拷問調査官




 俺の自尊心は、紙おむつをはめられたくらいでは崩れたりしない。

 むしろ十二時間も禁煙していることのほうが辛い。俺が敵国、科学国に捕まったのが、ちょうど十二時間ほど前だ。時計程度の科学は、俺の国にもある。

 俺の国――魔術帝国は、現在科学国と戦争中だ。

 そして俺は、潜入調査をしていて捕まった。わざとだ。一定期間は本当に調査し、その後あえて動向を掴ませ捕まり、期限の時に相手の施設で生体爆弾を起爆させる計画だったのである。要するに、この軍事施設に捕らえられた時点で俺の勝利なのだ。三日後、あとは俺の心臓の中で爆弾が爆発するのをただ待てばいい。

 俺は死ぬが、帝国は科学国の主要施設をひとつ潰すことができる。それもたったひとつしか人的資源は用いない。生体爆弾は科学では決して発見できない。俺が口を割らない限り、場所はわからない。ただし摘出されれば、効力を失う。結局その場合は、俺は心臓を抜き取られるわけだからどのみち死ぬ。俺が死んだとき、帝国の家族には莫大な報酬が支払われることになっている。

 だから俺は自分で志願した。
 部下をこんな目にあわせたくなかったというのもあるし、自分ほど拷問にたえられそうな部下をもうほかに見つけられなかったということもある。

「で、どこに生体爆弾はあるんだ? 解除コードは?」

 科学国も当然帝国にスパイを放っていたらしく、俺が生体爆弾に関わっていることまでは知られている。しかし解除コードは俺も知らない。存在しないのだ。今俺の前で楽しそうにおしゃぶりとガラガラをふっているバカもあと数日の命なのだ。科学国の拷問調査官はすごいと聞いていたが大したことはない。

 俺は先程から、ずっとローターを入れられた上に紙おむつをされているが、なんとも思わない。羞恥心などない。むしろそれを楽しそうに振っている相手が滑稽に見える。確かにトイレにはいきたい。しかし幸いおむつがある。

 後ろの排泄は既にさせられた。みんなの前で、バケツに。浣腸だ。
 その後放水機を後ろの中へとぶちこまれてすべて洗いざらい何度も出させられてからの大人の玩具である。涙は出たが、生理的なものであり、屈辱からではない。むしろ仕事とは言え同性を犯さなければならず相手も大変だろうと思う。俺はがたいもよく、筋肉質で、男らしいと言われることしかないため、見ていても楽しくないか、お笑いのネタだろう。だからか。だから新しいオムツを手に笑っているのか。神経を疑う。

 相手の気持ちになれと小さい頃に習わなかったのだろうか。まぁ今の俺の気持ちはといえば、率直に言えば、早く三日経ってくれないだろうかということだ。

 壁に掛かっている時計を一瞥する。
 拷問部屋では時間感覚を曖昧にさせることが多いのに、時計があるのは珍しい。丸い大きな時計が、俺の正面の壁の上にあるのだ。

 ほかには、ずっとクラシックがかかっている。そして一時間に一回、フラッシュが光る。なんの意図かは知らない。ただし無意味なものがあるとは思えないから、俺の体に何らかの条件付けをしようとしているのだろうとは思う。だがいまのところはその気配は感じない。

「ダメだな。やはり主席調査官様がいらっしゃるまでは、口は割れないだろうな」

 たびたび俺はその語を聞いていた。
 拷問条約が締結されているから、科学国による身体欠損的な拷問はないとされているが、一節では、その主席調査官様は秘密裏に四肢切断などを行っているとの話だった。現在のところ、帝国側には、主席調査官とやらの手にかかって戻ってきた者が一人もいないためわからない。

 生存者がいないわけではないのだが、皆正気を失っていたのだ。二人、どちらも俺の部下だった。あと三人送り出したが、無事には帰ってきていない。そのうち一人は、自殺体、もう一人は首が帝国領で発見された。最後の一人は、目の前でガラガラを振っている。裏切ったのだ。とりあえず生きていて良かった。

 俺は時計を見る。後正確には、七十時間弱耐えれば、すべてが終わる。
 そしてその日の拷問もそれで終わりらしかった。拍子抜けしながら、俺はおむつを外されるのを無言で見ていた(トイレは外される前にしておいた)。

 スモークガラスがあるから、そこに監視員はいるのだろうが、部屋からは誰もいなくなった。扉が開いたのは、それから五分後のことである。黄緑色のトレーを持った少年が一人入ってきたのだ。柔らかそうな茶色の髪に、橙色の瞳をしていた。俺が帝国に残してきたたった一人の家族である弟と同じくらいの年頃だ。十代後半だろう。

 俺の弟は、科学国の閃光弾が原因で目が不自由になった。今のご時世、身体障害を持つ者は、少なくとも帝国では邪魔者として扱われる。俺は、弟には生きていて欲しいのだ。だから金が要る。今回の報酬で、弟は第三国で科学的な手術を受けることになっている。そうすればほぼ十割見えるようになるらしいのだが、帝国にいては科学的手術を受けることは不可能なのだ。俺は愛国心があるわけではない。

「あ、あの、少しでいいので食べてください……!」

 少年の言葉で我に帰った。視線を向けると、スプーンの上にスープを乗せた少年の姿があった。そうか、彼の仕事は俺に食事をさせることか。そう思い直し、素直に口を開けた。

 別に三日くらい何も食べなくても平気だし、毒殺の可能性もあるが、どちらにしろ俺は死ぬのだからと思えば、気が楽だった。少年に仕事を全うさせてやりたかった。

「これから一週間お世話になります。僕はサリスといいます」
「……」

 なるほど、拷問は一週間がかりらしい。あるいは主席調査官とやらが一週間以内にくるのだろう。だが、時間は一週間もないのだ。この少年も含めて、爆死するのだから。そう思えば、少年が少し哀れになった。きっとサリスと名乗ったこの少年の家族が遠方にいるのであれば、

 弟の正面に爆弾を落とした科学国を俺が呪ったように、俺もたいそう恨まれるのだろう。しかし別にそれでいい。戦争なんてそんなものだろう。俺には善悪の概念などとうにないのだ。無言のまま俺は食べ終えた。早く死にたかった。

 その日は本当にそのまま何もなく、素直に俺は眠った。


 翌朝俺は、革靴の音で目を覚ました。ああ、タバコが吸いたい。

 うっすらと目を開ければ、そこには背の高い男が立っていた。金髪碧眼。黒髪黒目の俺とは違う。生まれ持った体格からして違う。俺は自分より背が高いやつを久しぶりに見た。彫りの深い凛々しい顔立ちで、俺との一番の違いはちょっと目を惹くくらいに端正な顔をしているということだろうか。俺はお世辞で男前だと言われたことがある程度だ。可もなく不可もない。それが情報部の俺に求められた一番の容姿だ。

 軍服を着たその男は、注射器を手に、微笑を浮かべていた。そして俺が目を覚ましたことに気がつくと、一歩近づいてきた。

「目が覚めたか」
「……」
「これより君の拷問を担当するルシアという。お見知りおきを、アルトバルン大尉」

 噂の主席調査官様なのだろう。顔を近づけて言われたので、俺は瞬きをして頷いておいた。全身が気だるい。そんなことを考えていたら、あっさりと首筋に注射をされた。一体何の注射なのか。疑問の答えはすぐに返ってきた。

「この注射は、君の感覚を鋭くする。今からは、痛覚だ」

 爪を抜かれるのか。指を切り落とされるのか。舌をぬ……それは話せなくなるからないか。そう考えていたら、口に拘束具をはめられた。

 ?
  普通は、これでは話せないからはめない。

「舌を噛み切られては元もこうもないからな」

 不穏な言葉だが、脅しだと思う。ギャングボールの感触にため息を飲み込もうとした――その時だった。

「!」

 目を見開く。全身が総毛立った。何が起きたのかわからなかった。

「っ、っ、っ――!!」

 瞬間俺は意識を失った。


 おそらく……痛かったのだろうが、痛み、痛覚などという概念では言い表せない。強いて言うならば、全身が熱かった。

「意識を取り戻したか」

 その言葉に時計を見た。視界が滲んでいるのが嫌でもわかった。まだ、五分も経ってはいない。それしか意識を飛ばさなかったことに安堵しつつ、俺は必死で何が起きたのか考えた。何もされていないのだ。注射以外は何も。それ以外の変化が何かあったか? その事実に怖くなった時、ふと気づいた。クラシックが止まっていた。

「音量を上げろ」
「――!!」

 小さい音から徐々に徐々に調べが飛び始める。それに従い、俺の体をじわりじわりと痛みが襲い始めた。

「一番大きくしろ」

 その声を聞いた直後、俺はまた気絶した。次に目を覚ました時には理解していた。なるほど、感覚を鋭くする注射だと言っていた。俺は音に反応して、聴覚から痛みを感じているのだ。だが椅子に全身を拘束されている以上、耳をふさぐわけには行かない。正面でフラッシュが光ったのはその時だった。再び俺は意識を失った。

 水をかけられて、無理やり覚醒させられた。

「わかっただろう、アルトバルン大尉。この少しばかり強い光と音でも、君の痛覚は限界を訴えているんだ。さっさと話して楽になってはどうだ?」
「……」
「しかたがないな」
「っ」

 黙っていると頬を撫でられた。その刺激が、どうしようもないほど痛かった。
 ――それから俺は、三時間ほど、意識を失うギリギリのところの痛みを与え続けられながら、必死に目を閉じている。そうすれば少しは光がましになる。痛い、じわじわと痛みが襲いかかってきて、呼吸するのが辛い。けたたましい音に気が狂いそうになって、泣きそうになるのだが、号泣はこらえる。この際生理的な涙のことは、どうでもいいと思うことにした。

 しかし時折歩み寄ってきては、俺の顎を持ち上げるルシアの手に、都度都度呻いて俺は気絶している。触覚も痛みに変わるのだ。気絶してもすぐに覚醒させられていたのは最初だけだった。すぐに、さらに強い痛みを与えられて、俺は起こされるようになった。

 これがあと三日も続くのか。だが……ただ痛いだけだ。我慢すればいい。ただしこれならば下手に扱われれば正気を失うのもわからないでもないなと思う。部下たちはこんな目にあったのだろうか。そう考えた次に意識を失ったあとは、しばらくの間起こされなかった。次に目を覚ますと、俺は再び口を拘束されていた。

「痛みに12時間耐え抜いたか。流石だな」
「……」
「次は、快楽だ」

 新たな注射を打たれたとき、その刺激には痛みを感じなかったので、気づくと安堵の息をもらしていた。もしもあの痛みの中で注射などされていたらどうなっていたのだろう。しかし直後、そうされていたほうが良かったのかもしれないと俺は思った。

「!!」

 気づくと俺は果てていた。

「ん――!!」

 二度目もすぐだった。痛みと違って、悲鳴を押し殺せなかった。クラシックの音が一気に高まった瞬間、強制的に俺は射精させられた。

 しかも今度は意識を失うわけではない。徐々に下げられるともどかしさを全身がおそい、それから次第に音が上がるとゾクゾクと快楽がこみ上げてきて、そして達しそうになったところで、音量を維持される。ガクガクと体が震え出したとき、フラッシュが光って俺は果てた。拘束されている唇のはしからヨダレがこぼれた。

 近寄ってきたルシアが俺の足首を持つ。それだけで、そそり立ち、指先を口に含まれた瞬間、俺は泣き叫んだ。尋常ではない快楽に襲われて、おもいっきりかぶりをふる。直接的には一度も性器に触れられないまま、俺は四度果てさせられた。

「っ、ぁ……っく、っ……ん」

 そして早三時間、ギリギリ達することができない程度の快楽を与え続けられている。痛みの後だからなおさら辛いのかもしれない。全身が溶けていくようだった。必死で声を噛み殺すのだが、その度に頬を撫でられ、今度はそれが気持ち良くて息が詰まった。

「出したいか? そろそろ話す気になったんじゃないのか?」

 吐息が耳の中に触れた。俺はそれだけで、快楽から気絶した。
 やはり――痛みよりもこちらのほうがひどかった。

 次に目を覚ますと、両方の乳首を後ろから撫でられていたのだ。その刺激に目を見開いて、俺は再び果てた。もう限界だと思った瞬間、陰茎を握られて、俺の出したものでぐちゃぐちゃの下腹部をしごき上げられまたも意識を失った。

 起きるのが怖くなった。俺は嗚咽をこらえながら、首の後ろを噛まれては気絶し、脇の下を触られては果てた。人間の体はこれほど達することができるのかと呆然とした。しかしやはり、限界は来た。

 何をされてもたらたらと透明なものしか出なくなったのだ。
 ただもう快楽とは呼べない苦しさに全身を襲われるだけになったのだ。するとそれを見計らっていたかのように、ルシアが微笑した。

「そろそろドライだな」
「――、――!!」

 昨日さんざん用いられたローターを、ローションに浸してから押し込まれた瞬間、俺は愕然とした。昨日とは全く違うのだ。振動さえしていない。だが進んできたそれが前立腺に触れた瞬間、俺は声のない悲鳴を上げた。中だけで果てていた。

「教えてくれないと、スイッチを入れることになるぞ」
「……」

 俺に言うつもりはない。
 ゴリゴリと前立腺を刺激され、その度に視界が真っ白に染まったが、俺は言葉を口にしなかった。もちろん、直後スイッチは入れられて、内部でローターは振動を開始し、俺は理性を失った。

「……快楽にも十二時間持ちこたえるとはな。さすがだな」

 意識を取り戻したとき、そう言われた。どうやら俺は持ちこたえたらしかった。

 そして尊厳や自尊心ではなくて、本当に、これは、どこまでたえられるのかという問題だとはっきりと理解した。むこうもわかってやっているのだろうから、こちらが正気を失うギリギリのところをついてくるのだ。だから狂えない。

「休憩だ」

 そう言われ、俺は口の拘束を外された。舌を噛み切りたいが、先に俺が死ねば爆弾が不発する可能性がある。生体爆弾の数少ない欠点だ。そこへサリスが食事を持って入ってきた。

「食べてください……だ、大丈夫ですか?」
「……」

 俺は自分の涙が乾いていることに安堵していた。幸い服も着せられている。
 少年の前で俺は、ただ無表情で頷いた。平気なフリをして食事をする。

 ――痛みと快楽が六時間おき、三時間おき、と、やってきたのは、食後のことである。

 どんどん両方の間隔が狭くなっていく。
 ただ、次第に、次に来るのは痛みだ、次に来るのは快楽だと、俺の体は覚えた。
 ルシアが再び顔を出したのはその時だった。

「次は痛みからか」

 そういったルシアが俺に注射をし、ニヤリと笑った。

「え?」

 直後俺は、果てていた。痛みを覚悟していた体を快楽に絡め取られて絶叫した。

「うあああああああああああああああああ!!」

 次に気づくと、俺は頭上で手首を拘束されていた。
 何度も咳き込んで、俺は瞬きをした。意識が朦朧とする。

「次は、痛みと快楽どちらだと思う?」

 注射器を一瞥して、ルシアが笑っている。俺は必死で時計を見る。

 どのくらいが経過しているのかもうわけがわからない。必死で考える。ここまでの間に、俺は五回食事をしていた。サリスの手で。愛らしい顔を思い出す。六時間おきではない。おそらく四時間程度のおきが二回、十二時間でいどのおきが一回だ。朝昼夕だ。二日は経過していることを祈った。あと一日、二十四時間程度持ちこたえればいい。それだけ持ってくれれば、あとは、楽になれるのだ。

 しかし注射はされなかった。

 かわりに、巨大なバイブを中へと押し込まれる。

「んっ……ぁ……」

 強すぎる快楽がないため、素直に受け入れた俺は、体にこもった熱を吐息で逃がした。
 その状態で、不意にルシアが暗い目をした。

「まだ話す気にはならないか?」
「……」
「しかたがないな」

 ルシアはそう言うと細い棒のようなものを取り出した。棒なのは間違いがないのだが、半透明のそれは長く細く、用途が思いつかない。

 見ている前で、ローションにそれを浸してから、ルシアがため息をついた。指先が悩ましげに動く。

「……ぁ、あ……? あ、あ、あああああ」

 そして俺の陰茎に手をかけると、鈴口からそれをおし入れてきた。
 トントンと先端をつかれ、中へと押し込まれていく。息が凍りついた。奇妙なその感覚に、恐怖から涙がこぼれてくる。カテーテルを入れたことならばあるのだが、もっと違う細くそしてぬめる感触に純粋に俺は恐怖した。しばらく入ったところで、今度は螺旋を描くようにしてルシアがそれを押しすすめはじめた。

「うああああ」

 だが次に襲ってきたのは、純然たる射精感だった。ずっと放っているような感覚に、俺は仰け反りそうになった。

「動かないほうがいい」

 その言葉に硬直して、必死で目を閉じた。尿道を犯されていく感覚に、次第に悦楽を覚えていく自分の体にも怖くなった。極限まで快楽を味合わされていた俺の体は、未知の刺激を貪欲に求めているようだった。

「あ、あ、あ」

 もう入らない。そう思った時だった。再び、トントンと棒の先をルシアが刺激した。

「――、あ」

 俺の全身がはねた。まるで後ろで達した時のような感覚が、前から襲いかかってきたのだ。陰茎の側から前立腺を暴かれたのである。頭が真っ白になった。

 その状態でルシアが手を離す。一度びくりと震えたっきり、俺の体もまた動きを止めた。それでもガクガクと震えているのは間違い。

 何度も大きく呼吸する。なのに息苦しい。

「や、やああっ」

 再びトントンと刺激されて俺はついに号泣した。気持ちが良すぎておかしくなった。
 だがルシアは何も言わず片手でバイブを握ると、それで内部からも前立腺を突き上げ始めた。両側からの前立腺への刺激に、注射など無いにも関わらず俺は絶頂を迎えて意識を失った。

「あ、あ……」

 目を覚ますと、バイブはまだ中に入って揺れていた。ひたすら前立腺を突き上げる形で固定されている。その振動が骨まで響いてくる。

 そして――細い棒もまだ前に入っていたが、少し位置が上にそらされていた。それを確認してから、俺は泣いたままで、正面にたつルシアを見た。注射器を持っている。

「選ばせてあげよう。痛みと快楽どちらがいい?」
「痛み」

 俺は反射的に答えていた。意味のある言葉を放ったのは、ここへ来てから初めてのことだった。だが先ほどの記憶がよぎり、もう耐えられそうになかった。痛みならばおそらくショック死して終わる。

 だが先ほどのアレを快楽でされたら俺は正気を失う。部下たちの身に起きたことを知りながら、俺はただ目を見開いているしかできなかった。涙が止まらない。

「残念ながら、快楽だ」
「うああああああああああああああああああああ」

 トントン、と、先に棒を刺激された。ルシアが唇で俺の乳首を吸った。
 そして注射された。何もかもが焼き切れた気がした。

「ここまでたえるとはさすがだな」

 その言葉を聞きながら、俺は俯いたたままで意識を取り戻した。目は既に開いていたから、正確には自我を取り戻したという方が正しいのかもしれない。

「あとは正気を失うだけだぞ」

 そんなことは分かっていた。そしてまだ口を開いていないらしい自分に安堵もしてた。
 記憶がほとんどないから、口を割っていたのかもしれないとどこかで考えていたのだ。しかし無理か。あの状態で、人間の言葉を話せという方が困難だ。ルシアへと視線を向けながら、俺は思わず笑ってしまった。すると息をのむ気配がした。

「まだ思考もあるのか?」
「……」

 顔を背けて俺は泣いた。確かに拷問というだけあって、これは辛い。

 仮に生きて帰ることがあったとしても、もう俺の体はどうにもならないだろう。絶望的なことに、何もされていない今、目を伏せるとよぎるのは、尋常ではない快楽なのだ。俺は後ろを激しく突かれ、尿道を犯される事を望んでいる。

 しかし拷問でもなければ、俺にそのようなことをしてくれる相手など、よほどの報酬を支払わなければいない。そしてそのような報酬は俺にはないのだ。これが早く楽になりたいという気持ちか。

 そう思ったとき、扉が開いた。

「お食事です」

 入ってきたのはサリスだった。するとルシアが考え込むような顔をした。

「これ以上しても気が狂ってしまうしな。注射があまってしまったな」
「なんのお注射なんですか?」
「興味があるか?」
「は、はい!」
「……――とても気持ちがよくなる注射だ。試してみるか?」

 その言葉に俺は目を見開いた。反射的に顔を上げると嘲笑を浮かべたルシアと目があった。彼の手は、サリスの首筋に触れている。気づいたときには俺は呟いていた。

「やめろ」

 するとルシアが微笑した。

「話す気になった時以外は口を開くな。こちらも暇でな。娯楽は相応に必要だ」
「ルシア様?」
「サリス、君はただ僕に身を任せていればいい」

 俺の全身が震えた。何も知らない少年の未来を想像して、俺は勝手にも恐怖したのだ。

「話す、やめろ、やめてくれ」
「……ほう。爆弾はどこだ?」
「俺の、心臓だ」

 口早に俺は答えていた。堰を切ったように、何かが溢れ出した。ただ少年に屈辱を味あわせるのが嫌だったのだ。

「さすがですね、サリス大佐。主席調査官だけはある」

 響いた声に、俺は絶句した。

「痛みや快楽よりも、もっとこうね、問題は心なんだよ」

 目の前では深々と少年がため息をついている。そしてルシアから体を離した。

「……」

 俺の前に立ったサリスは、それから苦笑するような顔をした。

「脳でなくて良かった。人工心臓の手配は既にしてある。何も心配しなくていい、アルトバルン大尉。それとあなたの弟さんの身柄はこちらで預かっている。あなたが口を割らなかった万が一の場合に備えてね。そちらの手術も保証します」

 全身から力が抜けた。そして俺は、おそらく精神的に限界だったのだろう。何をされたわけでもなかったが、そのまま寝た。





 それが半年ほど前のことだ。
 俺は弟の病室を見舞った帰りの廊下で、再び手錠をはめられる。

 俺と弟は現在科学国に捕らわれているわけだが、結果的には、弟の視力は戻り、俺も死ぬことはなかった。生き残っていた部下には、泣いて謝られた。しかし俺は部下を責められない。部下も俺と同じ目にあったのだ。ただ、バカと言っておいた。弟には、俺は軍人をやめたと伝えてあるから、私服でも問題はない。

 俺に課せられた刑期は二百年。一生牢獄から外へは出られないことになっている。
 牢獄とは言っても、科学国の捕虜収容所はただの街だった。
 教育を受け医療に預かり、社会復帰する場所、というのが適切ですらある。

 処刑されなかったのは、爆弾の所在を告げたことが司法取引に該当したこと、弟の存在で情状酌量されたことが理由だという。もうどうでも良いのだが。

 ちなみに俺は自分の体を心配していたのだが、驚いたことに逆に不能になってしまった。
 一切そういう気にもならなければ、触っても立ち上がることはない。
 それで特に困るような人生を送ってきたわけではない。


 ――だが不能になったことに気がついたことには、もちろん理由がある。

「っ、ぁ、はッ」

 あてがわれた俺の監獄――というか一軒家に、今日もルシアが来て、俺をだくのだ。
 一目惚れだったという。バレればもちろん、ルシアの側が逮捕される関係だ。はじめは無理やりだった。しかし俺は逆らえなかった。

 そして、貫かれてから、発覚したのだ。何も感じないし、全く勃たない。それでもできないわけではないので、関係は続けている。別に俺の側からは愛など特にはないと思うのだが、知り合いもおらず、誰も訪ねてくるわけでもない家に、通ってきてくれるルシアのことが、少しだけ大切になりつつある。

「辛くないか?」
「んア……ああ……っ」

 なお、俺がルシアと正式に付き合うようになったのはその一年後のことであり、俺のEDも治ったりするのだが、それはまた別のお話だ。戦争だけが、ただ今でも続いている。