<3>首輪☆



 その日はゼミがあったが、約束があるからと言って時雨さんの迎えは断った。
 約束――俺の約束相手は、ナナキである。
 格安のザ・ワタに二人で入り、生中が出てきたところでジョッキを合わせた。
 この店をチョイスしたのは、ナナキには金がないからである。
 奢ると言ったが、ナナキには、せめて半額は出させてくれと言われたのである。
 その為この店になった。

「それで?」

 酒を飲むなり、それまでの大学やサークルの雑談を打ち切って、ナナキが問う。

「金ない僕を誘うとか――……言いづらい話なんだろ?」
「うん、まぁ」

 ナナキが俯いた。この時は、まだナナキが引っ越しをする前だった。

 まさかその後、ナナキが同じマンションの下に暫く入り浸り最終的に下の方の階に同棲して住む事になるだなんて、その時は全く考えても居なかったものである。

「聞いて欲しいことが、二つあるんだ」
「うん」
「あのさ、この前、執事(?)の人紹介したじゃん?」
「ああ」

 茶丘時雨と言っていたかなと思い出しながら、ナナキが酒を口含む。

「風呂場で一人でヤってたら、入ってきて、それで、その、さ」
「え、自分でやってるの見られたってことか?」
「それだけならまだ兎も角、コレも執事の仕事だって言って、抜かれた」
「そんな仕事執事がするわけ無いだろ、セクキャバレベルだ!」
「セクキャバ?」
「ほら、芦屋が良く行くって言ってただろ? なんか、高校の頃好きだった奴に似てる女の子がいるらしくてさ」
「あー、言ってたかも」
「話戻すと、イかされちゃったわけだよね?」
「まぁ」

 俯きがちに頷いてから、グイッと俺もまた麦酒を飲む。

 ”黒キリン”と呼ばれているらしいナナキは、最近、≪異形≫は二人以上人がいない場所にしか出ないと感じていたので、今は夜だったが気にしない。

 だが――ナナキは嵯峨さんのことが気になった様子で、スマホを取り出した。

「悪い、ちょっと電話して良い?」
「あ、うん」
「ってか、お前は電話しなくて良いの?」

 それから通話を始めたナナキを見ながら、そういえば送迎を断った以後連絡を取っていないことを思いだした。だが、スマホの電源は切れていたし、この日は充電器も持っていなかった。

「ナナキ、充電器持ってる?」
「無いぞ、僕は、ガラケーと併用だし」
「そっか」
「僕のから、かけるか?」
「別に良いよ。仕事で俺の家にいるだけだし」

 苦笑しながら、俺はジョッキを空けた。
 タッチパネルを操作し、もう一つ頼む。

「で、もう一つの相談は?」
「あのさ、ナナキ、前に俺の親戚だって言ってたよね?」
「ああ。俺の実家、安倍九尾の七木家だから」
「それって弘さんの所でしょ」
「……まぁな。兄だ。今じゃ一切関係切れてるけどな」
「なんかね、この前話したじゃん? 全員とヤらなきゃならなくて、最低でも玩具か式神つっこまれるか、キスされなきゃならないって」
「……う、うん。災難としか、僕は言えないけどな」
「それでね、ボロアパートに、”榊”なのに住むなって言われて、マンションに引っ越しさせられたんだ。そこで、フェラっていうかイマラチオ(?)っていうか、させられてさ」
「ぶ」

 残った麦酒を飲み干そうとしていたナナキが、咽せた。
 それでも堪えた様子で、タッチパネルで麦酒をもういっぱい頼む。

「力を得るためだって言ってたんだ、一宮さんて言う人なんだけど……本当は、俺みたいな淫乱には触りたくもないんだって」
「は!? なんで祀理が淫乱なんだよ。向こうが勝手にヤってるのに」
「だって俺……俺、俺……気持ちいいんだよ。だから、き、きっと、淫乱なんだ」

 涙混じりの俺の声が響いた直後、二つの新たな生中のジョッキが運ばれてきた。
 それを双方が手に取る。

「じゃあお前さ、京都から帰ってから、執事に自慰手伝われたのは別として、誰か男誘ったのか?」
「そんな事してない」
「じゃあ、職務としてやっただけだろ、気にする必要ない」
「ナナキ……ナナキっ、本当に、そうかな?」
「絶対にそうだから。辛いんなら、今日は飲み明かせ。僕は金ないけど、悩みを聞くぐらいは出来るし、ここはボトル安いからそれなら、僕に多分半額払えるし」

 それから閉店まで飲み明かし、ボトルを2本ほど開けて、俺は帰宅した。



 帰ると、そこには、険しい顔をした時雨さんが立っていた。

「起きていたんですか」
「起きていたんですか……?」
「だってもう、朝だし」
「――どれほど心配させれば気が済むんですか」
「え?」
「貴方がその気なら、一生この部屋に監禁しても構わないんですよ」

 その時がちゃりと音がして、俺の足首には銀色の輪がはまった。そこから繋がる鎖は長いから、部屋の何処にでも行ける。だが、外には出られない。

「犬のように、躾が必要みたいですね」

 そう言われ、続いて首輪をはめられた。冷たい感触と、明らかに怒っている様子だが無表情の時雨さんを見る。

「え? 時雨さ――ン」

 その時強く足首から繋がる鎖を引かれて、俺は床に倒れた。
 そんな俺の後ろに回り、無理矢理下衣を、時雨さんが脱がせる。
 抱きかかえるようにされながら、無理矢理陰茎を扱かれた。

「っ、あ」
「気持ちいいんですよね。本当に淫乱ですね」
「なッ」
「もっと良くして差し上げますよ」

 そうして何度も擦られる内に、俺はあっけなく精を放った。
 脱力した背中を、時雨さんの胸に預ける。

「ひっ」

 しかし時雨さんの手は止まらなかった。

「あ、ああっあ」

 強制的に再び性急に扱かれる。

「ンあ、ま、待って、まだ……う」

 だが再び反応した陰茎は、すぐに先走りの液を垂れ流した。
 先端をグチュグチュと撫で、それから再び手で輪を作り上下させる。

「ふァ――あああ!!」

 強制的に、二回目に射精させられ、涙が浮かんだ。

「や、ぁ、も、もう」

 なのに時雨さんの手は止まらない。体が辛くて、俺は震えた。

「ああっ、ンあ――!!」

 三回目。こんなに無理に、三回もイかせられた事なんて無い。

「うぁあああああ!! 嫌だ、止め!!」

 なのに、まだ時雨さんの手は止まらない。

「やだ、また、あああっ、ンゥあ……!!」

 俺は四回目の射精を強制的に促された。もう、透明な液しか出てこない。

「止めてくれ」
「コレは、躾とお仕置きですから」

 しかし時雨さんは、俺の言葉など気にしない風に、まだユルユルと男根を撫でる。

「やだ、やだ、あ、アア、んぁ、ああああああッ」

 もう泣き叫ぶしかできないまま、再度五回目に再び精を放つ。

「お、お願いだから……ッ」

 最早気持ちいいという感覚よりも、イかされすぎて、辛い。
 体がガクガクと震えた。

「まだ、大丈夫でしょう?」

 既に時雨さんの声など頭には入ってこなかった。
 そうして六回目の射精を強制された後、俺は意識を失ったのだった。



 目を覚ますと、俺は寝台で眠っていた。
 緩慢に視線を向けると、隣の壁際にある一人がけのソファに、弁護士の、土岐隆史さんが座っていた。

「お目覚めですか?」
「……はい」
「何があったのかは知りませんが、時雨から、退職願を預かっています。次の秘書……執事をお探しならば、手配しますが」

 柔和な笑顔でそう言われたが、俺は首を振った。
 俺は、ただ単に一人になるのが怖くて、時雨さんを多分束縛していただけだから。

「そうですか、では、そのように手配いたします。所で――本日、安倍柊様と安倍桜様がおいでになる予定ですが、起き上がれそうですか?」
「はい……」

 緩慢に、俺はその言葉に頷いたのだった。