頭を撫でる


 幸い、イメージはイメージであり、俺と時島は、あれ以来一緒に暮らしている。
 ただ、一時期は東京に定住していたものの、最近は引越しをした。
 理由は、時島が仕事を変えたからである。

 お姉さんに任せてきたと話していたのだが、『時島家の仕事』の中には、やはり時島でなければこなす事が困難な仕事があったらしく、実家にほど近いD県の、各地にアクセスが良い場所に越したのである。俺のライターの仕事は、インターネットでのやり取りだから、特に場所は選ばなかった。取材にも特に出かけるジャンルでは無い。

 産子である俺に執着しているらしき、時島の中の蛇。
 概念では何となく分かってきたが、実感は全くない。

「左鳥、旅行に行かないか?」

 時島にそう言われたのは、二月末の事だった。今では、『旅行』というのが、時島の仕事旅行だという事を、俺は知っている。

「今度はどこに行くんだ?」
「梅の花の名所だと聞いた――……時島の分家があるんだ。少し頼まれごとをしてな」
「楽しみだな。けど、行っていいのか? 親戚の家に行くんだろう?」
「あまり連れて行きたくは無いんだが、産子は、一度参拝する決まりがあるんだ。悪いな」
「気にしないでくれ。そんな決まりがあるのか」

 今回は自分に関係があるのかと、俺は何度か頷いた。興味深いなと思う。

「――幸せそうな産子と、蛇を宿した先祖の像がある」
「ご先祖様?」
「ああ。詣でると――……その、生涯幸せで居られるそうだ。この前親戚に会った時に、俺も初めて聞いたんだ。昔からあの像だけは、俺も好きだった」

 照れくさそうに微笑した時島の表情が、俺はとても好きだった。

 それから時島は、俺の隣に座ると、静かに俺を抱きしめた。
 腕の中で大人しくしていると、俺の髪をゆっくりと時島が撫で始める。
 くすぐったいが、俺はこの骨ばった指と体温が好きだ。

「ずっと一緒にいてくれるか?」

 何度目になるのか分からないその問いに、俺は吹き出しそうになりながら頷いた。
 時島の背中に俺も腕を回す。

「時島が俺と一緒にいてくれるんなら、な」
「当たり前だろう」
「大学時代は、こんな事を言わなくても、ずっと一緒にいるんだって勝手に思ってた――まぁ最終的には、そうなったけどな」
「もう何者にも左鳥を奪わせる事はない」

 そう言って、時島は腕に力を込めたあと、俺の額に唇を落とした。
 気恥ずかしくなって俯き、時島の胸に頭を押し付ける。

 ――今、俺達は、確かに一緒にいた。

 俺の頭を撫でる時島の温度。俺はそれが何よりも好きで、大切で、癒され満ち足りた心で愛の囁きを甘受している。だから、仮にこれが夢であっても、俺はそれで良い。

 時島が俺の全てだった。