別の火曜日(★)




 今日は晩餐会があった。ロードの誕生日だからだ。
 火曜日なのにね……。

 そんなことを考えながら、シャンパンを持った僕。

 口の中に広がる甘い炭酸。主役は中央。僕は今日は斜め恥に設えられた椅子から降りて、いつもよりは比較的自由に会場を歩き回ることが許されている。一歩後ろにはスイバ。
これはスイバが宰相になってからしばらくしてからの記憶なんだ。

「陛下」

 歩み寄ってきた貴族の一人に、僕は作り笑いで答えた。

 口から出てくる賛辞賛辞賛辞。僕、おだてられすぎて、お酒を飲むのに必死になってしまった。僕の姿が麗しいから始まって、仕事ぶりまで褒められた。こうまで露骨に褒められたことなんてない。率直に言って、なんだか認められているみたいで嬉しく思った。スイバも少しくらいは、そう思ってくれているかな?

 そんなことを考えたら、カッと頬が熱くなった。一体僕は何を考えているんだろう。もう一口飲んで冷静になりながら、無意識に視線でスイバを探した。するとすぐに目があった。彼はわずかに目を細めてこちらを見ていた。あまり期限が良さそうじゃない。僕が過大評価を受けているのが聞こえているのかな?

 そう思うと少し胸がズキリとした。だってスイバは誰よりもよく僕の力量を分かっているからね。そんなことを考えていたら、そのスイバが歩み寄ってきた。

「陛下、明日の執務に響きます。そろそろお暇を」

 耳元で囁かれたので、僕は慌てて頷いた。

 それに今日の主役はロードだから、いつまでもここに僕がいても悪いと思ったんだよね。
 それから僕はスイバと二人で回廊を歩いた。
 もちろん一歩後ろにはリュークがいる。

 そのまま私室へと連れて行かれて、やっぱり今日はスイバの家にはいかないんだなって改めて思った。かちりと鍵が回る音がしたのはその時のことだった。

「スイバ?」

 扉を閉めたスイバの右手と、僕の顔の横に疲れている左手。
 その両腕の間で、僕は顔を上げた。

「立っていろ」
「う、うん……?」

 首をひねった瞬間、あっさりと下衣を下ろされた。そして萎えていた陰茎を握られる。突然のことに息をのんだ。

「スイバ……?」

 どうする気なのだろう。そう思った瞬間には口に含まれていた。粘着質な口腔、唇でカリ首を刺激されたかと思えば、艶やかな舌が筋をなぞり始める。僕のそれが立ち上がるまでには、そう時間を要しなかった。

「っぁ……な、なんで、こんな急に……寝台に」
「黙って立っていればいいんだ」
「ン」

 しばらくの間そうして口淫されるうちに、腰の感覚がなくなり始めた。僕はすがりつくように、両手で扉に触れたけれど、無機質な木の感触しかしなくて、何も掴めない。指先が震えた。息が上がり始める。温かいスイバの舌に陰茎が絡め取られ、飲み込まれていく。太ももが震えた。もう出てしまう。

「スイバ、あ、もう僕、あ、立ってられな――……っ」
「出していいぞ」
「あ、あ、ああ」

 そのまま僕はスイバに再び含まれ、放ってしまった。全身の力が抜けていく。

 床に座り込みそうになったが気合でとどまる――だというのに、スイバの舌の動きは止まらなかった。

「ひっ!」

 二度目を放ったのもすぐだ。念入りにねっとりと口淫され、僕は本当に座り込んだ。震える太ももを必死でとじて、スイバの頭を押しやろうとしたのだが、それは虚しい結果に終わった。

「あ、あ、ああ――ッ、ぼ、僕また、ン――っ」

 意識が揺らぎ始めた。グラグラする。立て続けに三度も果てさせられるだなんて辛すぎる。都度都度開放感で体は静まるのに、強制的に快楽が煽られ続けていくのだ。もう無我夢中で、必死でスイバの髪の毛を両手で掴む。しかしスイバの唇はとまってくれない。涙が出てきた。視界に霞がかかる。そのまま何度も何度もイかされ続けて、僕はついに幼子のように泣き出してしまった。

「ああっ、やぁああ、あ、あ、も、もう……ン――!!」

 そして意識を失ったのだった。もともと酔っていたし寝不足だったから、結構限界だったんだよね。だから最後に達したあと、体を泥のような眠気に囚われてしまったんだと思う。

「……ん」

 それから僕は目を覚ました。背後にあるシーツの感触に安堵し、それから正面にあるスイバの顔に理解が追いつかなくなる。僕は眠ってしまったんだと思うんだけど、あれ?

「目が覚めたか?」
「え、あ」
「随分と気持ちが良さそうに寝ていたな」
「ご、ごめん」
「疲れが癒えたのであればいいことだ。なぁ陛下」

 意地悪くスイバが笑って体を揺さぶった。その瞬間、僕は状況を悟った。スイバの陰茎が、僕の中に入っていた。

「え」

 あっけにとられた瞬間、それが動き始めた。

「うあっ、あ――!!」
「随分と楽しそうに話をしていたな」
「え、あ、な、なに? ああああああ」

 ゆるゆると腰を動かされて、僕はきつく目を伏せるしかない。じわりじわりと体中を熱が支配し始める。

「どこの貴族だったか。陛下にぞっこんだったな」
「あ、あ」
「それに対して随分とお優しい顔で答えていらっしゃったな」
「ひぁああああ」
「ああいうのが好みなのか?」
「え、はっ、うあ、あああ、も、もうできないよっ」
「どうだかな」

 スイバがそう言うと激しく動き始めた。僕が理性を失うまでには、そう時間を要しなかったと思う。僕はただスイバの名を呼びながら泣き叫んだ。気持ちよすぎて気が狂うかと思うほどだった。それから多分――僕は今度こそ、気絶した。しかし目を覚ましてもなお、スイバのものは、僕の中へとはいっていた。

「や、やぁもうできないよっ」
「許さない」
「ああああ!!」

 そのまま僕は、意識を飛ばしても眠っている間も、多分問わず、ずっとずっとスイバに貫かれ続けた。体だけがそれを覚えていた。僕の意識が覚えていたのは、スイバの良い匂いと力強い腕だけだ。僕はもうスイバのことが好きで好きで仕方が無かったから、それは本当に幸せだったけれど、体には限界というものがある。快楽の限界値を突破位していたから記憶は曖昧なんだと思う。

 目を覚ましたとき僕は、スイバに抱きしめられて眠っていた。まだ涙は乾いてはいなかった。

「スイバ……」

 気づけばその名を呼んでいた。我ながら声がかすれているのがわかった。

「悪いな、無理をさせた」
「ううん。今、何時?」
「まだ二時だ。深夜まで俺たちは打ち合わせをしていた、これで通る」
「そう……」
「陛下」

 安堵していた僕の頬にスイバが触れた。それから額を額に押し付けられた。

「悪いな、嫉妬した」
「え?」
「礼儀的な愛想笑いだと分かってはいても、お前と楽しく話す貴族の男に嫉妬した」
「スイバ……スイバが嫉妬?」
「悪いか?」
「う、ううん! わ、悪くないよ! 本当? 本当に?」
「……その嬉しそうな顔はなんだ」
「だ、だって……」
「言ってるだろう。何度もな。俺は嫉妬深いんだと」

 スイバはそう言うと僕の後頭部に手を回し、胸に顔を押し付けた。そこから聞こえる鼓動にじわじわと僕の頬は真っ赤に染まっていった。

「――バリスサイト陛下。お前は誰のものだ?」
「僕は、その……」
「言え」
「スイバのものだよ」

 恥ずかしかったからつぶやくように告げた。
 そうそうだそんな、幸せな火曜日も確かにあったんだ。


 だから僕は今でも、火曜日が嫌いじゃない。