近距離恋愛






僕が大陸国王になって三ヶ月が過ぎた。
嘗てが戻ってきたみたいに、スイバは僕の後ろに立っているんだよね。
その事実だけで、僕の頬は緩みそうになる。まずいよね。
謁見の時間だというのに、僕は後ろにいるスイバのことが気になって仕方が無い。
動悸がうるさい。ああ、どうしよう。

「陛下」

その時耳元で、耳障りの良い声がした。視線だけで振り返ると、スイバの唇がすごく近い場所にあった。耳元を吐息がくすぐる。
それだけで僕の体は緊張してこわばってしまった。

「明日のカサブランカからの使者の件、どうする?」

現在では、スイバは僕に対して敬語を公的な場でも使わなくなった。
僕たちの親しさをみんなに見せることは、新たな大きな国にとって良いことであると同時に、距離の近さもはっきりと分かってもらえるようで、気恥ずかしくも嬉しいんだよね。流石に付き合ってるとは公にできないけど、ちょっとだけスイバが僕のものだって言える気がしてさ、嬉しいんだよね。もちろん僕が勝手に思ってるだけなんだけどさ。

「良きに計らえ」
「御意」

頷いたスイバの気配に、結局僕の頬は緩んだ。

「次の案件ですが」
「何?」
「俺と陛下の付き合いはいつになったら公表するんだ?」

スイバがよく通る声で言った。最初は何を言われているのかわからなかった。

「……え?」
「陛下の寵愛を受けていることを、そろそろ公表してもいいか?」
「ちょ、ちょっとスイバ」
「なんだ? 俺を愛しているというのは嘘なのか?」

その言葉に、僕は硬直した。
嘘なはずがないじゃないか。
だけど、だけどだ。
僕は、異性愛者でいまでも通っているわけで……恐る恐る周囲を見渡せば、侍従達が皆動きを止めてこちらを見ていた。見てる、聞かれてる。
ここで否定しなければ、僕の評判は地のそこに落ちるだろう。
だけど、スイバへの気持ちを否定するなんて僕にはできそうにもないよーーそれも愛するスイバ当人を目の前にして。
ああ、どうしたらいいんだろう……。
僕とスイバの関係を公表したら、みんななんて思うんだろう。
一番怖いのは、子供達の反応だ。ただでさえ嫌われているのに、どうしたらいいんだろう。

「何もそこまでかなしそうな顔をしなくてもいいだろう……」
「え、あ」
「そこまで嫌なのか?」
「ち、ちがうよ! そうじゃなくて! だから、その」
「その、なんだ?」
「……良きに計らえ」
「御意」

僕がようやく捻り出した声に、鼻で笑うようにしてスイバが頷いた。
周囲を見渡せば、時が止まったようになっていた。
スイバがその時両手を叩く。

「そういうことだ。陛下の心を射止めたのは、この俺だ。皆、無駄な片思いはやめることだな。この俺に勝てる自信がない限り。無意味な労力を使うな」

すると多くの人々が顔を背けて仕事を再開した。
スイバの言葉の意味はちょっとよくわからなかったけど、なんだかすごく恥ずかしい。そう思っていたら、ぱりんと音がした。
見ればミカエルが、手にしていたグラスを落として割っていた。

「……公表した!? 何故だ! 馬鹿!」

知っていたかのような反応だった。

「スイバ閣下、約束したよな!? 公表しない代わりに新年の渡航を許可すると」
「そんな公的文書を俺は見たこともありませんが?」
「な」
「そばにいて改めて確信した。バリスはもてすぎる。そろそろ俺のものだとはっきりさせておかないとな」
「お前ってどうしてそんなに利己的なんだよ! 大体、俺たちの気持ちも考えろよ! 俺たちの陛下を独占するなんて許されることじゃないだろう!」
「何も聞こえんな」

激昂しているミカエルと、片側の口角を持ち上げているスイバの間には、火花が散っているように見えた。よくわからない。ミカエルはやっぱり国の代表の恋愛は良くないと言っているのかな?
だよね……。

「陛下、陛下のお気持ちは紛れもないのですか?」

その時、そばに控えていたリュークに静かに聞かれた。
再び玉座の間にいた人々が動きを止めた。僕は硬直する。
どうしよう。どうしよう? なんて言えばいいんだろう?
よくわからないよ。だけど、この気持ちだけは本物だから……嘘なんてつけないし、つきたくなかったんだよね。そう考えたらちょっとだけ泣きそうになっちゃった。だけど僕は頑張って笑いながら頷くことにした。だって幸せだから。

「僕は、スイバのことを愛しているよ」

その後には聞きつけたロードが怒鳴り込んできたり色々あったんだけど、僕とスイバの関係は公表された。


今日は、王子たちと一緒に僕はピクニックに来た。
スイバも一緒だ。
王位継承者は議会で決まることになったから、アルメリア地方の自治を今後学んで行く僕の息子たち。昔と違って、今は月に一度くらいあっている。
驚いたのは、スイバが週に一回くらいずつあっているらしいって事なんだよね。
政治学を教えているんだって。

「スイバ、今度はサルサパリラの魔術についてもっと詳しく教えて欲しいんだ」
「兄上、スイバは今度は僕と遊ぶんだよ」

なんだか二人とも、僕よりもスイバに懐いている気がするんだけど、気のせいだよね……正直ちょっと寂しい。
ただこうして四人で過ごすひと時も、僕には貴重だ。

思い返せば本当にいろいろなことがあったけど。
きっとずっと変わらないのは、僕のスイバへの気持ちだ。
本当に本当に愛しているんだよね。それに。
これからも近距離恋愛を続けて行きたいんだ。