<8>外出★


 今日は久しぶりに、洋服を着た。
 白いYシャツに黒いジーンズ。俺が着てきた服がどうなったのかは知らないが、和服よりは余程こちらの方が落ち着くのだから、贅沢は言えない。

 何故俺が本日洋服を着ているのかというと――車に乗ってお出かけするからだ。ドライブだドライブ。俺が、外へ出たいなぁ、と、まるで鳥かごのような本家の屋敷で呟いた時、たまたまそこに、四條さんが立っていたのだ。

「……」

 その時彼は何も言わずに、青味がかった瞳でこちらを見ていた。髪は、鴉の濡れ羽色だ。

「あ、どうも」

 俺は沈黙が、どちらかと言えば苦手だ。
 だから挨拶すると、彼は顔を背けた。

 ――どうしよう。

 それが率直な感想だった。何せ俺は、ここに来て未だ日が浅い。なのに、共通の話題なんて探しようが無い。無いだろう、普通。

「……由馬で良い」

 するとポツリとそう言われた。そう言えば、四條某さんは、その様な名前だった気がする。俺が頷いて返すと、そのまま由馬は歩き去った。随分とストイックに見えた。

 ドライブの誘いが来たのは、その日の内のことだった。
 車は、由馬のものであるそうだ。

 俺は室内で彼の来訪を待っていた。
 待ち合わせの時刻通りにやってきた彼は、タオルケットを持っていた。確かに夏も終わろうとしているが――なんだろう?

 困惑している俺の前で、ぱさりとタオルケットが落ちた。

「!」

 そして現れたのは男根を模した張り型――要するにバイブだったのだ。

「……いきなり入れると痛いから」

 そう呟きながら歩み寄ってきた彼に、俺は下衣をおろされた。
 ローションで、ぬらぬらと光るバイブに、息を飲む。

「う、ぁア」

 後ろにそれを無表情で突き立てられた時、やはり彼もまた安倍九尾に連なる家柄の人間だったと改めて思い出した。それから表面を側にあったティッシュで拭かれ、俺は無言で手を引かれた。奥まで貫いているバイブの感覚がキツイ。涙が出そうな俺の前で、由馬はタオルケットを拾った。

 そうして、俺達のドライブは始まった。
 シートに座ると、更に深々とバイブが、内部へと入ってくる。
 その上、下衣を脱がされた状態でタオルケットを掛けられているのだ。

 なんだよコレ――俺が想定・想像していたドライブとは、全く違う。
 体を震わせていると、車が、ガソリンスタンドへと入った。
 店員さんが顔を出す。
 だが気づかれるわけには行かない。刺激と羞恥をキツく唇を噛んで、俺は堪えた。

 こんなにも給油の時間が長く感じられたこと何て、これまでには無かった。

「フぁ……ァ」

 それでも時折、声が漏れてしまう。思わず目を伏せ、頭を振った。

「……辛い?」

 当たり前だろうと思いながら、寡黙な由馬を睨め付けた。
 彼はそんな俺の醜態を、淡々と眺めているだけだった。
 その様にして、漸く給油が終わり、再び車は動き出した。

 それから暫くした頃のことだった。
 俺の携帯電話(ガラケーというか化石携帯)が音をたてたのだ。何だろうと思い画面を見れば――ナナキと書かれていた。名前の登録が面倒で、渾名や呼び名で登録しているのが俺だ。もう大学を休んで、どのくらいだっけ? とりあえず老先生の講義しか出席重視の講義は無いし、アレもそれなりに休めるから、問題はそんなに無いようにも思う。

「もしもし」
『お、繋がった。久しぶり。お前何処で何やってんの? それに、身内の人大丈夫なの?』

 俺の非日常を現実に引き戻してくれるような友人の声に、心底安堵したら、自然と笑顔が浮かんできた。ここのところの俺は、作り笑いばかりしている気がする。多分緊張しているんだ、いつも。

「京都にいる。葬式は、俺が行ったら終わってた」
『は? 終わってたのに、まだいるのか? 親戚を慰めてるとか?』
「あー」

 俺が何て答えようか思案していた時だった。

「っ!!」

 不意に、内部に入っていたバイブが、震動を始めたのだ。

「あッ、ぅ」

 思わず声が漏れ、電話を咄嗟に引き離してから、由馬を睨む。

「な、なんで……ひッ」
『ちょ、祀理? 大丈夫?』
「あ、ああ。ま、まぁ……で? 用件は?」

 ブルブルと震動を続けるバイブが、俺の内部の感じる場所から少しだけ離れた場所を刺激する。あとちょっと、もう少し下……そんな感想が浮かんでくる。

『一つ目は、普通にお前を心配して。二つ目は――んー、言いづらいことだから直接話したいんだ。今度会えないか? いつ帰ってくる?』
「ひッあ」
『ちょっと、本気で大丈夫か?』

 快楽と冷や汗がほぼ同時に、俺の体を絡め取る。

「ち、近いうちに……こっちから、連絡、す、する、から……ン」
『うん。具合悪いんなら、ちゃんと休めよ?』
「有難う」

 俺はそう告げ通話を切った。
 その時までに、どんどんバイブの動きが激しくなっていて、体が震える。

 気づくと人気のない、広い駐車場の奥に車を止め、相変わらずの無表情で由馬が俺を見ていた。

「な、なんであんな、急に――う、アア! ああっ、ひ」

 俺の質問には答えず、タオルケットの下に、由馬の手が潜り込んでくる。
 既に先走りの液で濡れていた俺の陰茎を、器用に由馬が擦り上げた。
 イきそうになったが、必死で我慢する。

「うンァ……! ひ、ひゃ、んぁ、ア――!!」

 しかしいくら押し殺しても、その度に手の動きが的確に、俺のカリ首を撫でるものだから、腰が震え、声が出てしまう。それから暫くして、漸くその動きが止まった。最早、自分でも、とろんとした眼で、由馬を見ているのが分かる。

「今の誰?」
「は?」

 最初は、何の話なのか分からなかった。

「え? それって……?」
「電話」

 簡潔にそう言われ、瞬きをしながら、首を捻る。何故そんな事を、由馬は聞くのだろう。

「大学の友達だけど」
「友達?」
「うん。3年ちょっと、ほとんど講義一緒だったんだよ。良い奴だよ、男前って言うのか」

 思い出したら楽しくなってきて、俺の頬が緩んだ。
 だが、直後俺は、急にシートを倒されて仰向けになっていた。
 いつの間にか、手首を白い布で拘束される。

「な……?」
「俺だって男なんだよ」

 由馬が俺を押し倒していた。両手が、俺の頭の両端にある。見上げる形で俺は、由馬を見据えた。第一印象の、ストイックさは残ったままなのに、その瞳が、何処か辛そうに見えた。俺のシャツのボタンを一つずつはずしながら、彼は眼を細めた。

「待て、おい、こんな所人に見られたら――」
「俺は別に良い。祀理としているんなら、見られても」

 淡々と言われたが、逆にその声音が本気だと語っているようだった。

「どうして、こんな……ウァ!!」

 その時震動をいきなり止めたバイブが、引き抜かれた。ずるりとした感触がして、まだ内部にあった箇所は、ヌルヌルとぬめっていた。

「ひゃっ、ウん、あああっ、ア――!!」

 そこへ、ベルトを器用に外した由馬の陰茎が、入ってきた。
 押し広げられる感覚に腰を退こうとしたが、座席のシートがギシギシと音を立てるっだけだった。

「や、ぁ、ああっ」

 何度も腰を打ち付けられ、ガクガクと俺の体が震える。熱い吐息が漏れてしまった時、耳元で、また辛そうに呟かれた。

「俺はずるい人間なんだ」
「え? あ、っア」
「四條家は式神作りに特化しているから、本来体を重ねる必要はない。ただ、俺は、一目見た時から――祀理の事が頭から離れなくなって、それで」
「な、何……」
「式神を作るには、強い力を持つ媒体があれば良い。だから晴明様の力を継いだお前の体から、精力を抜けば良かった。あの張り型がそれだ。そして、この白い布も」
「そうだったんだ」

 俺が思わず俯いて笑うと、白い布をほどきながら、由馬が嘆息した。

「けど、そんなのは呼び出す口実に使って、周囲を納得させた。祀理と一緒に過ごしたかったから」

 その言葉に、俺の心は、ほんのりと温かくなった気がする。

「有難う」

 だけどそれだけ言うのが精一杯で、俺は繋がったまま、眠ってしまったようだった。

 目を覚ました時には、パジャマ代わりの着物姿で、自分の部屋で寝ていたのだから。