<10>式神★



 この本家に着てから、何度目かの夜だった。
 俺は庭園が横に見える廊下を歩いていて、池を見据えていた。いくら掬ってもあの月が掌からこぼれ落ちて消えてしまうことを知りながら。

「何をしているのかな?」
「あ」
「”今夜は月が綺麗ですね”」

 夏目漱石の告白の言葉だったかなと俺は思い出しながら、思わず苦笑してしまった。
 そこに立っていたのは六月さんだった。
 何故なのか彼はいつも、お医者さんみたいな白衣を着ている。

「六月さんは何をしていたんですか?」
「月に攫われそうな榊様の守護を畏れ多くも賜っていた次第です」

 仰々しくそう言ってから、冗談だと分かる表情で彼は微笑んだ。

「本当に暇なのかい? 榊様――祀理君は」
「はい」
「そう。じゃあ良かったら、私が新しく喚びだした式神でも見に来る?」

 頷くと俺は、六月さんの後について、奥まった場所にある部屋へと向かった。
 部屋――というよりも、座敷牢に見える。木造の焦げ茶色の床を見据えた。

「ここはね、異質な式神や、手に負えない式神を隔離しておく場所なんだ。私が六月の当主になってからは、ようやく制御できるようになってね、いくつかは解放できるようになったんだけれど。四條にもまだ難しいだろうね」
「そうなんですか」
「君には、従うかな?」
「まさか」

 思わず俺は苦笑した。名前こそ、安倍榊なんて呼ばれてはいるけれど、まだにこの安倍九尾家が何をしているのかすら、詳しくは知らないのだ。知ったとしても、その力を行使できるのかも分からない。分かるのは、己の体が暴かれていることだけだ。

「何事もやってみないと分からないものだよ」

 そう言って喉で笑い――パチンと利き手の指を、六月さんが鳴らした。
 驚いて顔を上げると、白い人型が宙に舞い、直後に赤紫色の肉を纏った巨大な塊へと変わった。そして、足や腕、様々な場所から、奇っ怪な、大小様々の触手が現れた。

 ――これは?

 聞こうと思って振り返った瞬間、俺は強く背中を押され、その異質な物へと体を叩きつけられていた。弾力とぬめりがある肉塊だった。

「あ」

 恐怖で喉が震える。和服の間から、ぬめぬめと触手が入り込んできた。
 その内の一つが、俺の陰茎に絡みつく。

「ひ、ァ」

 それから細い触手が、俺の前――尿道に入り込んできた。粘着質な音をたてて、赤黒く大きな滑る触手が後ろの孔を押し広げていく。

 触手全体が、何らかの液体に覆われるようで、痛みはなく、すんなりと入ってきた。他の細い触手は、俺の乳首を見つけ出し、そこに絡みつく。

「ンぐ――っ」

 口の中にも、後ろの奥を探っているのと同じくらいの太さの触手が入ってくる。
 息苦しくなって吐き出そうとした時、その先端から、何らかの液が出てきた。
 塞がられた唇からは吐き出すことが出来なくて、反射的に飲み込む。
 その瞬間、全身の感覚が鋭利になった。

「あ、あ、アァ――っ、ひ!」

 滑る無数の触手が、俺の腰を持ち上げ、宙で嬲り始める。
 太股にも足首にも、様々な触手が絡む。

「や、止め……あ、あッんぁう……アアッ!!」

 しかし後ろに突きささっている一際巨大な触手は、抽送を開始する。
 その周囲からは、ねじ込まれるように、細い触手も侵入してきた。
 それらは、俺の最も感じる場所を見つけ、激しく突き上げる。

「ンあ――ひ、あ」

 前に突き立てられた細い触手は、震動を始める。
 前と後ろの両方から、再び何らかの液体を注がれた。
 すると敏感になっていた皮膚が、今度は熱くて仕方がなくなり、思わず何度も首を振る。

 結果、両耳の中まで、舌で舐めるように触手が入ってきた。
 濡れた感触で耳の裏を舐められた瞬間背を撓らせる。
 乳首をユルユルと嬲っている細い触手もまた動きを早め、強く吸い込むように、乳首を挟んで揺れ始めた。

 ガクガクと震えるが、腰を絡めとられている俺は、太股を辛うじて震わせられるだけだった。

「ああっ、ひゃ、ア――あ、ああっ」

 細い触手達は嘲笑うかのように俺の足首を捕らえ、一本ずつの指の合間にも絡みつき、滑ったまま撫でていく。

「うあ――!!」

 その瞬間、太い男根に似た触手が、無理にもう一本差し込まれた。
 涙がボロボロとこぼれ、辛いのに、後ろの中に飲まされた触手の体液のせいか、訳が分からなくなる。

「た、助け……ッ!!」

 思わず懇願し、俺は六月さんを見た。

「うーん。一般の人間だったら、すぐに快楽堕ちするんだけどねぇ。やっぱり、榊様には素質があるのかな――”力”もそうだけど、”淫乱”の」
「っ」

 失笑するように言われ、悔しくなったが、もう自分ではどうにも出来ない。

「ヤだ、や、ああっ、ぅあ、た、助けて」
「朝になれば、自動的にその触手は、溶けて消えるよ」
「そ、そんな……ッ」

 俺が月を見ていたのは、まだ午後の十一時半くらいの頃だった。
 朝まで何て、一体何時間あるのだろう。

「私としては、我慢することをおすすめするけどね。今後≪異形≫に、こういう形で嬲られることもあるかも知れないし、慣れるに越したことはない」
「嫌だッ、止め……――六月さ、ん……ああっ、うッ」

 俺の声に、不意に六月さんが顔を背けた。

「……名前呼びは、結構クるな。しかも、そんな表情で」

 どことなく赤くなっているように見えたが、朦朧とした俺の頭は、どうでもいいやとすぐに忘れた。

「分かった。じゃあ消してあげるから、私の上に自分から乗ってよ」

 最早この快楽がもたらす酷い苦痛から逃れられるのであれば、俺は何でも良かった。
 パチンと六月さんが指をならした気配がする。

 白衣を着ている彼のベルトを無我夢中ではずし、緩やかに立ち上がっているそれを、俺は朦朧とした意識で咥える。

「ふぅん。まぁまぁ、上手いね。誰に教わったの?」

 ふるふると首を振る。咥えたことなど無い。
 すると意外そうな顔で、涙をこぼし続けている俺の髪を、六月さんが撫でてくれた。
 もう良いのだろうかと判断し、力の入らない体を叱咤して、両手を彼の双肩にのせる。
 そしてゆっくりと腰を下ろした。

「うああっ」

 いくら先ほどまで、触手に体内を嬲られていたとはいえ、深く入ってきた張りつめたものの衝撃は辛い。

「動いて」

 全てを体内に飲み込ませ、その奥を抉られる感覚に震えていると、笑ったまま六月さんが言った。

「ううッあ、ァ」

 腰を支えられているのを確認しながら、必死で前後に腰を動かす。
 気持ち良い場所を無意識に探して、必死で腰を動かした。
 そこに当たった時、ビクンと俺の体が震えた。
 それとほぼ同時に、前を扱かれ、俺は精を放ったのだった。