<5>生贄★


 金色の屏風が、俺達二人の影を多分映し出していた。
 側に灯る、雪洞だけが、卑猥な影を伸ばしている。
 そこでは、意識が不鮮明な俺が、天井を見上げていた。

 苦しくて藻掻くのに赤い布で出来た紐が、俺の体を拘束した。
 きつく縛られている感じなんて全然無いのに、手首すら動かない。
 水色の着物姿で、俺は彼を見上げていた。

 色素の薄い茶色の髪の下で、少しつり目の橙色の瞳には、蝋燭の灯りが入り込んでいるようだ。薄い唇は、桃色と呼ぶには、もっと淡い色。静かに笑みを形作っていた。

 周囲に焚かれた甘ったるい香のせいなのか、次第に体の力が抜けていく。

 ――だけど俺は、絶対彼を知っている。

 何度も夢で邂逅したのだから。だけど、どうして眠っていたはずの彼が此処にいるのかは、分からない。そもそも……交わるの意味がこういう事だとは、知らなかった。

「ァ、う」

 はだけた俺の首筋に、晴明様が吸いついた。

 痛みともまた違う、疼くような感覚だった。思わずきつく目を伏せると、一気に和服を乱される。露わになった俺の上半身を挟むように、晴明様が布団に両手をつく。

 俺が見上げていると、晴明様が苦笑したようだった。
 その頃には、香で意識が朦朧とし、体の力が抜けきっていた俺は、ただぼんやりとするしかない。

「ふ、ゥあ」

 そのまま舌先で、今度は逆側の首筋を舐められ――そしてきつく吸われた。
 先ほどの感触よりも強くて、思わず頭を振る。
 そうしていると、両手で乳首をはじかれた。

「ああっ、晴明さ、ま……」
「榊――いや、祀理くん。これは、義務じゃないから、私のことは晴明で良い」
「ンあ……ひ、ぁ」

 なぜなのか、『それはできない』と、俺は思っていた。
 乱すように俺の太股を、晴明様が撫でた。
 ゆるゆると触られた後、今度は俺の自身を晴明様が扱く。

「ううッ、ん……」

 何とか堪えようと、背筋に力を込めた。するとまた、首筋に唇が降ってくる。

「君には、赤がよく似合うね」

 俺の体を拘束している赤い紐を優しい瞳で見据えてから、今度は強く陰茎を掴まれた。

「ひッ、あ、ああっ、そ、そこは――」
「ここが好きなんでしょう?」
「なっ、そんな……う」

 否定したかったが、紐で拘束されているというのに、俺の先端からは透明な液がたらたらと流れ始めていた。嫌だ嫌だと思って体を震わせれば、手首に紐が食い込んでくる。

「八坂も酷いよね。私が、君と夢で繋がっていると知った途端、生け贄として差し出したんだから」
「っ、舞理は、そんな事しな……ふ、ア、ひ」

 ただ、何の話かは分からなかった。
 その時、晴明様の指先が、俺の先端をグチュグチュと強めに嬲った。

「君も雰囲気が無いね。いくら弟であっても、他の男に抱かれようとしているのに、別の男の名前を出すなんて」
「ああ、あ、あッ、や、やだッ、は」
「出したい?」
「は、はい……ゥう」

 素直に僕が言うと、眼を細めて晴明様が笑った。

「んぅ」

 そして俺の唇を覆った。中へと入り込んできた舌が、俺の舌を追い詰め、無理に引き出された。酸素を求めて口を開いた俺の舌を、晴明様が甘噛みする。

「あ、あ」
「色、本当に白いんだね」

 自分の喉がピクリと動いたのが分かる。晴明様は楽しそうにそれを眺めた後、今度は俺の右の耳朶を噛んだ。

「うッ」

 無我夢中でその言いしれぬ感覚から逃れようとしたが、自由にならない手首はさらにしまり、今度は紐が俺の乳首を挟んだ。

「や、やだぁッ」

 涙がこぼれてくる。それをぺろりと晴明様が舐めとった。

「へぇ、嫌なんだ。じゃあずっと、紐で縛り付けておこうかな」
「な」
「後ろを向いてご覧。辛いなら、ね」

 その言葉に、無我夢中で体勢をかえる。

「ひっ、あ、アぁッ」

 瞬間、菊門の襞を解すように、入り口を晴明様に撫でられた。ゆっくりと丹念に、表面だけを、晴明様は撫でた。

「ふァ、んッ」
「中にも欲しい?」
「え、あ」

 中など暴かれた事が無いから、困惑して唇を噛む。だが、達したくて仕方がない前を、晴明様のもう一方の手で嬲られる度に、体が震えた。

「分からな、う、ウァ……イ、イきた――ッ」
「初めてなのかい?」
「え?」
「違うでしょう?」

 何の話か分からず首を傾げると、強く紐を引かれた。

「ああッ、んァ」
「……うーん」

 体を震わせた俺を、晴明様は一瞥したようだった。

「!」

 そして中へと指が入ってきた瞬間、俺は目を見開いた。

「そ、そんな、待、待って――ッ」

 苦しくなって布団を握りしめる。

「や、止めろ! そんな所、汚……ぅあッ!!」

 しかし入り込んできた指先は、内部を探るように、入り口付近をぐるりと撫でた。

「う、ンあ、ふぁ――! あ、あ」

 すると何も言わないまま、今度は湿った感触がした。舌先を入れられて、舐められているのが分かる。背を撓らせ、息が詰まった。

「あ、ぅッ」

 そのまま舐められ、舌が動く度に、体を引こうとするが紐が食い込んでくる。

「色っぽいなぁ。なるほど、なるほどね。安倍家も弁えてたんだ。初ものか――入れるよ」
「ンあ――っ、ひッ」

 目から涙が滲んできたようで、頬が濡れた。
 圧倒的な質量が、俺の中へと入ってくる。熱い、熱くて仕方がない、なのに固くて、どこか冷たい。

「っん」
「ゆっくりと息をしてごらん」

 言われるがままに頷いて、俺は吐息した。

「あ……ッあああ!! や、嫌だ!!」

 入り口を押し広げられる感覚に、腰が揺れる。キツく目を閉じたが、我慢できない。

「せ、晴明様ぁ、あ、ああ」

 止めて欲しいと懇願しようとした俺をせせら笑うように、内部を晴明様が突き上げる。

「うッ」
「大丈夫?」
「あ……はッン」

 苦しさだけが脳裏を占めたから、無意識に首を振る。すると、紐でキツく拘束されていた前を、晴明様が扱いた。

「あ、ああっ、イヤ――んぁ、ああッ!!」

 涙がこぼれるのが止められない。それから紐を緩められ、俺は肩で息をした。
 その時、晴明様の陰茎が、内部のある一点を掠めた。

「! だ、駄目だ、そこは」
「ああ、ここが良いんだ」

 それから重点的にその場所を刺激され、前も同時に扱かれて、俺はあっけなく精を放った。もう、痛みなんて無かった。