀理が目を見開いた、腰がガクガクと震えている。

「うぁ、や、やぁぁぁあああっ、も、もう、で、出るからぁッ」
「後ろだけでイけるようになっちゃったんだ?」
「いやぁああ!! ひ、あ、あああああ!!」

 一際強く突き上げられ、祀理は意識を失ったのだった。