20:嫉妬★



 午前四時ごろ。
 保科が自室へ戻ろうと廊下を歩いていると、角を曲がったところで不意に進路を阻まれた。

「――家時様」

 驚いて瞬きをした保科を、徳川家時が見おろす。

「お楽しみだったみたいだな」
「え……な、何のお話ですか?」
「俺が気づいてないと思っていたのか?」
「……家時様?」

 言わんとしていることを理解して、ゆっくりと二度、保科が瞬きをした。
 少年の瞳に宿っている恐怖を見て取り、家時は顔を背けて、吐き捨てるように笑う。

「来いよ」

 保科の手を取り、家時が歩き出した。
 ――バレていた。
 ――一体、いつから?

 そんな日が来るだろう事は、保科自身、覚悟していた。
 だが、会津にさえ被害が及ばなければ、どうでも良いと思っていた。

 そのはずなのに――……なのに、何故なのか、家時に知られたという事に、どうしようもないほど、保科は狼狽えていた。残忍な家時に対する恐怖故だろうと何とか理解しようとするのに、その時保科の脳裏を過ぎったのは、笑顔の家時の姿だった。

 連れて行かれたのは、廊下の一角の絵画の裏だった。
 絵の脇の壁を家時が押すと、隠し部屋の扉が開いたのだ。

 狼狽えている保科をよそに、何でもない顔をして、家時が中へと入った。

 二人が中へと入ると、いつの間にか扉が閉まった。
 室内には、甘ったるい香りが溢れていて、保科は目を細める。

「家時様、此処は……?」
「お前みたいに、股がユルユルの犬をしつける部屋」

 家時の言葉に、保科は小さく息を飲む。
 冷淡なその声が耳に入った瞬間、少年の体が震え始めた。

「脱げよ」
「っ」
「早くしろ」

 壁に掛けてあった刀を手に取り、鞘から抜きながら家時が言った。
 保科が動けないでいると、刀を手にしたまま、家時が視線を流す。
 その凍てつくような瞳に、きつく唇を噛み、保科は和服を脱いだ。

「下着もだ」
「……」

 言われるがままに、一糸まとわぬ姿になると、そんな保科をつまらなそうに家時が見据える。

「床に這えよ。犬なら犬らしくしろ」
「……っ、分かりました」

 冷たい石造りの床に、保科が四つんばいになる。
 その白い双丘と、中心の桜色の菊門を見据え、家時が嘲笑する。

「やる。さっさと塗れ」

 香油の浸る瓶を転がした家時は、それから刀の曇りを確認した。
 唾液を嚥下し、保科が瓶を受け取る。
 おずおずと片手に、中身を取り出すと、それは半透明のピンク色をしていた。

 滑る感触に顔を顰めながら、指を濡らし――意を決して、自分の後孔へと指で触れる。先ほどまで紫陽花宮に貫かれていた秘部は、驚くほどすんなりと、少年の細い指を受け入れた。

「くっ……」
「一本で足りんのか? それとも、俺のがそのレベルだって言いたいのか?」
「いえ、あの……っ」

 自分で入れているとはいえ、違和を覚えずにはいられない感触に、保科は目をきつく伏せる。それから、無理に指をもう一本増やした。

「ああなるほど、宮様に十分慣らしてもらったから、不要って事か」
「っ、なッ」

 保科が反論しようとした――その時のことだった。
 ガクンと、保科の視界が二重にぶれた。

「――ッ、え?」

 一瞬だけ真っ暗になった後、すぐに、視界が元通りになる。
 だが、体は元通りにはならなかった。
 ゾワゾワと、痒みが己の入れた指の周囲に広まっていく。

「ッ、あ」

 気づくと、菊門を収縮させ、ガクガクと保科は体を震わせていた。

「あ、あ、あ、ゃ、何」
「どうした?」
「や、アやだ、嘘――ッ、ァ!!」

 慌てて指を引き抜いたが、最早とまらない疼きが、体内を蹂躙し始める。

「うあ、あ、ア、ッあ!! ああ!! や、いやだッ」

 自分の意志に反して腰が揺れ、内部の熱と痒み以外何も考えられなくなる。

「やだやだやだ、ああ!!」

 石の床に体を預け、無我夢中で保科は左手を柔らかな尻に添え、利き手の指を二本、内部へと再び入れていた。何も考えられないまま、無我夢中で内部をかき回す。しかし、そのたびに、疼きは酷くなっていくだけだった。

「あ、あ、んッ、あ」
「何やってるんだ、誰が触って良いと許可した?」
「は、あ、フ」
「保科。俺を誰だと思ってるんだ? 畏れ多くも旧将軍家の後継者だぞ?」
「あ、あ……っ、あ」
「そんな俺に、強制的に自慰を見せつけてるのか? しかも後ろの?」
「う、ッ……!」
「会津の人間てのは、みんなこんな風に淫乱なのか?」
「ち、違」
「違う? 君主が、こんな色情狂なのに? 本当に違うのか?」
「や、ぁああ!! あ、ま、待って僕、おか、おかし、おかしくなるっ、やだ、もう、やだぁ!」

 ゾワゾワと快楽も這上り、気づけば保科の淡い色合いの先端からも、透明な液が出始めていた。けれど散々先ほどまで紫陽花宮に達しさせられたせいで、射精するのが辛い。もう出ないと、体が悲鳴を上げる。なのに、内部を弄る手を止めることは出来ず、保科は訳が分からなくなってくる。白く華奢な足が震え、膝が頽れそうになる。

「羽染って言ったなぁ、会津藩出身の大尉は」
「っ」
「此処に呼んでやろうか?」
「!」

 その声に、保科が目を見開いた。
 ――こんな姿、絶対に見られたくない。
 それだけは、嫌だった。

「……顔色が変わったな」
「あ、あ、あ」

 保科の双眸からは止めどなく、涙が溢れたが、体の疼きはそんなことではどうにもならない。

「や、家時さ、ま……っ、くは、あ」

 無我夢中で指を動かしながら、そうしながらも、保科は首を振る。

「さっきの香油、媚薬らしいんだが……ふぅん。まぁまぁ効くのか」
「う、ぁ」
「規定量の十倍は手に取ってたなぁ、お前」
「っ、あ、あ」

 最早意味のある言葉が口から出てこなくなり、保科はただ涙をこぼしながら、家時の言葉を聞いていた。

「立て」

 無理矢理保科の手を掴み、家時は天井からつり下がる手錠に、華奢な少年の手首を拘束した。中が熱くて仕方がないというのに、刺激する手段を強制的に無くされ、保科は必死で太股をすりあわせ、秘部を収縮させる。

「やだ、やだ! お願っ、中いじってぇ!!」
「嫌だ」

 失笑した家時は、保科の左右の乳首から下がるピアスの輪のそれぞれに、細いテグスを通し、少年の頭上にある拘束具にその糸の先を結んだ。

「あ、っ、ぅあ」

 つま先で立たなければ、痛みが襲ってくるようになり、保科が必死でつま先に力を込める。

「い、あ……う、ン、ぁ……ああああああああ!!」

 だがそうすると内部の疼きが更にダイレクトに伝わってきて、もうどうしようもない。

「やだやだ、っああ、ん――あ、ヤ、やめ、お願い、あ」

 体が震える度、乳首の先に、つんと強い刺激が走る。

「う、う……ぁ……あ」

 全身を震わせ、涙をボロボロとこぼしながら、保科は家時を見上げる。
 ――何故、こんな事をするのだろう?
 それが彼には理解できなかった。

「眠いから、俺は帰る。また後で見に来てやるよ」
「いやだ、やだ、やだぁ!! まって、家時様、行かないで!! お願、あ、アアアっ、ぅあ、あ、だめ、だめだよこんなの……ひ、ぁ、」

 舌を出し、無我夢中で保科が息を吸う。
 その姿に、家時が嘲笑を向けた。

「本当、犬って感じ。じゃあな」
「いやだよっ、あ、あ」

 内部を蹂躙する痒みに腰を揺らしながら、保科は理性を失った。
 しかし、唯一刺激を与えてくれるだろう家時は、部屋を無情にも後にした。

 もはや家時の来訪を待つしか無く、家時のことしか考えれなくなり、保科は気を失いかけた。だがそうして体の力が抜けそうになると、胸から痛みと悦楽が走り、足に力が入るから、意識を飛ばすことも出来ない。その上容赦なく痒みは襲いかかってくる。

「助けて……っ、あ、何で僕、こんな……ぃ、ぁ、ぅああああああ!!」

 保科の啼き声を聞く者は、誰もいなかった。





「保科様」


 何度か瞬きをし、保科は自身が寝台の上にいることを、やっと自覚した。
 声をかけてくれたのは、軍服を纏った青年だった。
 ――誰だっけ?

 保科は、瞬きをしながら考える。
 見覚えはあるのだが、話した記憶はない。

「保科様――駄目だな、こりゃ、飛んでる」
「助けに入るのが遅すぎたんじゃないのか?」
「って言ってもな、家時様が議会で留守じゃなけりゃ、無理だっただろ? しかも徳川が置いてった見張りを片付けるのにも、苦労したんだ」
「まぁ山縣がそう言うんなら、これが最短の救出方法だったんだろうけどね」
「流石に此処まで徳川がやるとは俺だって思ってなかったんだ。朝倉、どうする?」

 二人の話し声を耳にし、保科はゆっくりと瞼を伏せた。
 ――声をかけてきたのは、そして恐らく助けてくれたのは、山縣大佐だ。

 ――そして彼が話している相手は、羽染の上官の朝倉大佐だろう。

「……っ、羽染は……このことを知っている……の、……っ。かは」

 保科が掠れた声で尋ね咳き込むと、山縣と朝倉が、揃ってのぞき込んだ。

「保科様? お目覚めになられたのですか?」
「ご安心下さい、副官の羽染には、まだ何も伝えておりません」

 二人に代わる代わる声をかけられ、うっすらと保科は目を開く。

「言わな……で……」

 それだけ告げて、再び保科は、意識を手放した。




「すげぇ徳川が非道に思えたわ、俺」
「山縣にそう評価されたら終わりだろ、人間」
「まぁけどこれで、保科様は俺達の味方になってくれるだろうな」
「そうすれば徳川は御しやすいだろうけど……宮様は、どうかな」
「既に手は打ってある。俺はちょっと、出てくる。後は任せても良いか?」
「ああ。珍しいな」
「ん、ちょっとなぁ。そろそろ野良猫を拾いに行く時間でな」
「ひっかかれるなよ」