【21】死亡フラグの建築




 ――何も、間に合わなかった。

 俺がそんな無力感に包まれていた時、扉をノックする音が響いてきた。
 どうせロロかナスさんだろう。
 そう思って俺は声をかけた。

「入れよ」

 すると扉の向こうで吹き出すような気配がして――それから扉が軋んだ音を立てた。

「お久しぶりです、お元気でしたか?」
「マルネ!?」
「無事に武器の発掘には成功したので、僕達の側がオフィウクス魔術帝国に来る事にしたんです。結構僕達も頑張ったんですよ?」

 その言葉に、俺は何度化瞬きをしながら、立ち上がった。

「あとは万が一に備えて、射手座の皇帝の末裔を捜すだけなんですよね?」
「あ、ああ……」
「ランキング、大差でメルトに負けてショックだけど――それだけ実力があるメルトなら、きっと射手座の勇者になれますね」

 朗らかに微笑しながら、マルネが俺に言った。

 返答に困って、言葉を探しながらも、俺は再び生きて会えた嬉しさに、涙ぐみそうになった。正直俺は、死ぬのが怖い。

「それと――何人か、実はメビウスのギルメンを始め、各地のギルドの人間が、実は先に、オフィウクス宮殿に潜入していたんです」
「え?」
「それで……ちょっと言いにくいんですが、重大な事を、二つ話さなきゃならなくて、僕は一番にメルトの所に来たんです」

 マルネはそう口にすると、扉を閉めてから、室内に入ってきた。
 俺が視線で椅子へと促すと、そこに座って、彼が苦笑した。

「一つ目は――オフィウクス皇帝に、こちらの情報が漏れているらしくて……それで、ただ相手は、僕達の狙いが魔王の復活阻止や再封印ではなくて、その」
「う、うん」
「ゾディアック帝国から持ち出されているっていう石版だと思ってるみたいです」
「そうなのか?」

 その言葉に、俺は飲み物を用意しながら首を傾げた。

「俺達、別に石版の買得なんてやろうとしてないよな?」
「それが――……そうでもないんです」
「え?」
「……発掘した十二の武器なんですが、再起動のために、三つの石版に暗号化して隠された、パスワードが必要らしくて……。アリエスにあった活動宮洞窟の石版と、崩れたレオ帝国の不動宮洞窟にあった石版からは既に解読済みなんですが……後ひとつ、僕達には、この国が所持している柔軟宮洞窟にかつて存在したはずの石版の知識が必要なんです」

 マルネの言葉に、俺は息を呑んだ。

「敵――特に、特務騎士団長のバルト=アンブロイド=ポステリオルが、何でも明日、誰も入れない、完全密室を作る魔術を用いて、その石版の護衛を開始するらしいんです。ゾディアック帝国縁の、その古代魔術が発動してしまえば、僕達は近づけなくなります。その前に、何としても僕達は、石版の内容を確認しなければなりません。末裔捜しよりも優先事項だと思います」

 俺も大きく頷いた。武器が使えない機器は避けなければならないだろう。

 冷たいお茶が入ったコップをマルネの前に起きながら、俺は続けて聞いた。
 もう暑い季節だから、冷たい飲み物を俺は選んだ。

「もう一つの話っていうのは?」

 俺の問いに、マルネは逡巡するような瞳をした。
 それから少しだけ辛そうな顔をして、口元にだけ笑みを浮かべた。

「僕達の情報を、バルト=アンブロイド=ポステリオル騎士団長に漏らしているのが誰なのか、判明したんです」
「誰なんだ?」
「……聞いたら、メルトはショックだと思う相手です」
「え?」
「でも、言わないわけにはいかないから、言います」
「お、おう」
「――琥珀さんです」

 その言葉に、俺は目を見開いた。喉で酸素が凍りついたようになり、息苦しい。
 何も紡ぐ声が見つからない。

「そんな、嘘だろ……?」
「この状況で、嘘をつく度胸を僕は持ってないです」
「……」
「メルト、今後は琥珀から連絡が来ても、決してこちらの動きを漏らしちゃダメです」

 真剣な瞳をして、マルネが言った。

 ――考えてみれば、俺は、商人一行の護衛をする話を、チュートリアル最後のクエストをこなす予定だという話を、琥珀にしたことがある。

 そして結果として、レグルスの街に、バルトがいたという経緯もある。
 それらは、琥珀が情報を流していたとしても、矛盾はしない。
 寧ろ信ぴょう性を感じさせる事実だ。俺は、琥珀にしか話していないのだから。

「でもまさか、琥珀が……そんな……何のために?」
「そこまでは分かりません。ただとにかく、明日、バルト騎士団長が構築する予定の完全密室を、構築させない――魔術の失敗を誘導するためにも、今後、これ以上僕達の情報を、誰かに与えるべきではないと思います」

 マルネの言葉はもっともだったから、俺は頷くしかない。
 だが心臓がドクンドクンと鳴っていて、嫌な胸騒ぎを感じさせる。

「とにかく明日、射手座の新勇者以外は全員いますし、他に各地のギルドのメンバーも、勿論メビウスのみんなもこのオフィウクスに集結していますので、完全密室魔術の構築を阻止しましょう! そして、石版の中身を、何としても確認します」

 そう言ってから、マルネはお茶を飲み干して立ち上がった。
 扉へと向かう彼を、見送ろうと俺も立ち上がる。
 すると――扉の前で、マルネが立ち止まった。

「僕、頑張り屋さんなメルトのこと、ずっと好きだったんです」
「なんだよ急に。俺も、お前とサブますしてて、楽しかったし、今も、再開できて嬉しい」
「――結婚できたらいいのにと思って、女キャラを操作してたんですよ」
「え?」
「僕、ゲームでは実際の性別を気にしないんで」
「それは、俺も同じだけど……?」
「この世界に来て、いざあったら、環境が男同士に緩いせいもあるのか、実は若干好きになっちゃってました」
「好きって、若干なのかよ?」
「――好きの種類は色々ですから。明日、生き残ったら、じっくり聞いてください。あわよくば、結婚を」
「お前それ、死亡フラグ建築してないか?」
「僕は一級フラグ建築士ですからね」

 マルネはそう言ってクスクスと笑うと、一度振り返った。
 そして――俺のことを抱きしめた。

「ヒントとしては、こう言う意味です」

 その後あっさりと腕から俺を解放し、部屋を出ていった。

「……?」

 何が起こったのか理解するまでに、俺はしばしの時間を要したのだった。