<13>泡☆


 数日後、入浴して体を洗っていると、いきなり浴室の扉が開いた。
 驚いて息を飲むと、そこには九重さんが立っていた。
 あちらも、服を脱いでいる。

 ――ここは、俺の部屋の浴室だよな?

 唖然として考えていると、歩み寄ってきた九重さんが薄く笑った。

「背中を流してやるよ」
「え、あ」
「ま、遠慮するなって」

 遠慮というか、何というか。返答に思案していると、不意に背中に彼の肌が密着した。

「っ、あ」

 そのまま俺の体を包んでいた泡を手に取り、陰茎を掴まれた。

「ぅああっ、あ」

 丹念に洗うように、泡まみれの右手で、そこを上下された。
 もう一方の手は、焦らすかのように乳首を弄んでいる。

「止めろっ、ふ、ァ」
「触られるだけで感じるようになったのか」

 すると耳元でクスクスと笑われた。その吐息がくすぐったくて、身をよじる。

「ンあ」

 その瞬間、今度は、両手で、二つの乳首をはじかれた。
 ごく弱い刺激だったのに、泡のせいなのか、ツキリと体が疼いた。

「あ、あ、あ」

 両手で胸の突起を摘まれ、俺はあられもない声を上げた。

「やァッ……んぅ」

 頬が熱くなってくるのが自覚できる。きっと俺の顔は、今赤い。
 それから再び、泡塗れの手で、俺の陰茎を撫でられた。

「待て、あぅあ、出る」
「早漏なんだ?」
「な」
「それとも敏感で、感じすぎるって奴?」
「ぅああああ!! あ、ああっ」

 そのまま強制的に射精させられて、俺はぐったりとしてしまった。
 その上、無理に口を貪られ、俺は意識を失ったのだった。

 目が醒めると俺は、泡を洗い流され、きちんと着物を着付けられて
 布団の上にいた。
 疲れ切った体で緩慢に視線を向けると、横にうつぶせになっていた
 九重さんがこちらを見た。雪洞の明かりで、紐で綴られた古書を読んでいるようだった。

「起こしちゃったか? 悪い悪い。ゴメン」
「そうじゃないけど……」
「のぼせたんだよ、俺のせいだけど。もうちょっと休みな」

 体を洗っていただけでのぼせるわけが無いじゃないかと思う。
 だが、泡の感触を思い出して、恥ずかしくなったから顔を背けた。

「――何読んでるの?」
「んー、嗚呼。いつから”晴明様の器”がいるのかっていう古文書。”狐”のお話しだ」

 その言葉に興味を惹かれて振り返ると、彼は微笑していた。

「最後の記録は、明治初期。江戸から変わった直後だ。今読んでるのは、それ。さっきまで読んでたのは、宮家の資料や、各藩の資料」

 彼の言葉で、雪洞の横に積み上げられた古書の山に気がついた。

「表にある”朝陽時計の世界”と、裏の世にある”夜月時計の世界”――そう呼ばれ始めたのは、この頃らしい」
「なにそれ?」
「そうだな、分かりやすく言えば、普段俺達が見ている現実の世界が、”朝陽時計の世界”か。それで≪異形≫が闊歩する、悠久の昔から何故なのか人類が対峙してきた彼岸の世が、”夜月時計の世界”かな」

 そう言って微笑した彼の言葉に、だけど俺は首を傾げるしかない。

「どういう事だ?」
「んー、だから、現実世界と、現実そっくりな≪異形≫がいる世界があるって事」

 分かったような、よく分からないような。
 それが率直な感想だった。

「ま、祀理君は、安心してて良い。君から吸い取った”力”で、≪異形≫を倒すのは、基本的には、俺達”九尾”の人間だから」

 そう言うモノなのかと、俺が頷いた時、不意に九重さんが本を閉じた。
 二十代後半だろうか、俺より年上の外見をしている気がした。

「っ」

 そしていきなり頭の下、首の後ろに腕を回された。
 呆気にとられたまま、彼に体を預ける。

「何もしない、だから、安心して寝た方が良い。あんまり顔色が良くないよ」

 その腕の温もりに、俺は苦しくなった。
 もう一方の手で、優しく髪を撫でられる。

「――何で何もしないの?」

 腕枕をされたまま、俺は聞いた。

「何かして欲しい?」
「まさか」

 苦笑しながら否定すると、静かに目を伏せて、彼が笑った。
 睫が長いな、だ何て思う。

「正直――体をつなげたいとは思う。”力”のためには。けどな、そこに祀理くんの意志が無いんじゃ、無意味だ。寂しいだけじゃないか? 多分、俺達”九尾”のみんなが同じ意見だ。君の心が欲しいんだよ、”榊様”」

 苦笑するような声に、俺は瞳を揺らした。

「それは、俺の寵愛が欲しいって事?」
「違うわ、馬鹿だな。仲良くなって、愛されたいって事だよ」

 そう言ったまま、眠り始めた九重さんを見ていたら、俺も久方ぶりに安眠できたのだった。