平行線な二人


 いつだって国、故郷ではなく”国”に戻ると、山縣がいてくれる。

 ただ、物理的ではなく会えないという時間的距離が広がるたびに、朝倉は、気がつけば忙しい振りをしている自分自身を思い知らされていた。

 なぜなら、何の用事もない日――一人だったからだ。いつもであればこういう日は、フラリと山縣が姿をあらわすものだ。ものだった。

 なぜいつもタイミングがいいのだろうかと思っていたが、それが情報部所属で探られているからではなく、友人だからだと思いたかった。思いたかったのだ、が。

 今日、山縣はいない。
 会いたいのかと言われれば、それはわからない。

 ただ忙しければ、会う、会える時間がどんどん減って行っても、それを言い訳にできた。寝たことの無い相手、抱かれるでもなく抱くこともない相手にたいして、なぜ言い訳する必要があるのかは、朝倉自身もわからない。

 その時ノックの音がした。
 山懸かと思って身構える。

「郵便です」





 あーあーあー仕事が終わらないと、山縣は考えていた。
 郵便物を受け取っている上司――羽染晴親を一瞥し、すぐにPCに向かう。公的には既に鬼籍に入っている、家族も捨てた上司。笑顔なのに血も涙もないーーのだろうか。山縣にはたまに分からなくなる。

 それが国のためなのだと言われたらそうなのかもしれない。
 しかし理解できても、共感できるわけではないし、それが上司の本心かすらわからない。こういう時は朝倉の顔を見て、異国の話を聞きたくなるのだが、帰ってきたという話は聞かない。そもそも帰ってきてもすぐに次の戦地に行くか、国内の事務処理で忙しそうだから、公的に暇な自分が会いに行く理由も、仕事で命じられなければない。そしてそんな命令はない。

「山縣くん、休暇」

 その時突然そう言われた。
 ――電話でもしてみるか。


 そう思いながら勝手に朝倉の執務室へと、山縣は入った。合鍵は持っていた。
 そこにはやはり誰もいなくて、窓からは白い光が差し込んでくる。

 外を眺めながら、携帯電話を握りしめる。

 何を話せばいいのかわからなかった。
 だけど、コールしてみる。

「あ。朝倉?」

 電話はすぐに繋がった。


『どうかしたの?』
「いや、休暇で暇で。何してるのかと思ってな」
『山縣は?』
「だから休暇」
『僕は――』

 その時声が途切れた。電波が悪いのかと、山懸が携帯電話を見る。

「お前の後ろにいる」
「メリーさんかよ」

 気配が無かったから、正面の窓の外を見たまま山懸が言う。

「本当に休暇なのかい?」
「ああ。いつ帰ってきたんだよそんな話聞かなかったぞ」

 山縣は、そう言いながら振り返る。すると朝倉が苦笑していた。

「上司にでも隠蔽されたんじゃないのかい?」
「かもな。いきなり休暇だって言われたからな」

 久しぶりにあったが、山縣は久し振りだという気がしなかった。
 そこが二人の違いだろう交わらない2人の、平行線。
 二人揃って携帯電話を下ろす。

「飯にでも行くか」

 山縣の声に朝倉が頷いた。
 そんな二人だった。