【番外】頭痛薬(粋龍&狐塚)





 今は、二人で黒麦を待っている。黒麦を本名の若葉くんと呼ぶようになって久しい狐塚は、目の前の同席したいわけではない粋龍(こちらは師匠呼びを続行中)を見据えた。気怠そうにしている粋龍は、窓の外ばかり見ている。見ているからといって待ち人の到着が早まるわけではなかろうに。

「あー」

 その時、粋龍が呻いた。何事かと、狐塚が首を捻る。

「どうしたん?」
「頭痛がする。頭が痛い。頭痛が痛いと表現できるレベルで痛む」
「ズキズキ系なん?」

 少し聞き及んだ限り、いつも師匠は、締め付けられるような頭痛が多いようだと、狐塚は判断していた。だがそういった慢性的なものであれば、粋龍は黙っている事が多いというのも、同じくらいにはよく知っていた。一応、粋龍ともまた、そこそこの付き合いをしている。友達ともまた違うのだろうが、他に表現する言葉もない。元、恋の好敵手というのは、不可思議な関係性だ。

「ああ。持って無ぇんだよ、頭痛薬」
「俺、持っとるよ。あげようか?」
「悪いな。頼む」


 珍しく愁傷に言われた為、狐塚も素直に頭痛薬を取り出した。シートをそのまま、カバンのポケットに突っ込んであった。狐塚は狐塚で、時折偏頭痛に襲われる場合がある。風邪では無いが頭痛がするというのは、レトロなPC画面を長時間見た後などに多いから、眼精疲労なのかもしれない。

 受け取った粋龍は、それを口に含む。

「胃薬は持ってきて無いんよ」
「いらん」

 飲み込んでから答えた粋龍を見て――しかも、横にあった水ではなくアイスコーヒーの方で飲んだ相手を見て、狐塚はポカンとした。若干笑みが引き攣る。

「いやいやいや、水で飲まへんと」
「腹に入れば同じ事だ」
「違うやろ。胃に悪すぎる」

 この――粋龍の、オフラインでは存外、自身の体に鬼畜すぎる部分が、根が良い人である狐塚からすると、心配極まりない。当初こそ、何故ライバルの心配をしているのか自分が謎だったが……粋龍は、些細な所でいちいち不健康なのである。

「なんか頭痛って、痛み止めでピタッと止まる系と、止まらない系が無いか?」
「ある。ただ俺は、ほぼピタっと止まる系しかないんよ」
「ふぅん」
「若葉くんが来る前には、治まると良いやんね」
「ああ。既に効いてきた気がする」
「それ完全にプラシーボやん」

 苦笑してから、狐塚はアイスのキャラメルマキアートを飲む。体が、冷たい甘味を欲している気がして注文した代物だ。頭痛薬よりは圧倒的に、体が要求する場合が多いのは、甘味だ。決して甘党では無い。それだけ疲労しているのだろうと、狐塚は考えている。

「狐塚、お前は最近、仕事はどうなんだ?」
「多忙。その一言に尽きるわ。やから、貴重なお休みやし、若葉くんに会いたかったんよ。師匠じゃなく」
「知ってる」
「師匠達の大学はどうなん?」
「まぁまぁだな。このテスト期間さえ切り抜ければ、残るは夏休みだ」
「羨ましい。学生の特権やと思うよ。夏休みの存在」
「俺は、夏期休暇が存在しないようなブラックな仕事にだけは就きたくない」
「うっさい」

 そんなやり取りをしながら、二人で黒麦を待つ夏の午後。
 長閑だった。