<6>寵愛☆


「昨夜は恙なくお過ごしになったようで」

 気怠い体を引きずるようにして俺が目を覚ました時、そこには緑色に染めた髪の青年が立っていた。俺よりも少しだけ、年上に見える。

「飯、食える?」

 問われて気づけば、胃が鳴った。

「此処に運ばせるけど良いんか?」

 静かに頷くと、微笑してから青年が歩き去った。

 まるで昨夜のことが夢だったように、もう俺の体の何処にも赤い紐は無かったし、着物も整えられていた。暫く待っていると、足で行儀悪く襖を開けて、膳を二つ手にした青年が入ってきた。

「本家の食事は精進料理みたいで、飽きがくるだろ」
「精進料理を、俺は食べた事が無いから」
「へぇ。じゃ、今まで何処で何してたん?」
「都内で大学生」
「ああ、東京にいたんか」

 手を合わせてから、彼が箸を手に取った。
 その綺麗な箸づかいに目を瞠る。

「俺は、三輪の当主。ミワちゃんって呼んでや。祀理くん――いや、榊様か」
「別に俺は……」
「晴明様と体を重ねた以上、もう、素直に帰るのとか無理だよ」
「え」
「三役は、九尾家の力を増すために存在する。お褥すべりを柊様と桜様の二人がしてるから、君がやるしかないんだ」
「やるって……何を?」

 混乱しながらも、俺もまた箸を手に取った。
 薄味の食べ物が、個人的には好きだ。

「晴明様の器となって、九尾の当主と力を交わすわけ」
「器?」
「そ。まぁ具体的には、精力とか精神力とかを、九尾に分け与えるんだよ」
「ど、どうやって?」
「見本見せてあげよっか?」
「よろしくお願いします」

 慌てて頭を下げると、苦笑するようにミワさんが立ち上がった。
 そして座っている俺にグイッと詰め寄って、帯を解いた。

「え?」

 ポカンとしていると、下に着けていた下着をはぎ取られ、前をはだけられた。

「っンぁ」

 そのまま陰茎を咥えられて、突然のことに息を飲む。
 両手を前後させたミワさんは、スッと眼を細め、俺の陰茎を舌先で嬲った。
 突然の事態に、俺の体が硬直した。
 舐められ吸われ、扱かれる内に、男根が熱くなってくる。
 片手で袋を弄られ、もう一方の手で今度は脇腹を撫でられた。

「ヒウ、ァ、ふ」

 声を漏らさないように唇を噛んだが、それでも快楽が勝って、俺の吐息には声が混じった。

「ぁああっ、う」

 暫くそのまま嬲られて、俺は震えた。
 ミワさんの唇の動きは止まらず、緩急を付けて俺の自身を上下している。

「あ、待って、あ」

 慌ててミワさんの頬に手を当てる。涙がこぼれそうになった。

「ン――イきたい?」

 顔を上げ、唇で弧を描いて、ミワさんが言った。
 それを見て、何度も俺は頷くしかない。他にどうして良いのか、皆目見当も付かない。

「出してええよ」
「っあ、ああッ」

 そのまま再度唇に力を込められ、吸い上げられるようにして、俺は果てた。

 弛緩した体で呆然とした俺のソレを丹念に舐めとってから、ミワさんが着物をしっかりと着付けてくれた。それすら、ぼんやりと眺めているしかできない。

「――ま、こういう事」
「こういう事って……」
「男子長子相続の九尾家では、安倍晴明様の血脈に繋がる女あるいは男を、器として、抱くんだよ。まぁ今回みたいに抱かなくても、精液とか唾液とかでもある程度の力は得られるけど、やっぱり体内を犯す方が、力は強くなる。直に中へと挿入した方が、ね」

 何でもないことである風に彼は言う。
 しかし、しかしだ。俺にはそれは、男の口などで射精させられると聞こえた気がした。

「ま、待って――そんなの俺には無理だ」
「晴明様なら良いのに?」

 昨夜のことを知られているような気がして、背筋が粟立った。
 だが、それも俺は、一度だけだと聞いていたのに。

「言っておくけど、もう祀理君には――榊様には、拒否権はない」
「っ」
「一度でも、たった一度でも、晴明様の器となったって言うのは、そう言うことなんだよ」

 それまでのミワさんの優しい顔が、一変していた。
 怖気を覚えて、両腕で体を抱く。

「祀理君に与えられた、たった一つの権利は、安倍九尾のどの家を寵愛するか、それだけなんよ。どの家を寵愛し――精液や精神力を、もたらすか。好きになれとまでは言わないし、普通に愛した誰かと結婚する自由もある。でもな、お褥すべりは、次の若い後継者が現れるまでは、基本的には出来ない。柊様と桜様には特殊な事情があったから特別に免除されたけどな」

 最早何も言えなかった。
 安倍九尾のそれぞれの家と、力を交わす――それが、性交渉を意味することくらいは、俺だって分かる。

 そんなの無理だと、叫び出したかった。

 何せ皆、男だ。少なくとも遺言状が公開された時にいたのは。
 その上、話しの流れを聞く限り、受け入れる側は自分らしい。
 昨日の晴明様との情交も、そうだったのだから。

「――俺が仮にそうしたとして、どんな力が生まれるの?」

 必死で言葉を紡ぐと、ミワさんが苦笑した。

「古くから、それこそ陰陽寮の時代から続いている、≪異形≫と俺達は戦っているんだ。その時に、破魔の”力”が増す。祀理くんが受け入れてくれれば、皆が、その力を増すんだ。たった一人の誰かでも良い。力を――与えてくれ」

 それだけ言うと、ミワさんが再び箸を手にした。
 言われた言葉を咀嚼しながら、俺はただそれを眺めていた。

 嗚呼、どうしてこんな事になったんだろう?