<3>九重空野☆



 池袋の裏路地にある”リスナー”のBar――hermitには、”贄黒羊(くろひつじ) ”の常連客が最も来る。だが、普通の”贄羊にえひつじ”や、待避してきた”討伐機関”の人間、あるいは一般客も来る。一見さんお断りと言うこともない。ごく普通のBarなのだ。

 ただ普通でない点は二点――店事態に結界がはってあるため≪異形≫が来ない事と、”リスナー”が情報屋だという事だ。ある種の待避先の一つとして数えられてもいるから、この店の中では喧嘩は禁止。

 これは暗黙ではなく、公的なルールである。

 本日の来客者一人目は、珍しい事に”コンポタ”だった。大抵彼は、もっと遅い時間に来る。何でも家族と会っていたらしく、時間が出来て、早めに来たらしい。

 頼まれたカクテルを出しながら、”リスナー”は、”リスナー”から”情報”を買いたい一人の客人をひっそりと待っていた。ごくごく珍しいことに、今回の依頼者は”狐提灯”の人間だったのだ。

 そんな風にして待っていると、カランコロロンと店の扉についている鈴が鳴った。
 顔写真を入手して把握していたから、待ち人で間違いない。
 ――九重 空野。

 買うという情報は、≪黒キリン≫――ナナキの良く来る店だった。

「こんばんは」

 柔和な笑みでそう告げると、なんと予想外の所から声が上がった。

「あっれ、空野さん?」
「お、由唯君じゃん。ここに良く来るの?」
「来るけど”四條関連”のお店じゃないよ」
「んー、俺はね、微妙に九重関連できたんだよね。まぁいいや。マスター、っていうのかな、”リスナー”さん?」

 ”コンポタ”の隣の席に座りながら、九重が微笑した。

「はーい。”リスナー”です。あれ、二人、知り合いなの?」

 勿論どちらも安倍九尾の関係者だなんて事はとっくに知っていたが、”コンポタ”の前にスカイダイビングを差し出しながら、作り笑いをしてみる。

「まぁね。ええと、麦酒何があります?」
「日本麦酒から海外の黒ビール、ギネスまで色々ありますよ」
「じゃぁ、プレミアムモルツで」
「はい」

 お通しのミックスナッツを差し出していると、”コンポタ”が視線を向けた。

「何か情報買いに来たの?」

 これまた直球だなと思いながら”リスナー”は苦笑しつつ酒を用意する。

「もう買ったんだ。七木家の亮君……えっと、ここでは君が”コンポタ”で、向こうが”ナナキ”または、”黒キリン”?」
「まぁね。ふぅん。なんでまた? 呼び戻すの? 今更ぁ? ”黒キリン”を」

 頬杖をついた”コンポタ”が、半眼で笑った。

「違う違う、ってか、だとしても九重には権利無いしね。別の理由なんだ。”ナナキ”君の親友に”阿部祀理”君っているみたいじゃん」
「あー、”榊様”?」
「”コンポタ”君も、知ってるの?」
「話くらいは聞いたことあるよ。で、なんで?」
「あのね、安倍九尾の九家で、祀理君と親睦を深める計画を立ててるんだ」

 それを聞いて”コンポタ”が目を見開いた。

「はい、どうぞ」

 その時丁度、”リスナー”が麦酒を差し出す。

「有難うございます。マスターも良かったらいっぱい」
「良いんですか? ごちそうさまです!」

 そんなやりとりを聞いた後、”コンポタ”が爆笑しだした。

「俺さぁ、さっき、どうやったら仲良くなれるんだろうって由馬兄さんから相談受けてたんだけど。何やってんの、安倍九尾! 本当、下らなっ」

 カウンターをバンバン叩いた後、”コンポタ”が腹を抱えて笑い出した。

「いやさぁ、四條の由馬君とかは、多分本気で好きみたいだけど」
「あー、かもねぇ」
「面白いのはさぁ、腹黒の二葉は兎も角、あの真面目鬼畜な一宮も参加確定なところ」
「ガチで全員参加なんだ」
「そ」

 お洒落なジョッキを傾けながら、九重が笑う。

「で? 空野さんは何しに来たの?」
「んー、お友達の”ナナキ”君からさ、榊様が何したら喜ぶか聞こうと思って」
「それ頭良いね」

 二人のやりとりを、ちゃっかり”ズブロッカのダブルのロック”をいただき、乾杯して見せてから飲みながら、”リスナー”は見守った。

「で、”ナナキ”君は今日来るんだよね?」

 その時チラリと九重が”リスナー”を見た。彼は小さく頷く。

「まぁ、今時の大学生の趣味とか難しいしね」

 カクテルを飲みながら、”コンポタ”が言う。

「だってさぁ、由馬兄さん、料理とか? って俺と由季兄さんが助言したら、パスタ茹でさせながら、ローター突っ込んだらしいよ」

 げらげら笑いながら”コンポタ”が言う。
 ”リスナー”が、酒を吹き出しそうになりながら咳き込んだ。

「うわぁ……オープンな兄弟だな」

 九重の顔も心なしか引きつっている。
 この二人、実は高校が一緒だったため、それなりに仲が良いのである。

「けどさ、由馬兄さんは確かに好きみたいなんだよね。空野さんは?」
「んー、あんまり会った事無いからなぁ」
「ふぅん」
「まぁ、俺は”ナナキ”君来るまでは暇だからさ。ちょっと噂の”コンポタ”の話が聞きたいな」
「噂?」
「由季君が触れ回ってるよ」

 その言葉に、”コンポタ”が溜息をついた。

「ひかない?」
「多分な、もう俺、由馬にひいてるから」
「はははっ、なんだそれ。まぁいいか。あのさぁ、俺の義父の創助さんいたじゃん?」
「ああ。由香さんの再婚した」
「そ。その弟。つまり義理の叔父さん。天草祐助さんって言うお医者さん」
「……」

 その言葉を聞きながら、複雑そうな表情で、九重が麦酒を飲み干した。

「もういっぱい良いですか?」
「はい」

 からになったグラスを受け取りながら”リスナー”が頷く。

「――こんな事は言いたくないけどな」
「何?」

 次の麦酒を受け取りながら、スッと九重が眼を細めた。

「”今度”は、殺すなよ」
「何それ」
「お前はさ、見てくれないとかそう言うの理由付けにしてさ、愛に懐疑的になって、勝手に殺すタイプだろ」
「っ」
「創助さんの時だって、自分を見てくれないとかって、そんなような理由だったんだろ、どうせ」
「事実じゃん」
「いや、お前の思いこみ。義父と義理の息子だから、創助さんが自制してただけ」
「な」
「それ知っても、その人のこと好きでいられるのか?」
「あ、あたりまえじゃん」
「へぇ。重ねて代わりにしてるわけじゃなくて?」
「顔しか似てないし」
「抱いてるんだとしたら、顔が似てれば十分だろ」
「っ」

 率直に言われた言葉に、”コンポタ”は眉を顰めた。ただ、でも、違うと思う理由が確固として一つだけあった。

「――あの人、祐助さんの方ね。俺が何気なく『嫌いだ』って言ったら『そっか、嫌いか』って泣きそうな声で言ったんだよ。離したくないって、ここで離したらどこかに行っちゃうって、守りたいって、初めて思ったんだよ。そんな悲しい顔を、俺がさせてるんだと、堪えられないほど辛かった。ズキズキしたんだよ。胸が疼いたって言うか。創助さんの葬儀ですらそんな事思わなかったのに――その上さ、付き合ったから、とことん甘くしてあげたいのに、全部自分の勘違いみたいに、不安らしくてさ、いつも俺の優しさを疑うんだ、俺はそれが辛い。こんな風に、誰かを幸せにしてやりたいなんて思ったこと無い」

 つらつらとそう言うと、”コンポタ”のグラスも空いたから、ありきたりだけど、マンハッタンを頼んでみる。すると九重が苦笑した。

「ああ、そうか。そっか。お前もちゃんと、本気で恋をしたんだな」
「なにそれ」
「俺も、”榊様”に対してそんな風に思えれば良いかもしれないと思ってな。だから今日ここに来た。もっと知りたくて」

 そう告げて苦笑してから、九重は”コンポタ”を改めてみた。

「安心しろ。絶対その相手はお前の顔を見るだけで幸せだから。一緒にいてやれ、それが一番の幸せのはずだ」
「――空野さん。それって」

 本当は、他に好きな人がいるんじゃないのか?
 聞こうと思ったけれど、”コンポタ”は聞けなかった。
 いたとしても結ばれないことが多いのが、安倍九尾の当主だから。

 ――丁度その時のことだった。

「いらっしゃい」

 入ってきたのは黒髪の青年だった。

「ナナキ君何飲む?」

 ”リスナー”のその言葉に、九重が”黒キリン”を一瞥する。

「ジントニック」
「あ、紹介するね、こちらは九重さん」
「こんばんは」

 会釈してから、”ナナキ”はコンポタから一つ空けた席へと座った。

「なんかね、九重さん、大学の話が聞きたいんだって。”ナナキ”君の事とか、友達のこととか教えてあげてよ」
「え?」

 驚いたように”ナナキ”が視線を向ける。

「例えばさぁ、大学生、っていうかナナキ君は友達の――”祀理”君だっけ? 一緒にどんなところに行くの?」

 ここで祀理の話しをしたことがあったかなぁとは思いつつ、”リスナー”は情報屋らしいから知っていてもおかしくないかんなんて、”ナナキ”は思った。

「んー、サイゼで話ししたり、たまには牛角行ったり、後はサークルの旅行で夏は沖縄、冬は長野にスノボ行ったり? ですかね?」

 考え込むようにした後”ナナキ”が応えた。

「焼き肉好きなの?」

 九重の言葉に、ナナキが首を捻る。

「比較的安いから――けど、祀理だったら、どっちかっていうとあっさりしたのが好きみたいだから、しゃぶしゃぶの食べホとかの方が好きなのかなぁ」
「なるほどね。二人は、どんなお酒飲むの?」
「とりあえず一杯目は麦酒だけど、此処では僕はジントニックとかかな。うーん、でも、こういうお店じゃなかったら、とりあえず、生みたいな?」

 九重と七木の言葉に、”コンポタ”が笑いながら声をはさむ。

「賑やかなテーマパーク行くのと、お台場の温泉行くなら、二人はどっちが好き?」
「確実に温泉。俺達、静かなところとか好きなんです。まったりできるような」
「なるほどね」

 頷いてから、九重が五万ほど置いて立ち上がった。

「二人とマスターにおごりで。楽しかったよ」
「え、良いんですか?」

 ”リスナー”がポカンとしている。

「だって、君にはほとんど何にも聞いてないし、場所料とかは既に払ってるしね、純粋に美味しかったお酒への賞賛。ごちそうさま、また来ても良いか? それとも足りない?」
「多すぎます! けど、いただきます。本当に、また来てね。今度は正規料金で良いから」

 そんな”リスナー”の言葉に頷いて、九重は店を出て行った。

「え、なにかあったんですか?」

 ”ナナキ”が首を傾げると、”リスナー”が二人の前に高級そうなチーズを置きながら肩を竦めた。

「大学生の市場調査がしたかったんだって」



 帰宅した九重は、手を上に拘束している祀理を見据えた。

 目隠しをし、口にはボールギャグが填めてあり、時折うめき声と涎が漏れている。
 乳首にはキャップ状のローターが填められていて、振動音が響いていた。

 そそり上がった祀理の自身の根本には、金属製の輪がはめられており、先端からはとろとろと透明の液が漏れている。

 その状態で棒が震動する木馬に乗せられ、時折体を捩る物の、どうしようもない状態のようで、陰茎を木馬に押し付けていて、その度に木馬は揺れている。

「ふ、っ、ッ」

 浮き上がった鎖骨を撫でると、ピクリと体が動いた。
 その耳へと舌へと差し込み、下を動かす。
 腰が揺れ、太股が震えている。
 唯一自由になっている耳元へと、舌を抜いてから、九重が囁いた。

「この前は、手加減してあげたんだけどな」
「ふっ、んはッ」
「今回は親睦を深めなきゃならないらしいから、我慢して。なんでも、今時の大学生は、静かなのが好きらしいからな。口のは外せないな。ああ、でも肉も好きだったんだっけ? 口と、下のお口、どっちに入れて欲しい?」

 クスクスと笑いながら、九重が耳元で囁く。
 此処は祀理のマンションだった。
 卑猥な道具を持って九重が訪れたのは、もう数時間は前だ。

 前ではイけないというのに、強制的にイかされる感覚。
 強制的に空イキさせられすぎて、最早祀理の思考は朦朧としていた。

「それとも、両方?」
「ふぁ」
「どっちも嫌?」

 そうつげ喉で笑うと、ビーズの紐の物のような物を取り出して、一粒ずつ、蜜で濡れた祀理の陰茎へと押し込んでいく。

「っ、ひっ、あ」

 それが全て入ると、内部を刺激された、その後一気に引き抜かれた。

「!!」

 こぼれてくる涙が、目隠ししている目を濡らしていく。

「そんなに木馬が良くなっちゃったのか?」

 慌てて祀理が首を振ると、抱き上げるようにして、体が木馬から引き抜かれた。
 これで安心だと思った瞬間、また手を離された。

「――ッ!! んぅああああは」

 ボールを噛まされているというのに、漏れる声が止まらない。
 それを何度か繰り返され、最奥まで抉られ、意識が朦朧としてくる。

「まぁ、三日くらいその状態でいてくれ。きっと気持ち良くなるから」

 にこやかにそう言って笑い、九重は部屋を後にしたのだった。


 ――三日後。九重が戻ってくると、ただひたすら祀理は腰を動かし、陰茎を木馬に押し付け、体を前後させていた。内部を貫くバイブの震動と、両胸で震えるローターの感触も辛そうだ。目隠しを外すと、そこには虚ろな瞳の祀理がいた。やさしく笑い、口の拘束も外すと、涙をボロボロとこぼしながら、祀理が哀願した。

「ね、ねぇ、あ、ああああああっ、も、もうだめだ、や、はずして!!」

 このままではそろそろ気が狂ってしまうなと笑いながら、前の拘束を解いてやる。
 すると、溜まっていたはずなのに白液が、ダラダラと滴った。
 乳首のローターを外した後、木馬だけを蹴り上げる。

「ン――あああああ!!」
「抜いて欲しいか?」
「う、うん。あ。あ、ああ、抜い、て」
「じゃあ俺と仲良くなったって皆に言ってくれるか?」
「言う、言うからぁ……ッ」
「約束な」

 そう言って、九重は祀理を解放したのだった。