【28】誕生日(★)





 その後――夏から付き合い始めた俺達は、冬を迎えた。
 本日は、俺の誕生日だ。

 ポロっとそう言ったら、琥珀が、

「前に聞いた。ギルドで祝った時に、俺も行っただろ? 覚えてるよ、ちゃんと」

 と口にして笑っていた。

 ナスさん達、メビウスのギルメンも祝ってくれると言っていたが、空気を読んでくれたのか、それともみんなの都合からなのか、誕生日直後の週末にお祝いパーティーを開いてくれると話していた。パーティーという名の宴会だ。

 だから今年は、前日から当日にかけては、琥珀と二人で過ごす予定だ。

 これまでリアルでは、ゲームしか無かったから、まさか恋人と過ごす日が来るとは思っていなかった。

 最近の俺達――達、というのは、現代日本からこのゲーム風異世界へと転生(?)したみんなであるが、ほぼ全員が、現地人の冒険者に溶け込み、クエストをこなしながら、生計を立てている。

 特に、シナリオを追いかけたりはしていない。既に、俺達が知っている射手座の皇帝の末裔捜しまでの部分は完了済だし、運営にいたという琥珀も、シナリオライターではないから、続きの未来は知らないそうだった。

 ナスさんも嘗て話していたが、俺は、未来とは自分達で作るものだと思う。
 それこそ、死が別れをもたらすまでの間、俺は自分で選んで、琥珀のそばにいたい。
 そう考えながら、俺は琥珀の部屋の扉をノックした。

「どうぞ」

 すぐに扉が開いて、琥珀が出迎えてくれた。
 中に入ると、甘いクリームの香りがした。
 テーブルを見れば、そこにはケーキが載っていた。

「これ……そんな、気をつかってくれなくていいのに」
「俺が用意したかっただけだ」

 琥珀はそう言って微笑すると、俺をソファに促した。
 それから二人でケーキを食べる事にした。もう夜だ。
 もうすぐ、日付が変わる。夕食自体は、既にとっている。

 秒針の音がいやに気になるのは、琥珀が時計を見据えているからなのかも知れない。
 俺は、自分の誕生日が訪れるのを、無意識に待っていた。
 時計が教えてくれるからだ。

 ――そして、誕生日が来た。

「おめでとう、メルト」

 すると、琥珀が優しい声でそう言いながら、テーブルの上に小箱を置いた。

「っ」
「やり直させて。逆プロポーズみたいに思えて格好がつかないというか――俺から先に言いたかったんだ。俺と、結婚してください」

 テーブルの上に琥珀が載せたのは、紛れもない、結婚指輪だった。
 俺は迷わず手に取り、次の瞬間には指にはめていた。
 無意識だったが、なんの迷いもなかった。

 すると俺達の上にテロップが流れた……。
 これは、結婚時に全ユーザーにそれを知らせるためのゲーム機能だ。

『琥珀とメルトが結ばれ、天使の祝福を得て、伴侶になりました』

 そんな文字が、ユリの花に縁どられて流れていく。合間合間には、ハートマークが浮かんでいた。ゲームでは何度も見たことがあるが、異世界に来てからは、実はまだ見たことがなかった。

 異世界転生後ひと組目の結婚……それもまた照れくさかったが、それ以上に自分のことだからなのか、無性に恥ずかしい。だが、琥珀は俺のものだと公に主張できたような気がして、嬉しすぎて困る。

「ずっと言いたかったんだけど――俺は、記念日とかを覚えるのは、基本的に苦手だから、覚えていられる数少ない日……メルトの誕生日にプロポーズしようと、ずっと思っていたんだ」
「そうだったのか……ありがとう……」

 感動しすぎて、俺は泣きそうだ。ケーキは甘いのに、涙で塩味に変わってしまいそうで怖い。勿論、嬉し泣きだ。いくつもの手紙や個別チャットが飛んでくる。俺の誕生日を祝うものよりも、結婚を祝福するメッセージが圧倒的に多かった。

「メルト、愛してる」
「俺も」

 俺がケーキを食べ終えた時、立ち上がって琥珀がそう言った。
 俺の方が好きだと思うのだが、同じくらい琥珀も俺を好きでいてくれる事を祈る。
 座ったままメルトを見上げていると――不意に、メルトに抱きしめられた。

 普段の腕枕とは違い、不意のことだったせいなのか、ドキリとした。
 自分が飲み込んだ唾が、大きな音を立てた気がする。
 だが早鐘を打つこ動画、すべての音をかき消しているようにも思う。

 俺の耳に、琥珀の吐息が触れた。それを実感した時、囁かれた。

「――良い?」
「え?」
「貰っても」
「何を……?」
「メルトを――結婚したわけだし……初夜なんじゃないのか?」

 その言葉に、俺は真っ赤になって、硬直した。体がぎこちなくしか動かせない。
 それでも必死に首を縦に振った。
 まだ、俺達は体を繋いだことが無い。それこそ、本当の初夜だ。


 それからすぐに、俺達は寝台へと移動した。
 押し倒された俺は、枕に頭をあずけながら、琥珀を見上げた。

「どうして……」
「ん? 今更嫌だと言われても俺は――」
「琥珀って、そんなに綺麗な顔をしているんだ?」
「……あ、ありがとう。だけどね」

 琥珀は一瞬止まったあと、俺の首元をはだけさせながら微笑した。

「メルトの方がずっと綺麗だし――可愛い」
「え? どこが? お前も鏡を見ない系か?」
「それ、どんな系統? まぁ、いい。少し、黙って」
「!」

 不意に琥珀に鎖骨をなぞられて、俺はびくりとした。
 直後、彼の唇が降りてきて、その少し上に強く口づけられた。

「ほら、やっぱり綺麗だ。白い肌に、赤い痕はよく映える」
「な……」

 どうやらキスマークを付けられたらしい。それを聞いただけで、俺は羞恥でいっぱいになってしまった。反応に困っている俺の服を、手際よく琥珀が脱がせていく。気が付くとひんやりとした部屋の風が、俺の肌を撫でていた。

 最初は手で撫でていた琥珀が、それから唇で、俺の右の乳首を挟んだ。

「っ」

 そして舌先でちろちろと俺の乳頭を刺激し始めた。
 初めての感覚に、俺はセをしならせて震えた。
 するとそんな俺の動きを封じるように、琥珀が体重をかけてきた。

 琥珀は自分で服を脱いでいたから、密着した肌から直接彼の温度を感じる。
 それだけで――俺の中心が昂ぶっていく。
 自然と持ち上がりそうになる陰茎に気が付いて、俺は息を詰めた。

「あ」

 それに気づいたのか、琥珀の骨ばった大きな手が、俺の陰茎を撫でた。

「ン」

 緩やかになであげられると、まるで俺のものではないような、甘ったるい声が漏れてしまった。それが無性に恥ずかしくて、俺は唇を噛む。しかし、琥珀の手の動きは止まらず、俺の陰茎を握って、次第に動きを早めていく。

「ぁ……ッ、あ……んっ」
「もっと声を聞かせてくれ」

 琥珀はそう言ってから、少し強めに俺の乳首を吸った。
 すると、陰茎に集まっていた熱が、胸にまで染み渡った気がした。

「ぁ、ぁあっ……待ってくれ、熱い……体が熱い。変になる……」
「可愛いな。やっぱり――可愛い」

 小さく笑って琥珀はそう言うと、俺の目元を舐めた。

「それに綺麗だ。俺は、お前の瞳が何よりも好きだ。ずっと見ていたくなる」
「あ、ああっ」

 左手で骨盤を掴まれ、右手で陰茎を掴まれた時、俺は震えて声を上げた。
 ――気持ちいい。
 体が溶けてしまいそうだ。

 しばらくそうされる内に、俺の先端からは、先走りの液が溢れ始めた。
 それを指ですくってから、琥珀が優しい眼差しで俺を見た。

「挿れてもいいか?」
「あ、う、うん……」

 正直恐怖がないわけではなかったが、俺は、琥珀にも気持ちよくなって欲しくて頷いた。
 するとそばのテーブルの上から香油の瓶をたぐりよせ、琥珀が指にそれを垂らした。

「ひっ」

 すぐに、ひんやりとした感触が、俺の内側へとぬめりを伴って入り込んできた。

「ぁ、ぁ……ぁああっ」
「痛みはないだろう? この世界は――そういう意味では便利だな」
「あ、あ、ああっ、嘘」

 想像していたのとは違い、全く痛みはない。
 すぐに冷たさも、俺の体温と同化し――逆に体を熱くさせていく。
 奥から這い上がってくる快楽に、俺は怖くなって琥珀にしがみついた。

「やッ」
「嫌か?」
「気持ちよすぎて、やだ」
「――そうか。まだ、これからだ」

 琥珀はそう口にすると、指の数を増やした。
 二本に増えた指先が、俺の中をほぐしていく。
 時折、指先で奥を刺激されると、なにか電流のようなものが、体に走ったようになった。

 それが快楽だと認識するまでに、そう時間は要しなかった。

「ああっ、そ、そこは、も、もう、無理だ、ダメだ」
「前立腺はあるらしいな」
「あ、や、俺変だ。中を弄られてるのに、出、出そう……っ、あ」
「一度先に行くか?」
「やだ、一緒に……ぁ、で、でも、あ、我慢できない」
「――俺も、メルトの奥で果てたい。一緒に。悪い、俺も我慢の限界だ。本当はもっと……ダメだ。もう、俺も待てない」

 少し焦るような声を放ったあと、琥珀が俺の中に押し入ってきた。
 挿入の衝撃で、俺は背をしならせる。
 指とは全く異なる、太く熱い琥珀の陰茎で、俺の中は満たされた。

「あああっ」

 繋がっているだけで、どんどん体が熱くなっていく。

 自分の体温なのか、琥珀の体温なのかわからなくなるくらい、体が熱く、上手く感覚を理解できない。快楽以外、考えられなくなっていく。

「や、あ、ああっ、あ、ああっ」
「全部入った」
「あ、あ、琥珀……ッ……」
「辛いか? 悪い、無理をさせていると――」
「やだ、動いて!」
「っ」
「あ、もうだめだ、動いてくれ、熱い。体が熱いんだ。もっと、あ、早く」
「煽るな」

 直後より深く、琥珀が俺を突き上げた。
 それから激しい抽挿が始まった。グチュグチュと結合部分が音を立てる。
 ぬめった香油なのか体液なのかすら、理解できなくなっていく。

 俺と琥珀は、確かにひとつになっていた。

 その後、俺の右足を持ち上げ、角度を変えてより深く、琥珀は陰茎を動かした。何度も何度も深々と貫かれ、その度に気持ちよさが増していき、俺の頭は真っ白になった。

「あああああっ」

 そして――もっとも感じる場所を突き上げられた瞬間、俺は放っていた。
 肩で息をしていると、俺の内側で、琥珀が果てた事も分かった。
 琥珀の放った白液が、俺の中から漏れていく気がした。

「悪い、我慢できなかった、持って行かれた」
「琥珀……」
「好きだ、メルト」
「俺も……なぁ」
「なんだ?」
「もっと……」

 俺は自分の体の欲望に忠実に、本能に従ってそう告げた。潤んでいるのを自覚できる瞳で、琥珀を見上げる。すると琥珀は虚をつかれたような顔をしたあと、いつもとは少し異なる獰猛さを宿した瞳をして、笑顔を浮かべた。

「ああ、いくらでもな。今夜は、解放する自信がない」

 こうしてその日――俺達は初夜を経験し……そのまま翌日の朝まで、時折眠りつつ、ずっと体をつないでいた。ちょっと、ヤりすぎかもしれない。そう思ったのは、三日目の朝、俺の声がすっかり枯れてしまっている事に気づいた時である。



 その後俺達は、二人で冒険者生活に勤しみ、小さな家を買って、二人で暮らすようになるのだが、それはまた別のお話だ。ゲームのシナリオには存在しなかった展開だから――俺と琥珀の二人で今後も築き続ける俺達だけの物語となる事だろう。

 ――俺は、琥珀の事をどんどん好きになっていく。きっとこの愛が覚める事はない。



【完】