6:二人目の男★



 戦場に送り出して以来、保科秋嗣は、羽染に会えないでいた。

 ――自分は、死ねにいけと命じたようなものなのだから。

 だから、だからこそ、羽染が生きて帰ってきてくれたことを、保科は喜ばずにはいられなかった。本当であれば、見送りにすら行けなかっただろうが、それは東京軍閥総司令官であり、東京選出元老院議員である徳川家時が上手く事を図ってくれたから、何とかなった。

 明治維新前から、徳川家と会津藩の保科家は、親戚関係にある。
 勿論それだけではなくて、様々な事情を経て、保科は、家時に融通してもらったのだ。

「今日もいつものホテルで待ってる」

 すれ違い際に、家時に囁かれた保科は、曖昧に笑った。
 現在会津藩当主であり元老院議員である保科が、体の関係を持っているのは、宮家の紫陽花宮と、現徳川家当主である家時だけだ。紫陽花宮は、保科が家時とも体の関係を持っていることを知っている。

 だが、家時は、逆のことを知らない。
 実質的な現在の権力で言えば、徳川家は、宮家をも凌ぐ。
 けれど、人脈という意味で言えば、宮家に勝てるところは何処にもない。

 そこには――愛なんて無かった。
 保科秋嗣は、恋なんてした事が無かった。

 ――たった一人の、幼なじみの少女を除いたら。

 それも今となっては分からない。
 大切だと言うことは分かるのだが、果たして、それが恋なのかは分からない。

 表向きこそ、宮家の縁者であり、薩摩の縁者でもある鷹司由香梨に恋をしている風を装っているが、いつもどこかで保科の心は冷えていた。

 議会終了後、保科は指定されたホテルへと向かった。

「早かったな」

 遅れてやってきた家時は、保科を一瞥しながら、椅子に座った。
 反射的に酒の用意をしながら、保科は作り笑いを浮かべる。

「今日もお疲れ様でした」
「ああ、お前に労われると、疲れが溶け出して消えていく」
「本当ですか? 嬉しいな」

 ニコニコと保科が言うと、家時が嘆息した。

「それは……本心か?」
「勿論じゃありませんか。家時様にそんなこと言っていただけるなんて、至上の幸福です」
「……ほぅ」

 家時は淡々と頷くと、保科のことを静かに見据えた。

「お前は俺に何も要求してこないな」

 そんな風に言われて、保科は内心苦笑した。
 実際には、色々と要求している。例えば、議会を抜け出して羽染と会いたいだとか。ただあくまでも、そうだと悟らせないようにしているだけである。

「てっきりお前は、俺を利用したがっているんだと思っていた」
「家時様のこと、僕はそんな風にしたりしません」
「――それでもいいと、利用されても良いと思っていたのにな」
「え?」
「お前の言う事なら、何でも聞いてやりたいんだ。だからこそ――そんな風に無垢でいられると、何も出来ることが無くて困る」

 秋嗣は思った。一体何処に目がついているのだろうかと。
 ただ、それでも良かった。
 それが、それで――会津のために、何かできるのであれば。

「家時様、僕は、家時様が……幸せなら、それで良いんです」

 言いながら、どうして自分はこんなにも二枚舌なのだろうかと、保科は俯いた。

「僕で良ければ、何時までも側にお仕えさせて下さいね」

 保科が笑顔でそう言うと、家時が何度か頷いた。

「だったら、俺のモノだって言う証拠、残させろよ」

 家時はそう言うと、近くのテーブルから、小箱を引き寄せた。
 蓋を開けると、中にはピアスが二つ入っている。

「お前は俺のもんなんだよな?」
「え、ああ、はい!」

 慌てて保科が頷くと、家時が目を細めて笑った。

「もう逃がさないからな」
「っ!」

 そう言った家時に、強引に右の乳首へとピアスを突き刺され、保科は目を見開いた。
 痛みだけが体の感覚を支配する。

「――!!」

 体が恐怖と痛みで震え、思わず保科は叫ぼうとした。
 だが喉に酸素が張り付いて、声すら出てこない。
 だからこぼれ落ちたのは、痛みによる涙だけだった。

「次は左だな」

 淡々とした家時のそんな言葉に、保科は気づけば震えていた。

「嫌、止め、無理、嫌だ……ッ、んぁ!!」

 無理だと手を振り、保科が拒もうとしても、それを綺麗に家時が交わす。
 そして家時が、今度は左側の乳首にピアスを突き刺した。

「っあ――ッ――ぁ、くッ、や、やだ……!!」
「これでもう、お前は俺のモノだな」
「っ、ふ……」

 痛みから、涙がこみ上げてくる。
 ――僕は、どうしてこんな格好をしなきゃならないんだろう?

 辛い胸中を誰にも吐き出せないまま、保科は嗚咽した。

「入れるぞ」

 その言葉を保科が理解したのとほぼ同時に、深々と家時が楔を突き刺した。
 慣らすわけでもなく、潤滑油があるわけでもない。

「う、ぐッ、ぁ……ッ、んア!!」

 どうしようもない圧迫感に犯されて、保科の思考がぐらつく。
 めり込んでくる感覚に、呼吸が出来なくなる。

「痛っ……ッ、は、く、苦しい……ッ、んぅ――!!」
「保科、少し力を抜け」
「む、無理……ぁ……!」
「きついな」

 後ろから押し入られ、保科は背を震わせる。
 一歩ひいた理性が、こんな風にされたら、後が大変だと呟いた。
 しかしすぐにそんな冷静な思考は、痛みでかき消える。涙で視界が歪んだ。

「や、ぁ、や……ッ」
「いやなのか? お前の体は喜んでいるみたいだぞ?」
「っ」
「素直になれ」
「ぁ、あ――んぅ、ぁ……!! っ」
「ここが好きなのか?」
「うぁあッ――や、やだッ」

 痛いのは本当だった。だが、既に、こうした行為に慣れきっていた体は、血を流すでもなく、痛みをただ快楽へと変換する。

「ついてやる、好きだろう、こうされるの」

 そのまま内部を激しく蹂躙される。
 気づくと保科は精を放っていた。
 動かれるままに快楽を貪り、意識を飛ばしたのだ。



 意識を失った保科を腕の中へと収めながら、家時が嘆息する。

「これが、俺だけのモノだったらいいのにな……」