19:君と出会ったキセキ★


「どうなさったんですか?」

 保科は、寝台で共に横になっている紫陽花宮に声をかけた。
 入浴を終えて同じ布団に入ったというのに、何もしてこない紫陽花宮を怪訝に思ったのだ。

「……なにが?」
「……」
「……」
「もしかして、僕にあきちゃいました?」

 いつかは来る事態だと思いながら、へらりと保科が笑う。
 そんな少年の表情を眺め、紫陽花宮は切なくなった。
 あきることなんてあるはずがないのだ、だって、初めて恋いこがれた存在なのだから。
 我ながら趣味が悪い――そう紫陽花宮は考えていた。

「本命が出来たとか?」
「……」

 笑顔の保科を見据え、本気で口にしているのだろうかと目を細める。

「紫陽花宮様の恋路なら、僕全力で応援しますよ」
「――……俺が、羽染大尉に一目惚れしたって言っても?」

 紫陽花宮のその言葉に、保科は短く息を飲んで目を見開いた。

「え?」
「君の大切な、羽染良親大尉が欲しいって言っても、応援してくれるのかな?」

 無表情の紫陽花宮の真意を測りかねて、保科は眉を顰めた。
 ――良親さんは、絶対に巻き込めない。

「……それが紫陽花宮様のお望みなら。だけど、嫉妬せずにはいられません」
「……」
「羽染のことが好きなんですか? そんなことを聞いたら、僕は羽染を、遠くにやらざるを終えないな」
「……羽染大尉を守るために?」
「違います」
「じゃあ――保科君自身の心を守るためにか」
「紫陽花宮様を、他の誰にも渡したくないから、なんて言ってもどうせ信じてもらえませんよね」

 保科は笑顔を崩さずにそう告げた。
 表情を変えれば、その時こそ本当に、羽染が人質に取られることを、良く保科は理解していた。

「羽染なんて、ただの家臣の一人です。だけど、紫陽花宮様のお心を揺さぶることが出来るんなら、呼んで正解だったな」
「――泣きそうな顔をしてまで、そんなこと、言わないでよ」
「え?」

 保科は、何を言われているのか理解できなかった。
 自分自身では、絶対的な笑顔を浮かべているつもりだったからだ。

「俺には分かるよ。羽染大尉は、君の心を守るために、必要な人なんだろう?」
「何を――」
「泣きたいんなら、いくらでも泣かせてあげるから」

 紫陽花宮はそう告げると、我慢できなくなって、保科の唇を奪った。
 ――本当は、ただ穏やかに、たまには睡眠を取って、健やかな保科の寝顔を見たいと思っていたはずだったのに。

 我ながら、保科には甘い。我ながら我ながら、そんな思いで、紫陽花宮は自嘲する。
 ――ああ俺は、どうして泣かせてあげるほど、人に優しくなったのだろう。



「ん、ぁ、嫌、痛いッ――」

 強引に押し入ってきた紫陽花宮の質量に、保科が悲鳴を上げる。

「あ、や、嫌、やだよッ」
「嘘つき」
「紫陽花宮様っ、も、もう出来ない」
「保科君、まだ二回しかイって無いよ。俺なんて、一回も出してない」
「う、ぁ……あ、あ」

 射精してもなお、激しく突き続けられ、保科は何度も首を横に振る。

「やだ、やだ、う、あ」
「じゃあ、どうされたいの?」
「ぬい、て、あ、あ、」

 このままでは壊れてしまう――保科は、ぎしぎしと軋んだ気がする自身の体に対し、限界を感じた。

「や、やだぁッ、あ、あ!!」

 紫陽花宮に、このように無理矢理体を暴かれるのは、久方ぶりのことだった。
 ここのところの彼は、大変丁寧に、保科を扱っていたからだ。

「俺は、君の泣き顔が大好きだ」
「っ、ふ……あ」

 再度の絶頂を強制的に促していた紫陽花宮の動きが、不意に止まる。
 突然無くなった刺激に、保科の両足が震えた。

「ぁ、あ……や、やだ、な、なんで……!」

 声を上げた保科の乳首を両手で、紫陽花宮が摘む。

「んぅ」

 つけっぱなしのピアスと胸の突起の交差点を、ユルユルと撫でた。
 優しすぎるその感触がどうしようもなくもどかしくて、保科が無意識に腰を動かす。
 ぐらぐらと視界が揺れる。

「あ、あッ、う、ン――ッ、あ」
「どうして俺ってさ、保科君の心みたいな名前をしてる、目に見えない形のない物を追い求めちゃうのかなぁ」
「あン、あ」

 最早、紫陽花宮の言葉など、保科の耳には入らない。
 もう出ないと思うのに、それなのに、射精したいという欲求が、少年の体の全てを乗っ取っていた。それ以外、達したいという思考以外、なにも意識に上らなくなっていく。

「や、やッ、あ、……な、待って、ヤだ、お願っ、動い――んぅ!!」
「俺って保科君のお願いに弱いんだよね」
「あ、はぁ、ア」
「こうされるの好き?」

 乳首を両手で苛んだまま、腰を打ち付けて、紫陽花宮が保科の最も感じる場所を突き上げる。

「あア――っ、ン――ひ、ぁ、ぅあ、や、やだ、ま、もう。無理、できな……い、いきたいっ……やだぁ、紫陽花宮様ぁ!!」

 最早こらえきれなくなり、紫陽花宮は腰を激しく打ち付けた。
 その刺激に全身を絡め取られ、保科は頭が真っ白になる。
 ただ――快楽にだけ、全身を支配されたのだ。

「んあ――!! ひゃ、あ、あぅあ――!!」

 そのまま保科は、三度目の精を放った。
 最早透き通り、勢いも何もなく、たらたらと液体がこぼれ落ちていく。
 ガクンと体の力が抜け、保科はシーツに頭をぶつけた。
 涙が、こぼれ落ちていく。
 虚ろな眼差しのまま、瞬きをした少年の姿に紫陽花宮は、やるせない気持ちになった。

「だけどこの俺が、人に恋をするなんて、本当に奇跡だよ」