<7>媚薬★


 その日の午後、俺はあまりの事態に――現実を受け入れることが出来ないでいた。

 けれど和服を着せられた俺は、嫌でも自分が知らない場所にいると確信させられている。だって俺は、ウィンドブレーカーばかりを着ていた大学生だ。東京の街中なら見かけることもあるかも知れないが、ほとんどの人間は洋服だったし。

 何故こんな事になったのか困惑していると、不意に襖が開いた。

「ちょっと良いかな」
「あ」
「取り込み中だった?」

 慌てて俺は首を振った。そこには一度だけ、大学までに会いに来てくれた、佳織が立っていたからだ。確か、二葉佳織という名前だったような気がする。色素の薄い茶色の髪をしていて顔の造形だけ見れば洋服の方が似合いそうだったが、現在の紺色の着物もよく似合っていた。

「良かった。緑茶だけで飽きているかと思って、紅茶を持ってきたんだ」

 そう言って柔和に笑い、お湯の側に佳織が腰を下ろす。
 実際そうで、俺は佳織が紅茶を淹れてくれるのを見守っていた。

「このジャムを数滴垂らすと、美味しいんだよ」

 佳織は笑顔を俺に向けると、瓶の中身を小さなスプーンで取り、紅茶の中に入れた。
 カップを確かめると、少しだけ奇妙な味に思えたが、俺はティパックしか飲んだことがないから、好きも嫌いもない。

「有難うな」

 お礼を告げると、不意に佳織が真面目な顔になった。

「――喜んでもらえたのは嬉しいんだけど」
「けど?」
「僕は、二葉家の当主だから……榊様を、君を抱かないとならないんだ」

 その声に、思わず息を飲んだ。物憂げな佳織を見て、これまで自分の事しか頭に無かったが、男同士で性交するなんて、相手の側にも深刻な問題なんだと気がついた。

「嫌だよね、俺じゃ……ごめんな」
「あ、その……嫌って言うか……」

 なんと答えればいいのか困惑して、俺は息を飲む。
 すると立ち上がった佳織が、俺のすぐ隣に座り直した。正座に慣れているようで、流れるような動作だった。

「もし嫌じゃなければ……ねぇ、祀理君。僕じゃ、駄目かな?」
「っ、ぁ」

 耳元で哀しそうに囁かれ、俺は気づくと顔を歪めながらも、小さく頷いていた。

「……分かった」
「良かった」

 すると先ほどの悲愴が滲んだ声が、ぱぁっと明るいものに変わった気がした。
 その変わり身の速さに驚いて振り返ろうとした俺は、畳の上にうつぶせに押し倒されていた。いつの間にか帯はほどかれ、着物を着ける時は下着をつけるなと言い聞かされていたため、後ろの双丘が露わになる。

「え、ちょっ――!」

 そのまま唐突に、ドロドロする液体を纏った人差し指を、奥まで突き立てられた。
 驚きと、僅かな痛みで、目を見開く。反り返った俺の喉が揺れた。

「や、止め……ヒっ!!」

 俺の体が震えた時、佳織が指を一気に引き抜いた。

「ごめん――慣れてないから、加減が分からなくて。急だったよね?」

 悪いが俺だってこんなのには、慣れてなどいない。
 しかし反論も思いつかなかったので、『急だ』という部分に同意し頷いた。
 結果、俺の体を起こし、後ろから佳織が抱きしめるように腕をまわしてくれた。
 その温度が心地良くて、吐息する。

「!」

 が、気を抜いた一瞬で、両方の乳首を掴まれた。

「うぅッ」

 優しく摘まれた後、今度はそれぞれの指の腹で、こねくり回される。
 痛みは無かったが、そのもどかしさに、ビクンと体が震えた気がした。
 同時に――全身が、熱に絡め取られたように熱くなった。

「ぁ、ア」

 途端に乳首を虐められる度に、その刺激が、陰茎に直結するようになった。

「ぅあ……ひゃッ」

 自然と漏れた声が羞恥を煽るから、思わず口を両手で押さえる。
 しかしそんな俺の様子には一切構わず、人差し指と親指で乳首を摘んだ佳織は、撫でるように緩やかな刺激を与え続ける。

「あッ」

 時に強くはじかれ、それ以後はまた、緩慢な動きで指が優しくなる。
 気づけば俺の腰からは力が抜け、太股が震えていた。何とか押し殺そうとするのに、堪えきれず、勃起してしまったのが分かる。

「大丈夫?」

 着物が露わになっているから、外部に見える俺の自身に気づいたようで、耳元で佳織に囁かれた。

「乳首だけでイっちゃいそう?」
「違、違う……ぁ、アっ、ああっ」

 反論しようとした俺の口からは、嬌声が漏れた。
 するとクスっと佳織が意地悪く笑った気がした。

「じゃあ、まだ大丈夫だよね?」
「え、あ、ああっ、ぅン――!!」

 摘むように指を動かされ、その後は、人差し指だけが、激しく何度も乳首を擦った。

「やぁ、あ、止め、止めろ……んぅッ」
「嫌?」
「嫌だ、ああっ、あ」

 全身が熱いままで、意識が霞み始める。何故なのか弛緩してきた俺は、背を佳織の胸に預けていた。

「どうして欲しいの?」
「さ、触って……」
「どこを?」
「俺の、あの……」
「それじゃ、分からないな、僕」

 まだゆるゆると俺の乳首を弄りながら、佳織が笑う。

「うぁ、あ、俺の、だからッ、ここ」

 指先で男根を指すと、指の動きを止めた佳織が、きょとんとしたような顔をした。

「ここ?」
「うあア――!! あ、ああっ」

 待ち望んでいた場所へ刺激に、あっけなく俺は果てた。
 肩で息をしていると――すぐにまた体が熱くなってきた。しかし今度は全身ではなく、奥が、先ほど指を突き入れられた奥が疼いた。

「ぁ、え、やヤだ、何コレ……ッ!!」

 藻掻いた俺を見据え、ほっとしたような顔で、佳織が笑った。

「良かった、飲む方しか効いて無くて、中に塗った分は量が足りなかったのかと思ったよ」
「な、何が?」

 意味が分からず、俺は疼きで腰を揺らしながら聞く。

「うん、媚薬」
「え、っあ」

 しかしもう、俺の意識にはその言葉が入っては来ない。
 そんな俺のゾクゾクする体の中へと、その時佳織が陰茎を差し入れた。

「ンあ――! あ! ああっ、ぅあ!!」

 圧迫感に苦しくなる。

「痛い?」

 だが、苦しさよりは、中身の疼きを解消してくれるそれに首を振った。

「晴明様に開発されちゃった?」
「ち、違」

 精一杯頭を振ると、佳織が熱い吐息を吐きながら、再び先走りの液で濡れた俺の自身を手に取った。塗り込めるように、先端から漏れた液を弄る。

 もう限界が近かった。

「出したい? ねぇ、祀理くん。出したいんなら、何て言うの?」
「え」
「本当は、中をぐちゃぐちゃにかき混ぜて欲しいんでしょ」

 羞恥で真っ赤になるのが止められない。
 そのまま、後ろから入れられ、俺は理性を失った。

 気がついた時、俺は畳の上で、呆然としたまま天井を見上げた。
 着物は乱れたままだった。