記念日



「本当に付き合ってくれるのか?」
「くどいです」

 そんなやりとりがあったとかなかったとか。

 結局保科秋嗣は、徳川家時の告白を受け入れた。
 その後それは――互いにしがらみのない、初めてのデートだった。
 8日は、二人が付き合った記念日だ。

 しかしそれを、保科が覚えているのか。そんなことを家時は考えていた。

 これまでの関係性からしたら、自分がそんなたった一日を覚えていることなのだと言ったら笑われてしまうかもしれない。けれどそれでも――二人で刻んでいく毎日が家時にとっては幸せなのだ。体の関係を持つ以外の関係性。それ以外は、家臣しかしか知る者はいなかった。それでも、この愛は進んでいくのだ。それは酷く穏やかだった。

「この中華料理美味しいですね」
「だろ? 良かった」

 某デパートの最上階で、コース料理を頼んだ二人は、そんなやりとりをしていた。
 美味しいと思ってもらえたのが嬉しい。
 それだけでも家時の心は温かくなる。

 正直なところ、こんなにも好きになるとは思わなかったのだ。
 ただの単調な日々を、気まぐれに過ごしていただけのはずなのに。
 気づけば、保科の存在がどんどん大きくなっていくのだ。その想いはついに家時の心を埋め尽くして、苦しくなっていく。

「その……良かったら」

 そう告げて、チェーン付きの指輪を家時は机の上にのせた。首からさげる形の指輪だった。同じモノを自分がつけているだなんて、恥ずかしくて彼は言えなかった。

「え、良いんですか?」
「ああ、もらってくれ」
「これって……もしかして、一ヶ月記念?」

 図星を指されて、家時は照れながら顔を背けた。

「じゃあ僕からも」
「別にそんなんじゃないから、だから、その――……」

 本当に照れ屋だなと、家時を見ながら保科が微笑する。

「きっと家時様に似合うと思って」

 差し出されたのは、ネクタイピンだった。

「――これを俺に?」
「気に入らなかったら捨てて下さい」
「いや、た、大切にする。その、だから――」
「素直にお礼いって下さい。これから毎月記念日はあるんだから」

 そんなやりとりをしながら、首にチェーン付きの指輪を保科が填めた。

「まぁ、僕は国外にいることが多いと思うんですけど」
「会えない月の分を俺は買っておく」

 その言葉に今度は照れくさくなって保科が照れた。

「じゃあ、僕もそうします」

 新たな関係を築き始めたそんな二人を、ただ冬の月だけが見ていた。