ハロウィン(★)


 羽染が帰国したのは十月末のことだった。

 自宅で久方ぶりの和装に着替え、仕事が一段落したという有馬と会ったのは10月31日の事だった。軍服姿の有馬と和服の羽染は、羽染の部屋で待ち合わせていた。

 外交官となった今、そして君主である保科と妹の小夜は出かけているため、ただぼんやりと書籍を読みながら羽染は有馬を待っていて、そうして出迎えたところだった。

「お邪魔します」

 そういって、中へとはいってきた有馬は、リビングのテーブルの上に、小さなケーキの入った白い箱を置いた。

「土産か? 別に気にしなくて良いのに」

 羽染のその言葉に、有馬がにやりと口角を持ち上げた。

「トリックorトリート」

 その言葉に、緑茶を淹れていた羽染が息をのんだ。淹れおわり、テーブルに湯飲みを置き、対面して座りながら、羽染が困ったような顔をした。

「悪い、何もお菓子を用意していないんだ」
「全然悪くない、俺はそれを期待してたんだ」
「え?」

 首をかしげた羽染の前で、有馬が静かに湯飲みを手に取る。

「要するに、今日はお前に悪戯しても良いって事だろ?」

 楽しそうな有馬の声に、曖昧に羽染が頷いた。

「寝室に行こう」
「え」

 唐突に有馬に言われ、息をのんでいるうちに、立ち上がった有馬に手を引かれた。



「んぅ……あ」

 和服を着たままで、右手を左の合わせ目に入れられ、乳首を摘まれる。
 有馬のもう一方の手は、羽染の陰茎を、指先を輪にして緩く握っていた。

「悪戯、っていうか、意地悪しても良いか?」

 苦笑混じりに有馬が言ったとき、既に羽染は思考が朦朧としていた。

「ん、うん、あ」

 声と共に、肩をふるわせ吐息した羽染の姿に薄く笑ってから、コックリングを有馬が羽染の陰茎に填めた。

「!」

 既に果てそうだった羽染が目を見開く。

「や、止めてくれ、有馬――っ」

 そういった瞬間ローションを垂らした有馬の指が二本、中へと入ってきた。

「悪戯は、して、良いんだよな?」

 その言葉に羽染が反論しようとした瞬間、最も感じる場所を強く二本の指で刺激された。

「ああっ」
「ちょっと辛いかもしれないけど、我慢してくれ」

 中を刺激し、それから解すように指が蠢いた。
 それから指を引き抜き、すぐに圧迫感を伴い、熱い有馬の陰茎が中へと入ってくる。

「ンあ――!!」

 なるべく声をこらえようとしても、ソレが出来なくて、羽染が白い喉を震わせた。
 ゆっくりと入ってきた有馬の陰茎が、羽染の最も感じる場所を刺激する。

「あ、うあ、あア」

 肩で息をする羽染を押し倒し、両手の手のひらに、有馬が己の手を当てた。俗に言う恋人つなぎで、寝台へと拘束する。それから動きを止めた。

「俺の形、ちゃんと覚えてるか?」
「ん、ァ」
「羽染」
「ああ。覚えて……ひッ!!」

 羽染が頷いた瞬間、有馬が腰を静かに引き、羽染の最も感じる場所を陰茎で突き上げた。

「ア」

 その感覚だけで、久しぶりだと言うこともあり、羽染は達しそうになった。
 しかし前に填められたリングがソレを許してはくれない。

「俺の悪戯は、お前に空イキさせることだから」
「え、んア」

 カライキとはなんだろうかと、涙で睫を濡らしながら羽染が首をかしげる。
 暫くそのまま突き上げられ、するとゾクゾクとした不思議な感覚に羽染は襲われた。

「あ、っあ」

 イきそうだった。だが、前を戒められているため、ソレは出来ない。

「有馬、んうぁ、あ、ああッ、もう駄目だ。はずし――ンア――!!」

 しかしさらに動きを早め、有馬が刺激を強くした。
 その瞬間だった。

「あア――!!」

 まぶたの裏がちかちかと赤と白で染まった。確かに達したような気がしたのだ。
 しかし昂ぶったままの陰茎は、そのままだ。

「は、あ……?」

 訳が分からず、それに、熱と言うよりも、冷ややかな何かをまとった射精感に、羽染は訳が分からなくなって首をかしげた。

「あ……」

 だがすぐに、昂ぶったままの前を解放したくて仕方が無くなる。
 有馬の形をしっかりと教え込まれた中が、収縮する。

「キツ……羽染、ちょっとゆるめろ」
「無理だ、あ、ああ、俺、なんだかもう、ッあ、イったのに、イってなくて、いやだッ」
「空イキしたのか」
「う、あ?」
「俺も出したい。ちょっと待ってろ」

 そういうと、激しく有馬が腰を動かし始めた。

「うン――!! あ、あああああ!!」
「ほんと、すごい気持ちいい」
「あ――!!」

 深々と有馬が腰を打ち付けたとき、リングをはずした。
 内部の刺激と、許された陰茎で、そのまま羽染は精を放ったのだった。



「……有馬」

 お互いにシャワーを浴び、それぞれが寝間着の和服姿で、テーブルを挟み対面するソファの上に座っていた。

「なんだよ?」

 抗議しているような羽染の視線には気づかぬふりで、有馬が微笑した。

「ハロウィンなんて、この国の神道には関係ない行事だ」
「外交官になったくせに、何言ってるんだよ、羽染。いろんな文化に触れてきたんだろ?」
「それは、そうだけど……」

 羽染がうつむく。
 なによりも、気持ち良かったのが癪だった。だが、何よりも癪なのは――……
「……――イベントなんて持ち出さなくても、俺は有馬のそばにいる。確かに仕事で海外にいることは多いけど」
「っ」

 うつむいたままの羽染を見て、有馬が息をのんだ。

「有馬のことを忘れた日なんて、一度もない。思い出さない日なんて、一度も無いんだ」
「――俺だって、羽染のことを忘れた事なんて無い」
「本当に?」
「ああ」
「俺は、有馬に対して、満足な恋人じゃないかもしれないけど……だけど、イベントなんか無くたって、本当はいつだって一緒にいたいんだ」
「悪かった。俺は、イベントを持ち出さなかったら、何も出来なかったのかもしれない。チキンなのかもな」
「そんなこと無い。俺の方こそ不安になるんだ。有馬に何も出来ていないんじゃないかって」
「お前はそばにいてくれるだけで、良いんだよ」
「いつもそういうだろ、有馬は。でも、現実的にそうはできない」
「同じ、青い空も星空も、例えば雨だって曇りだって、雪だって、俺たちは見てるだろ。それって、一緒にいるって事じゃないのか?」

 有馬が真顔で言った。一気に話が広がった気がして、羽染が苦笑する。

「だからそばに、物理的に一緒にいるときは、イベントだって口実にしてすら、俺は羽染に触りたいんだよ、抱きしめたいんだ」

 朗らかな笑顔で有馬に言われ、羽染は微苦笑した。

「そうだな」
「だろ?」
「ああ。俺も、毎日空を見て有馬のことを思ってる。こうして一緒にいられるときは、それだけで満足だ」
「俺は一緒にいて、かつ、腕の中に羽染のことを抱きしめ、体温を確認したいけどな」
「俺だって……」

 ……――有馬の鼓動の音を聞くと安堵する。
 だけどそんなことを口には出来なくて、羽染は目を伏せた。

「ま、深く考えんなよ。俺と羽染は、恋人同士なんだからな」

 有馬の率直な言葉に、救われた思いで羽染は頷いたのだった。