紡ぐ(雨宮視点)


 紫陽は、自分の美しさに気づいていないと俺は思う。
 また増えたてるてる坊主を眺めながら、思わず微笑してしまうのは、本当は中身が可愛いと知ったからだ。

「雨宮様は、今日はいつもよりも静かですね!」
「そうかな。紫陽に見とれていたんだよ」
「この打掛本当に綺麗ですもんね」

 そういうことじゃなかったのだけれど、実際によく似合っているなと思う。
 贈って良かった。
 帯をほどいてしまいたくなる衝動だけはどうしようもないのだが。

 紫陽を見ていると、雨に濡れた紫陽花の花を連想する。
 手折りたいわけじゃない。
 愛でていたい、とも少し違う。

 惹きつけられて目が離せなくなるのだ。
 時折はにかむように微笑まれたりしたら、すでに限界だ。

 もちろん外見だけが好きだというわけじゃないが、すぐにでもこの華奢な体を抱きしめたい衝動にかられる。だけどあまり力を込めたら折れてしまいそうで怖い。

 ――まさか、男娼に恋い焦がれる日が来るとは思わなかった。

 けれど冗談交じりにしか愛の言葉など囁けないからひどくもどかしい。
 外見だけならば凛としていて氷のようなのに、たまに褒めてみればひどく恥ずかしそうにする。それは決して顔に出ているわけじゃないのだが、もう慣れ親しんだと俺は思っているから、雰囲気でわかる。

「なんだか今日の雨宮様のお顔は優しいですね!」
「それはいつもは冷たいという意味?」
「そうゃなくて、笑顔が意地悪くなさそう」
「いつもは意地悪なんだ」
「それは、その……」

 紫陽は正直だ。それに思わず笑ってしまう。そんなところも好きだった。
 日々の生活で古狸ばかりを相手にしているせいなのか素直で裏表のない紫陽といると大変落ち着く。

「紫陽、おいで」
「……はい!」

 俺は布団の上に紫陽を呼び結局抱きしめた。
 小さく息を飲んでいるのがわかる。
 ああ、俺は紫陽には一体どう思われているんだろう。

 ――ただの客。
 それが一番真っ当な答えだ。俺は一体何を期待している?
 自分とは異なる温かい体温に、僕は目を伏せ、その肩の上に顎を置いた。

 腕を離して紫陽の手をぎゅっと握る。

 ああ、いつかこの俺の思いを伝えられる日は来るのだろうか。
 俺は紫陽を、愛してる。
 ただもう口に出さなくても伝わっている気がするのだ。

 俺にできることはといえば、毎日ここに足を運ぶことくらいだけど、毎日来ている時点で入れあげていると伝わっているのは間違いがない。

 ――ただ、紫陽は鈍い。
 俺が一晩中紫陽と過ごすために、他の客を基本的に蹴散らすために、どれだけの労力と手回し、費用を払っているかも知らないだろう。そこまでする俺も俺だけど。

 ただ一人だけ阻止できない客がいる。
 よりにもよって紫陽が以前好きだったという噂の客だ。
 そんな日は嫉妬で気が狂いそうになる。

「紫陽は俺のことが好き?」
「大好きです!」

 正直そんな言葉だけでも、たとえそれが営業だろうとも構わなかった。
 紫陽の声で好きだと言われるだけで満足する俺がいる。

 それから打掛を脱がせて、押し倒す。
 首筋に貪りついて、強く吸った。

「あっ……」

 痕をつけたから、また紫陽に怒られるだろうなと思う。
 だけどもうこの独占欲が止まらない。止まるところを知らない。
 触れている箇所全てから、俺の気持ちが溢れ出してしまいそうな感覚がした。

 だけどこの思いがきちんと伝わるのならばそれでもいい。



 ああ、夏が来るまでには、この思いを言葉して紡ぐことができるだろうか。